プロット A 監督小景

文字数 599文字


    ***

あなたはイライラしている。

もう小一時間も待たされている。

遅れるという連絡はたしかにあったが、

それにしてもすでに半月遅れだ。

待っているのは脚本家。

精確に言えば、その脚本だ。

第一稿を仕上げると言う映画会社との約束の期日に、

まぁ半月遅れるくらいは、ガマンしてくれとプロデューサーは苦笑する。

なにしろ売れっ子だ。

名前さえ出せば客は喰いつく。

全国民の半数は、名前だけで一度は映画館に足を運ぶのだから、

二度、三度と、繰り返し見たくなるような作品に仕上がるかどうか…

は、監督たるお前さんの腕にかかっているんだぜと、

挑発するようなことまで言って脅す。

確かに自分は今まで大したヒット作こそはないが、

映像の美しさと人物像の彫り込みの深さに関しては、

何度か賞も得てきた。

その自分を脚本家が指名してきたと聞かされた時には、

武者震いを、したものだ。

それにしても遅い…。たばこの吸い殻が、もうはや山積みになりつつある。


    * * *


脚本家「おっおっくれて、すいまっせ~ん…」

(ぜいはぁと、ドアに片手をついて上半身を折り、肩で息をしている。)


    * * *


あなたは差し出されたよれよれの脚本を奪い取る。

それを脇からプロデューサーが奪い取る。


    * * *


監督「オイッ?」

プロデューサー「俺にも読ませろ。…コピー取るから、待て。…」


    * * *


がーがーと複製機が回る。

あなたは、いらいらしている…。


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