第2話 2 サソリ熊

文字数 2,431文字

そのときだった。
こいぬのメルくんが、すごいいきおいでみなの輪にむかって走ってきた。あっというまに輪にとびこむ。そしてカバガエルのコムトムくんにとびついて、いきなり顔をべろ、べろーんとなめた。
「わあ、くすぐったい!、やめろよ、メルくん」とコムトムくんはさけんだが、その顔はうれしそうだった。メルくんは今度は隣の水玉カンガルーのモルアちゃんにとびついて、ぺろぺろーん、その顔をなめた。モルアはきゃーきゃーさわいで、ぴょんぴょん、とんでにげまわる。あっというまに楽しそうなおにごっこがはじまった。
すごいな、とポンバは思った。こいぬのメルくんは最近、この町にひっこしてきたばかりだ。でもすっかりみんなの中にとけこんでいる。

なあるほど、とポンバは思った。ああいうふうにべろーんとお友達の顔をなめればいいんだ。ポンバはゆうきをふりしぼって、よたよたと丘をおりていった。「ぼくだってべろはけっこう長いんだぞ」ポンバはけっこう急坂の丘をおりながら、青紫色のべろを出したり、ひっこめたりしてみた。
ひろばについても、だれもポンバにきづいたようすはなかった。ポンバはたてがみラクダのピートンくんによじのぼると、べろをせいいっぱい出して、びろーんとその顔をなめた。
「ひゃああっ!」、ピートンくんは大声をあげると、顔からポンバをはいでほうった。いきおいよくとばされたポンバは、そばにいたモルアの顔にぺたりとはりついた。
反射的にポンバは、その子の顔もなめていた。「きゃああああっ!」彼女もすごい悲鳴をあげた。ポンバはびっくりして彼女から飛び降りた。モルアはぴょんぴょんと逃げていった。
「わあ、顔がべっとりで、くさくなった!、うえ、ぺっ、ぺっ」ピートンはしきりに顔をこすったりつばをはいたりしている。

「おいおい、どうした」
そのとき、ひろばに低い声がひびいた。サソリ熊のビーダンスケがあらわれた。いまにもはちきれそうな高級スーツのそでからは、ごわごわの真っ黒い毛でおおわれたふというでがのぞいている。その先にはくろびかりする巨大なハサミ。しっぽの先には、まっくろい毒針がぐねぐねと大蛇のようにうごめいている。
いつも家来みたいにサソリ熊をとりまいている、かっぱきづねのギザやうろこぶたのウフォもいた。
「こいつがぼくらの顔をいきなりべろーんとなめたんだ!」とたてがみラクダが顔をしかめながら、ポンバをゆびさした。
サソリ熊ははさみをのばすと、ポンバをつまみあげた。
「おまえ、ひとさまを、なめるなんて、まったくなめるなよ」
爆発するみたいな笑い声が起こった。ギザとウフォが身をくねらせながら笑っている。
「おっ、ばかにするという意味の「なめる」、とべろで「なめる」をかけたんですね、さあっすが!」
かっぱきづねがもうれつないきおいで手をたたいた。
「す、すごいユーモアのセンスだ、さっすが、ビーダンスケさまだっ」とウフォも叫ぶようにいった。
「な、な、なめたら、いけねえよぉー、な、な、なめたらおしおきよぉーっ、イエッ!」
サソリ熊は、ポンバをかかえたまま身をゆらし、とじたはさみでポンバのあたまをリズムよくたたきはじめた。ぺちぺちとけっこういい音がひびいた。
ギザとウフォもリズムにあわせて手拍子をとり、足を踏み鳴らした。
「いい音出すねえ、アメフラシィっ」ビーダンスケがたたくリズムにあわせて、ギザが歌うように言った。
「からっぽあたまはいい音よおっ」ビーダンスケが続けた。
「楽器みたいだ、さっすが、ポンバッ! ビバ、ポンバババ!」とウフォも音にあわせて、ふとったからだをくねらせた。
サソリ熊は調子にのって、もっと強くポンバの頭をたたきつづけた。ペンぺン、ペチン、ペチチチン…
「ぷふっ」と、ギザががまんしきれないようにふきだした。つられたようにウフォもわらった。
サソリ熊はダンスするみたいに、大きなからだをゆらし、楽器みたいにかかえたポンバのあたまをリズムよくたたきつづける。
すると笑い声はひろがって、最後には、広場にいたみんながおお笑いしたようにポンバには感じられた。
ポンバはおどろいた。自分を見てこんなに大喜びするひとたちを見たのははじめてだったからだ。ポンバはよかった、と思った。頭はいたかったけど、こんなにみんなが喜んでくれるのだから…。

そのとき、ぶおん、ぶおん…
深くひびくふしぎな音が聞こえてきた。みな動きを止めた。音は上のほうから聞こえてくるようだ。みんなは空を見上げた。巨大な銀色の飛行船がぽっかりと、真っ青な空に浮かんでいる。鏡みたいに太陽の光を反射して、まぶしくて見ていられないくらいだった。
わああっ、みんな歓声を上げて飛行船をおいかけだした。サソリ熊もポンバをほうりだすと、かけだした。「いてててて…」ポンバはかおをしかめて地面にぶつけた腰をさすった。
飛行船から、なにかがぱらぱらとたくさん、落ちてきた。散る桜の花びらみたいにひらひらと明るい空を舞う。よくみると、紙のようだ。
ポンバはよろよろと立ちあがり、みんなのところに行こうと思ったが、とても追いつきそうになかった。
みんなのすがたはどんどん小さくなって、ついに野原のはてに見えなくなってしまった。
「あれ…」ちかくに紙が落ちていた。飛行船から落ちてきたものだろう。風にのってここまで漂ってきたようだ。
ポンバは地面からメロンみたいにうすい黄緑色の紙きれをひろいあげた。それにはおどるような元気なきれいな赤い色で大きな文字が書いてあった。ポンバは首をひねった。彼はあまり字が読めないのだ。紙切れのはしっこのほうには、なにかわっかのようなものやカップのようなものが描かれている。「なんだろ…これ…」
しばらく大きなぶかっこうな頭をひねっていたが、どんなに考えてもわからないので、その紙をデニムのジーンズのポケットにつっこんだ。
ポンバは丘をのぼり、家に帰ることにした。
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