第63話  守る側の人間 2

エピソード文字数 4,145文字



 ※


 後方から突き刺さる視線。



 俺は気が付かないフリをしながら、紫苑さんと仲良く喋りながら歩く。 


 ったく。誰だよ。俺をストーカーするなんていい度胸じゃねーか。


 この手の輩は今までも遭遇してきたからな。全然怖くないどころか、どうやって制裁しようかずっと考えていた。


 



 暫くして和風な塀がずーっと向こうまである場所までくると、紫苑さんがちょこっと指を差しながら答えてくれる 

ここやねん

 でかい! 塀が高くて中が見えねぇ。

 まるで要塞みたいな大きさに、口が塞がらない。

あ、でもウチは屋敷の外れにある場所に住んでるんよ。こっちこっち

 まるで城門のような玄関だった。その横にはでかでかと「百済組」と書かれた木の表札があった。


 だが紫苑さんはそのまま城門を通り過ぎ、真っ直ぐ行くと、小さな通用口のようなドアが見える。



 紫苑さんは鞄からアクセサリーがいっぱい付いた鍵を取り出すと、ガチャっとドアを開けた。

ささ、こっから入って下さい

 俺は周りをぐるっと見渡してから、紫苑さんに案内され屋敷の中へと入った。

 流石にストーカーもこの中へは入れないだろう。怖い人が住んでいるのは誰が見ても分かるからな。



 俺がわんちゃんに会ってる間に居なくなれば、それに越した事は無いが、どうせなら捕まえてボッコにしたいというのが本音だった。



 マジョリーナちゃんの面会は手短に済まして、さっさと帰ろう。

 本当の任務はそっちなのだから。




 さて、紫苑さんの家なのだが、外れにある場所と言っても普通の一軒屋だった。ささっと玄関に入って、ものの五秒で出てきた彼女の腕にはマジョリーナちゃんが抱きしめられていた。




ほら~マジョリーちゃん。楓蓮さんやで。この前おーたやろ? ごつげに綺麗なおねーさんや
こんばわ~。ああっ可愛い

 めっちゃ匂われてる!

 これはわんちゃんの習性なのだろうな。


 本当はゆっくりとマジョリーナちゃんの相手をしたい所だが……

あ、ごめん
 俺はそう言いながら紫苑さんの前でスマホのラインを立ち上げる。
あ~。ごめん紫苑さん。ちょっと妹が早く帰って来いって、言われちゃった
 もちろん嘘だ。ごめん紫苑さん。
あちゃ~。そっかそっか。ええよええよ。それはしゃーないし。またゆっくり会おうや
ごめんねマジョリーナちゃん。今度ゆっくり遊ぼうね

 マジョリーナちゃんの頭を数回撫でると「じゃあ帰ります」と告げる。

 あああ、もこもこしてて気持ちイイっ!

じゃあまた。今度は土曜日やね。気ぃつけて帰ってね


 紫苑さんとマジョリーナちゃんに玄関先まで見送られると、俺は前を向き歩き出した。


 屋敷が見えなくなると、前を向いたまま一人で歩く。





 すると……やはりというか、誰か俺の後をつけてやがる。


 さぁて。このストーカー野郎め。待たせたな。

 


 ※


 

 俺は平然を装い、とぼとぼ歩く。


 今ここで瞬時に振り返れば、そいつを見れるかもしれないが、警戒しているのがバレるのは……面白くない。



 どうせなら、接近してきた瞬間に一気に腕を掴み、捕らえた方が良いだろう。言い逃れできない証拠が欲しいからな。



 だが……見張られているのは分かっているが、距離を詰めてこない。



 ただ遠巻きに俺を見ている。そんな感じにも思えてきた。

 すぐに接近してくるかと思ったが、様子見か?



 それに……気になるのが、尾行してる奴は一人なのか?


 

 視線が別方向からも感じる。気がする。 



 どちらにせよ鬱陶しい野郎だ。

 とにかくストーカー野郎を捕まえるか、尾行を撒かないと、家に帰れねーぞ。

 



