第20話     スタージュになるチャンス!

文字数 1,794文字

「これだけ」
 琢磨は、デザイン画を男性ディレクターのアランに見せた。
 アランはいかにも美意識の高いゲイ独特の仕草で、琢磨のデザイン画を見た。
 その表情は、かなり不満そうだった。
 琢磨はアランの機嫌を取る為に、持ってきた裕翔のデザイン画を見せることにした。
「いや、実は他にもあります」
「じゃあ、出して頂戴」
「はい、わかりました」
 琢磨はさっき出した自分の物ではなく、裕翔のデザイン画を出した。
「う〜ん、さっきのよりいいわね」
 不機嫌だったアランの態度が、急に変わった。
「あの、作品もあります」
「じゃあ、見せてくれる」
 琢磨は裕翔の作ったレディースのドレスを三点ほど見せた。
「これ、いいじゃない。綺麗に縫えているし」
 アランはフィッティングモデルを呼んで、ドレスを着せた。
「ステキだわ、凄く可愛い」
「そうですか?いや嬉しいな」
 琢磨は喜びのあまり、声がうわずっていた。
 アランはその中の一つのドレスを指差して言った。
「ああ。このドレスのデザイン画を書いてみて」
「ええ、ここでですか?」
「そうよ、道具は全てあるし。嫌なの?」
「いえ、わかりました」

 琢磨は書き始めたが、緊張で手が震えていた。
 一枚描き上げるのに、30分程かかった。
「ふうん、このドレスは君のデザインじゃないわね」
「僕のです」
「あなたが作っていないでしょ!」
「いいえ、そんなことはないです」
「よく見ると、実物とデザイン画のディティールが違うのよね」
「そんなことありません。僕が作りました」
「デザイン画もこれは動きがあるけど、こっちはなんかトレースしているみたいで硬いのよね」
 琢磨は見破られたことで、手が汗ばんできた。
「そうね、これを作った人ならコレクションの間のアルバイトで雇ってもいいかな。ねえ、友達なんでしょ」
 琢磨は、仕方なく観念して頷いた。
「あの、僕はどうですか?」
「いいわよ、その代わり彼を連れてくること。但し、コレクションの準備の期間だけのアルバイトだからね」
「わかりました、明日彼と一緒にきます」
 
 アパルトマンへの帰り道、アランに全てを見抜かれていたことに琢磨は困惑した。
 デザインの盗用も見抜かれた上に、単身でパリに来てはないこともわかっていた。
 このままでは、この後採用されたとしても肩身が狭い。
 なんとか対策をしないといけないと思った。
 
 部屋に戻ると裕翔が、語学学校から戻ってきていた。
「おかえり、朝早くからどこいってたの?」
「メゾン」
「どこの?」
「ギィードゥ・ヴァン」
「何でいったの?」
「アルバイトの面接」
「それで?」
「2人共採用だって」
「本当なの?」
「ああ、但しコレクションの間の忙しい期間だけだよ」
「それでもいいよ。嬉しい」
 裕翔は、感激して琢磨に抱きついてきた。
「ねえ、どうして採用されたの?」
「マレのバーでギィが客としてきたのさ。だから雇って欲しいと頼んだら、面接に来いって言われて。今日いってきたらOKが出た」
「それで、いつから?」
「来週からだよ。明日、裕翔と面接をしたいってさ。どうする?」
「行くに決まっているだろう。一緒に行ってくれるよね?」
「ああ、もちろんさ。付き合うよ」
「やった〜!じゃあ、乾杯するのにシャンパン買ってくるね。それとつまみの食べ物もね」
 裕翔は、鼻歌を歌いながら買い物に出かけて行った。
 琢磨は裕翔のデザイン画で決まったとは言えなくて、持って行った作品とデザイン画を戻ってくる前に元の場所に戻した
 それから、琢磨は裕翔と一緒に、憧れのメゾンで期間限定のアルバイトとして働くことなった。
 
 コレクションの準備のメゾンは、慌ただしかった。
 この時期のメゾンは猫の手も借りたい程忙しくて、帰りは深夜になることも多かった。
 2人の仕事は、服の仮縫いやサイズの直しをすることが殆どだった。
 働きが認められれば、スタージュとして雇ってもらえる可能性もあった。

 裕翔には言葉の壁があったが、忙しいながらも仕事にやり甲斐を感じているようだ。
 素直でどんな仕事でも笑顔で働く裕翔は、皆からの評判も良かった。
 憧れの老舗メゾンでの仕事は、希望してできる訳ではない。
 ギィにお礼を言いたかったが、忙しくて彼とは会えなかった。
 働いているアトリエにアランが来ると、琢磨は緊張した。
 もうギィには、この事を報告しているかもしれない。
 琢磨は、アトリエでの自分の立場を確保することに全力をかけた。
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登場人物紹介

上島美樹 フランス大使館に勤める女性で裕翔の幼馴染

中村裕翔  イケメンで美樹とは幼馴染、レディースのファッションデザイナーを目指すがゲイであることに悩む男性

柴崎琢磨  裕翔の恋仲になる美男子だが小柄な男性、裕翔を同じくファションデザイナーを目指している。出世のためにゲイのように装うバイセクシャルだが、マレで有名になる。


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