Good Luck!
文字数 1,990文字
入学してわかったんだけど、うちの高校、ヒエラルキー? が半端ない。
普通科と商業科と調理科があって、普通科は1組から7組まで。
中高一貫の1組は別格、あとは入試の得点順に2組から7組に割り振られている。
食堂のテーブルも暗黙にクラス分けされていて、窓際の広々としたテーブルは1組と2組のエリアだった。
そんなこと知らない私と美月 が、そのテーブルで100円うどんを食べていたら、斜め前に居たクソ眼鏡男が「君たち何組?」って。
あ、美月というのは、入学早々意気投合した中野美月。
美月が「5組だけど」と答えると、そいつは「ここのテーブルは1、2組専用」って言ったあと、ごにょごにょと「格下は向こう」って。確かに聞いた。
「私は5組の山田莉子 。あんた、なん組のなんて名?」
詰め寄ったらそいつ逃げやがった。
その日の放課後、私と美月で1組2組を張り込んで、そいつを「2組の工藤雅紀 」と特定したんだ。
1組2組3組は中庭に面した新しい校舎だった。でも生徒はダサい。ギャル決めたうちらのビジュ最高。
「工藤、許さねえ」
「なに様だよ」
すると美月がとんでもないことを言い出した。
「うちら本気出して勉強して2組になって、工藤に圧 かけようぜ」
2年進級時、また成績順でクラス分けされるけども。
「え~無理じゃね?」
「無理かどうかはやってみなきゃだろ、うちらまだ本気出してねえし」
「そうだな、うちら可能性無限大だしな」
二人で職員室へ向かった。
いた、進路指導の古島先生。小柄な爺さん先生。
「先生、工藤を倒したいんだ」
「勝ち方を教えてくれよ」
先生の目の色が変わった。
その日からだ、古島先生の戦略的受験指導が始まったのは。
文系科目が弱い私と、数学が弱い美月。
モチベが下がるとうちらは2組へ行って、教室の入り口で腕を組み工藤にガンを飛ばした。
***
遊びにも行かず、古島先生に言われるまま必死こいて勉強した甲斐あって、うちらは2年次に4組に上がった。
うちらは3組に上がるつもりでいたから、ちょっと不本意だった。
「なかなか壁は厚いな」
「2組のあいつ、ああ見えて実は凄いのかもな」
さっそくうちらは2組に行った。
工藤を廊下に呼び出し、
「あんたまた2組か、やるじゃん」
「どうやって勉強しているわけ? 教えろよ」
聞いたら個別指導の塾に通っているんだと。
なんだ、金持ちかよ!
金か……
うちらは職員室へ向かった。
「ねえ先生、大学って金かかるじゃん? うち貧乏だったよ」
「うちもだよ」
すると古島先生は、
「なら授業料の安い国公立大学に行け、貧乏なら学費免除されるかもしれない」
びっくりするようなこと言ったわけよ。
うちらが国公立大学?
でも先生の目はマジだったから、私もマジになったんだ。
***
「莉子は何学部に行きたいの?」
「農学部」
美月に話した。
生物が割と好きだし。
それにおばあちゃんが生きていた頃、一緒に畑で野菜や花を育ててさ、そういうの実は好きなんだ。そこの畑には大きなコブシの木があって、春、満開になると夢みたいでさ。コブシは今でも好き。
そういや、おばあちゃんだけだったよ、私のこと「賢い」と言ってくれたの。
美月はスマホでコブシの花を検索しながら「さすがばあちゃん、見抜いてるじゃん」と笑った。
***
私は3年次には3組になった。
工藤も3組落ちしていて同じクラスになったけど、私はもう工藤に興味無くて、志望校判定テストで頭が一杯だった。
美月は4組のままだった。
実は美月は2年生の後半に、恋愛モードに入ってしまったのだ、同じクラスの男の子と。
それでうちらはなんとなく、心の距離ができてしまった。
***
1月15日、16日、天下分け目の共通テスト。
自己採点した結果、私の得点率は53%だった。もっと取りたかった。悔しくてならない。
でも古島先生は「よくやった」と誉めてくれた。
そして私は共通テスト利用で最底辺国公立大学に出願し、現地に行くことなく合格したのだ。
***
高校に合格の報告に行ったその帰り、正門前に美月がいた。
「莉子、大学どこに行くの?」
「岩見県立大学、農学部アグリビジネス科。辺鄙 なところ、聞いたことないでしょ?」
ちょっぴり自虐的に。美月は就職組だったから。
美月はスマホで岩見県立大学を検索した。
大学のトップページに、満開の白い花が映しだされた。
「あ、ね、これ、この木ってさ」
「うん、大学のシンボルツリーなんだって。構内にたくさんあるみたい」
「これって莉子が好きなコブシの花じゃん」
「憶えていてくれたんだ」
「当たり前じゃん! 莉子、この大学に縁があるじゃん、最高かよ!」
「ありがとう。美月も仕事大変だろうけど頑張れ」
