第17話  父との再会

文字数 1,695文字

「琢磨、酉の市に行くぞ」
「父ちゃん、嬉しいな」
5歳になった琢磨は、父親の修二と手を繋いで神社に向かった。
 道は酉の市に行く人で、いっぱいだったので琢磨は肩車をして貰った。
「もうすぐ神社だから。お参りしたらなんでも買ってやるぞ」
「うん、わかった。父ちゃん綺麗だね」
 初めて行った神社は、見たことのないような数の提灯が飾ってあった。
 熊手を飾っている店の照明が、紙でできた金色の小判に反射してキラキラを輝いていて、琢磨には眩しかった。
「大将の息子さん、かわいいね」
「これ貰うよ。去年より少しデカいよな」
「その通り。そうこなくっちゃね。せーの」
 二人は三三七拍子で手を叩いた。
「これは、ぼうやへのご褒美だ」
 男は千歳飴を琢磨に渡した。
琢磨は修二に肩車をしてもらい、熊手を手に持った。
「落とすなよ琢磨。これでお金と幸せをかき集めるんだよ」
「これで?」
「そうだ。お前の母ちゃんは顔は綺麗だが利口じゃない。家事もできないし、金の管理もできない。だから父ちゃんは苦労したよ」
「ふうん。でも、おいらは綺麗な母ちゃんで嬉しいよ」
「綺麗な母ちゃんは金がかかるし、男に尽くさないぞ」
「じゃあ、父ちゃんが尽くせばいいだろ」
「こら、生意気言うな」
「ああ、りんご飴だ。父ちゃん買ってよ」
「ああ、買ってやるぞ」
 琢磨は肩車を降りて、りんご飴を舐めながら修二と手を繋いで帰り道を歩いた。
この後、琢磨の父親は家を出ていったまま帰ってこなかった。

 
 琢磨は、母に呼ばれてスナックに顔を出した。
まだ開店前なのに、客が一人いた。
中年の男だった。
カラオケの機械の営業マンかと思ったが違うようだった。
「琢磨でかくなったな、もう二十歳か?」
「父ちゃんかい、なんでここにいるんだよ?」
 琢磨は座っている、父の修二に驚いた。
「お前に会いにきたんだ」
「今更、なに言ってるんだよ」
「これ、お祝いだ」
 父親はセカンドバッグから茶封筒を出した。
 封筒の中には、紙帯の着いた一万円札の札束が一つ入っていた。
 金額は百万円だった。
「父ちゃん、これどうしたの?」
 琢磨は怪訝そうに修二の顔を見た。
「やばい金じゃない、昨日の競馬で当てたのさ」
「なら、自分で使いなよ」
 琢磨は札束を茶封筒に入れて、修二に突き返した。
「そう言うなよ。親らしい事を、何一つしてこなかったから詫びのつもりだ」
 修二は、再び茶封筒を琢磨に握らせた。
「琢磨、使わせてもらいなさいよ。パリに行く旅費の足しにすればいいでしょ」
 そう言いながら、母親の優子はライターで修二のタバコに火をつけた。
「ファッションデザイナーになるんだってな」
「ああ、夢なんだ」
「お前ならできるさ、俺の息子だから」
「あら、それじゃなおさら無理だわ」
 優子はダメ出しをしながらも、修二の行動に嬉しそうに目を細めていた。
「久しぶりなんだから、少しは褒めてくれよ。これはお前の分」
 父親は、もう一つの茶封筒を母親に渡した。
「あら、嬉しい」
 中身は同じく紙帯のついた札束が一つ入っていた。
「お礼に奢るわ。ビールでいい」
 三人は、ビールで乾杯をした。
 
 琢磨が、父親と会ったのはこれが最後になった。
 母親の優子が言う話では、離婚の原因は父親がギャンブル依存症で、借金を作っていた為だ。
 別れた後、修二は再婚をしたが子供はいなかった。
 その頃には、修二はギャンブルをやめていて、真面目に土方仕事で働いていた。 
 修二の体は悪性リンパ腫に蝕まれていて、すでにステージ5で余命は3ヶ月だった。
 競馬で一発当て、その金を手見上げに息子に会いに来たのだ。
 その数日後に、修二が死んだと優子の店に内縁の妻から電話がかかってきた。
 二人に会った後、『思いが叶ってもう思い残すことはない』と嬉し涙を流していたと。
 たとえ、自分を捨てた父親でも、もう二度と会えないことが琢磨には悲しかった。

 その晩店に出た琢磨は、店のスタッフに父親の死を伝えた。
 元気のない琢磨を見た歌手志望のボーイの一人が、ピアノの演奏者に頼み琢磨の為に歌を歌った。
 『プティフルール』を悲しげに歌う声に、琢磨の目は涙でうるんでいた。
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登場人物紹介

上島美樹 フランス大使館に勤める女性で裕翔の幼馴染

中村裕翔  イケメンで美樹とは幼馴染、レディースのファッションデザイナーを目指すがゲイであることに悩む男性

柴崎琢磨  裕翔の恋仲になる美男子だが小柄な男性、裕翔を同じくファションデザイナーを目指している。出世のためにゲイのように装うバイセクシャルだが、マレで有名になる。


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