あるプロテスタント教会のゴミ箱に廃棄された怪文書

文字数 1,262文字

(小学生の女の子が使うような可愛い模様の便箋に書かれたもの)
 
 みんなへ

 わたしがまだ魔法少女だったころ、まだ背中には羽根が生えていなかったし、こんなにも自由に空を飛ぶことはできませんでした。
 空の先生は鳩さんたちです。鳩ってけっこう速いんです。始めは追いつくのに精一杯でしたが、いまでは宙返りまでできちゃったりします。
 空にいるとなんだか地上にいたころが小さいことに思えてきて、それでも朝は子どもたちの声が聞こえてきて――。昼は新しい歌を歌って、夜は辛そうな人に寄り添ってあげて、なんだかんだ新しい生活を楽しんでいます。
 でもできなくなったこともあって、それが近ごろわたしの胸を刺します。大好きなみんなとお菓子を食べること。いっしょに笑うこと。抱きしめ合うこと。
 いっしょに商店街をぶらぶらすること。買い食いをすること。みんなでお泊り会をすること。枕を投げ合うこと。夏にはプールに行くこと。冬の雪の日に雪合戦をすること。たまにはけんかすること。仲直りすること。いっしょに笑うこと。愛しあうことのすべて。
 すべての女の子を祝福しなければならないわたしは、悲しいな、みんなとの思い出も忘れてしまうでしょう。
 だからこの手紙を書こうと思いました。
 この手紙があなたに届くころには、もうあなたは魔法を使えなくなっていると思います。いいえ、世界中の女の子はもう魔法を使えなくなってしまいました。わたしがあんな無茶な魔法を使ったからだよね。ごめんね。
 だから、わたしの力をあげるよ。魔法を失っても生きていくことができるだけの力。女の子が拳だけで戦うことのできる力。みんなが手を手を握って戦うことのできる新しい力を。
 だから、もう泣くのは終わりにしよう。あなたがいつも部屋で泣いていること、知ってるよ。もし涙があなたの目を塞ぐのなら、わたしがその涙を拭ってあげる。あなたの目には見えないかもしれないけど、わたしはみんなのなかにいるんだよ。
 あなたが困っているときはわたしを呼んで。そうすれば、わたしはあなたを助ける。たとえどんなに強い敵でも、わたしたちを倒すことは決してできはしない。
 たしかに魔法を失った少女は弱いかもしれない。奇跡はもう起こらないし、夢も希望もないのかもしれない。でも、わたしたちはその弱さゆえに罪を犯しました。
 だから、あなたが夢と希望にならなければならない。あなたはもう魔法少女ではなく戦士です。自分の足で立ち、自分の手で戦わなければならない。そして魔法を失った少女たちに、道を示してほしい。
 それはとても辛いことかもしれない。それはとても痛いことなのかもしれない。でもどうか忘れないで。あなたの苦しみはわたしの苦しみでもある。あなたの痛みを、半分こするから。
 みんなの仲間は全世界で百二十人です。もともと魔法少女だった女の子ばかりですが、きっと力になるでしょう。
 みんなの活躍を空から見守っています。
 全ての少女たちに、祝福がありますように。

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