 溜息を付きながら家のマンションを再び通り過ぎる。


 すると今度はマジで華凛からラインが届く。


《遅くなる? もうちょっとしたらおやすみするね》
《もう少しかかりそうだ。あと、寝るときは。スマホに寝ようとした時間を記録しておくこと》
《うん。書いとくね》

 偉いぞ華凛。


 などと思っていると、このストーカーに対し面倒臭くなってきた。



 どうせこのまま帰れないから、呪われたコンビニまで行ってみようか。などと考えつつ、スマホに夢中になってるフリをして―― 


 瞬時に背後へと振り返った。



 すると、ストーカーはやたら反射神経が良いのか、俺が振り向いた途端、一瞬で物陰に消えた。





 だが……今のは見えたぞ。


 水色の髪の先っちょだけだが。



 つまり俺を追い掛け回しているのは、ド本命である竜王さんだな。顔は見えなかったが間違いない。


 ちなみに男の方じゃない。確実に長いロングだった。


参ったな……

 ストーカーの正体が分かると思わず、ふふっと笑ってしまった。

 中々の尾行レベルだったが、あっさりと引っかかったな。



 そんな目立つ色だから、あまり尾行には向いてねーだろと思いながら、今度はどうしようか考えていた。



 瞬時に隠れたのなら、俺には見つかっていないと思っているのだろうか? モロに俺に見られたと思うのなら、そのまま近寄って来てもおかしくないし。


 

 そのまま歩き、大きい国道を渡ると再び喫茶店が見える。

 店の電気が消えてると、この辺りは凄く薄暗くなる。






 と、俺はこの辺りで気がついた。


 先程まで俺を付け回していた竜王さんがいない事に。



 気配が感じられなくなると、普通に後ろに振り返るが、特に変わった様子は無い。もしかして尾行するのを辞めたのだろうか。


 複数いた気もするが、今ではその気配も感じられなくなってしまった。


  

 まぁいっか。本当なら捕まえたかったが、諦めてくれた方がありがたい。

 そんな事を考えている間に、呪われたコンビニ前に到着した。

あぁもう……またお前らがいんのかよ

 思わずガクっと顔を落としうな垂れる。


 と言うのも、コンビニ前にたむろしてるのは、ヴァルハラメンバーだった。


 ったくお前ら。ヒマな奴らだなほんと。



 ※


 こいつらがコンビニ前にいるからって、別に普通にしてりゃいい。

 俺は普通にコンビニに入ろうとすると、やはりというか声を掛けられる。


あ、ちわっす! 楓蓮さん
 俺としてはあまり関わりたくないのだが、ヤンキーの内の一人が俺の進路を阻むように前に出てくると、急に大きい声で俺の名前を呼びやがる。

 お前は確か、長髪野郎じゃねーか。

 髪がかなり短くなってるので分からなかったぞ。



 これはもう長髪野郎とは呼べないな。何て呼ぼうか。

 そんな事を考えていると、こいつは再び大きな声を出した。

この前はありがとうございました。お陰で……ほら! 鼻も元通りっす!
 ん? おおっ! 本当に真っ直ぐになってやがる。
そ、そりゃ良かったな

 思わず顔を背けてしまった。というのも俺を羨望の眼差しで見てやがるからだ。

 


 あのな、あの時の俺はてめーを殴りたかっただけで、鼻を治すっていうのはただの口実だったんだけど。



 それをあたかも「治してくれた」と思ってるこいつの目がさ、穢れの無いピュアな瞳してて……マジで困る。


 

 あ、そうだ。

 こいつの名前は「鼻」にしよう。それがいい。

お前ら。ここのコンビニにあんまり迷惑かけんなよ
押忍! 

 お前らがたむろしてて、人が来なくなって、店が潰れたらマジで怒るぞ。とか思っていると、その場にいたヤンキー達が敬礼ポーズを取ってくれた。


 何だこの組織は。俺をマジで女神扱いしてるんだが。マジで止めてほしい





おおっ。なんと神々しい……
俺達の女神はやっぱ。パネーぜ!

おっぱいの成長速度もパネーぜ!


間違いない。楓蓮さんの乳は神乳だ。

ああもう! こんな奴らほっとこう。構うだけ無駄だ

 しかも一般市民からすっげー見られてる。

 

 あんまりこいつらに関わるのよそう。



 世間体にも困ると思った俺は「じゃあな」と言ってコンビニに入ると、自分の飲み物と棒のアイス。そして華凛の好きな「うみゃー棒」を十本ほど購入する。



 そしてコンビニから出る時にもヤンキー達は何故か「お疲れ様っす!」とか言ってくるので、顔を引きつらせながら、暗闇に消えるのであった。

 ※



 後はもう家に帰るだけだ。スマホを見ると既に十一時じゃないか。仕事が終わってから一時間もフラフラしていたのかと思うと自然と溜息が出てくる。



 コンビニで購入したアイスを食べながら、再び大きな国道で信号を待っていた。今日は一体この道路を何往復したのか、そんなつまらん事を考えていると……



おいおい。マジかよ

 マジかよ竜王さん。もうストーカーごっこは終わったんじゃねーのかよ。つまらねーし、こんなの辞めようぜ。



 さすがに温厚な俺もプチっと来ちまった。帰る気満々だっただけに、無性に腹が立ってくる。


 こりゃ彼女をふん捕まえねば気が収まらなくなってきたぞ。 



 程なく信号が青になり、大きな国道を渡ると、俺はいつもの道ではなく、国道沿いに歩いてゆく。



 横目で信号が点滅するのを見届けてから、気配が一気に近寄ってくるのが分かる。うん。間違いなく俺を付けているな。



 この先にある細い道へと入り、竜王さんが来たのを見計らって、背後から締め上げてやろう。



 そして道路を曲がった瞬間。自販機の裏に隠れて潜んでいると、暫くしてからやってきたのは……




はぁ?