「まかせろ、莉子も頑張れよ」
「おう、負けねえから」
春の空の下、うちらは抱き合って泣いた。卒業式より泣いた。
美月のことは絶対に忘れないよ。
うちらは最高、これからもずっと。
普通科と商業科と調理科があって、普通科は1組から7組まで。
中高一貫の1組は別格、あとは入試の得点順に2組から7組に割り振られている。
食堂のテーブルも暗黙にクラス分けされていて、窓際の広々としたテーブルは1組と2組のエリアだった。
そんなこと知らない私と
あ、美月というのは、入学早々意気投合した中野美月。
美月が「5組だけど」と答えると、そいつは「ここのテーブルは1、2組専用」って言ったあと、ごにょごにょと「格下は向こう」って。確かに聞いた。
「私は5組の山田
詰め寄ったらそいつ逃げやがった。
その日の放課後、私と美月で1組2組を張り込んで、そいつを「2組の
1組2組3組は中庭に面した新しい校舎だった。でも生徒はダサい。ギャル決めたうちらのビジュ最高。
「工藤、許さねえ」
「なに様だよ」
すると美月がとんでもないことを言い出した。
「うちら本気出して勉強して2組になって、工藤に
2年進級時、また成績順でクラス分けされるけども。
「え~無理じゃね?」
「無理かどうかはやってみなきゃだろ、うちらまだ本気出してねえし」
「そうだな、うちら可能性無限大だしな」
二人で職員室へ向かった。
いた、進路指導の古島先生。小柄な爺さん先生。
「先生、工藤を倒したいんだ」
「勝ち方を教えてくれよ」
先生の目の色が変わった。
その日からだ、古島先生の戦略的受験指導が始まったのは。
文系科目が弱い私と、数学が弱い美月。
モチベが下がるとうちらは2組へ行って、教室の入り口で腕を組み工藤にガンを飛ばした。
***
遊びにも行かず、古島先生に言われるまま必死こいて勉強した甲斐あって、うちらは2年次に4組に上がった。
うちらは3組に上がるつもりでいたから、ちょっと不本意だった。
「なかなか壁は厚いな」
「2組のあいつ、ああ見えて実は凄いのかもな」
さっそくうちらは2組に行った。
工藤を廊下に呼び出し、
「あんたまた2組か、やるじゃん」
「どうやって勉強しているわけ? 教えろよ」
聞いたら個別指導の塾に通っているんだと。
なんだ、金持ちかよ!
金か……
うちらは職員室へ向かった。
「ねえ先生、大学って金かかるじゃん? うち貧乏だったよ」
「うちもだよ」
すると古島先生は、
「なら授業料の安い国公立大学に行け、貧乏なら学費免除されるかもしれない」
びっくりするようなこと言ったわけよ。
うちらが国公立大学?
でも先生の目はマジだったから、私もマジになったんだ。
***
「莉子は何学部に行きたいの?」
「農学部」
美月に話した。
生物が割と好きだし。
それにおばあちゃんが生きていた頃、一緒に畑で野菜や花を育ててさ、そういうの実は好きなんだ。そこの畑には大きなコブシの木があって、春、満開になると夢みたいでさ。コブシは今でも好き。
そういや、おばあちゃんだけだったよ、私のこと「賢い」と言ってくれたの。
美月はスマホでコブシの花を検索しながら「さすがばあちゃん、見抜いてるじゃん」と笑った。
***
私は3年次には3組になった。
工藤も3組落ちしていて同じクラスになったけど、私はもう工藤に興味無くて、志望校判定テストで頭が一杯だった。
美月は4組のままだった。
実は美月は2年生の後半に、恋愛モードに入ってしまったのだ、同じクラスの男の子と。
それでうちらはなんとなく、心の距離ができてしまった。
***
1月15日、16日、天下分け目の共通テスト。
自己採点した結果、私の得点率は53%だった。もっと取りたかった。悔しくてならない。
でも古島先生は「よくやった」と誉めてくれた。
そして私は共通テスト利用で最底辺国公立大学に出願し、現地に行くことなく合格したのだ。
***
高校に合格の報告に行ったその帰り、正門前に美月がいた。
「莉子、大学どこに行くの?」
「岩見県立大学、農学部アグリビジネス科。
ちょっぴり自虐的に。美月は就職組だったから。
美月はスマホで岩見県立大学を検索した。
大学のトップページに、満開の白い花が映しだされた。
「あ、ね、これ、この木ってさ」
「うん、大学のシンボルツリーなんだって。構内にたくさんあるみたい」
「これって莉子が好きなコブシの花じゃん」
「憶えていてくれたんだ」
「当たり前じゃん! 莉子、この大学に縁があるじゃん、最高かよ!」
「ありがとう。美月も仕事大変だろうけど頑張れ」
「まかせろ、莉子も頑張れよ」
「おう、負けねえから」
春の空の下、うちらは抱き合って泣いた。卒業式より泣いた。
美月のことは絶対に忘れないよ。
うちらは最高、これからもずっと。