 俺はそいつを見た瞬間、顔が引きつった。

 思わず口に咥えたアイスの棒が落ちそうになる。



 何でお前なんだよ。

 

 そう心の中で突っ込んでから、アイスの棒も口に咥えなおすと、俺はそこから助走無しでそいつの背後へと飛び掛った。

なっ!

 そいつが気付いた時には、既に俺の腕が首元に巻きついていた。

 完璧にチョークスリーパーが入ってから、俺は淡々と告げる。

どういうつもり? ストーカーだったの?
ち、ちがっ
 うむ。中々の顔芸だが、この場合はマジでビビっている顔というのが正しい。


 おれはそいつの目の前に顔を持ってくると、ニコっと笑顔を見せてから、チョークスリーパーを解除した。



 解除した途端、ゴホゴホとむせ返っていた。

 だが、そいつは必死にこういいやがる。


ち、違うんです! ぼ、僕は楓蓮さんが、げほっ
 竜王さんだと思ったが、変な奴が引っかかっちまった。
分かってますよ。魔樹くん

 ったく。どうせお前は、俺が心配で後を付けてたんだろ?



 お前は良い奴だ。

 それは蓮がよ~く知ってるんだから。


 だから俺はお前を……一切疑ったりはしない。

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登場人物紹介

キャラのプロフィールは、章の始まりにも記載しています。


ここに記載されているのは主要人物です。

その他の登場人物は章の始まりなどに記載しています。


読者視点は神視点。

物語の中の人達が知らないことを全部見る事ができます


また、二章からはキャラの心の声まで聞こえます(フキダシが灰色)

 ★ 黒澤 蓮 くろさわ れん


 本編の主人公。高校一年


 男女入れ替わり体質。
 
 弟の凛と共に、新天地で新たに生まれ変わろうと、楽しい学校生活を送ろうとする。友人作りに重きを置き、人との付き合いにはとても慎重である。


 とても弟思いの良いお兄さん(お姉さん)

 ★ 白峰楓蓮 しらみねかれん


  蓮の女性の姿。白峰というのは偽名。

  黒澤家とは繋がりを見せないように演じる。


  心の中は男の子なので、女の子のファッションやらに興味が無い。

  とても美人なのにあまり自覚がなく、女性の姿はオマケだと思っている。

 ★ 黒澤 凛 くろさわりん


 小学校六年生


 男女入れ替わり体質。

 

 兄である蓮を慕い、とっても素直で女の子のような性格。
 ことある毎に兄に甘えてしまい、いつまで経っても、子供のままなので、蓮は凛の将来をとても心配している。



 ★ 白峰 華凛 しらみねかりん


 凛の女性の姿。

 外部との接触が無いので、彼女の存在を知るのは家族だけ。

 楓蓮と違い、おしゃまさん。


 ★ 美神聖奈 みかみせいな


 高校で蓮と同じクラスとなる。実は小学四年生までの幼馴染。


 容姿端麗。成績優秀。運動神経抜群。リーダーシップ抜群。お金持ち。

 など、全てを兼ね備えている人。


 二人目の主人公。

 ★ 白竹 美優 しらたけ みゆう


 蓮と同じクラスとなる。ピンクの髪が目立つ美人。

 自分の家の喫茶店で働いており、メイド服で接客をこなす。


 学校と喫茶店では、雰囲気がまるで違うのには理由があり……

 

 三人目の主人公。 

 

 ★ 白竹魔樹 しらたけまき


 蓮の隣のクラス。美優は双子の姉弟。


 学校ではとてもクール。喫茶店では男の娘?

 双方を知る蓮にとっては、非常に疑問な人物。


 四人目の主人公

 ★ 染谷龍一 そめやりゅういち


 蓮と同じクラスとなり、前の席という事で付き合い始める。

 わりと積極的。学校ではいつも笑顔で誰にでも優しいが……

 

 五人目の主人公

 ★ 平八 へいはち 


 聖奈専属の運転手。

 黒澤家の秘密を知っており、蓮の親である麗斗(れいと)とは旧知の仲



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