昔話をイジるな!

文字数 2,083文字

1.
「ぐぅぅぅぅ……蟹や蜂ならともかく、栗や臼にまで襲われるとは……擬人化にもほどがある……」


2.
「えいっ! やぁっ!」
 小さい小さい剣士は針の剣で一心に稽古に励んでおります。
 その時、どこからともなく燕が飛んできました、小さな小さな剣士にとっては燕も危険な鳥、とは言え彼は剣士、縁の下へ逃げ込むのではなく、針の剣を正眼に構えて燕を待ち受けます。
「きゃぁぁぁぁぁっ」
 その時です、燕の背中から小さな小さな姫が落ちてきました。
「危ない!」
 剣士は姫を抱きとめました。
「危ない所を助けて頂いて、お礼の申し上げようもありません」
 金色に輝く髪に湖のように青い瞳……剣士はひと目で恋に落ちました。
 勇敢でりりしい姿に優しいまなざし……姫もひと目で恋に落ちました。
 それだけではありません、剣士にとっても姫にとっても、お互いはこの世で唯一のつりあう相手……。
 二人は結婚し、末永く幸せに暮らしました。
 日本初の国際結婚でございます。

3.
「そなた……名をなんと?」
「お雪……と申します」
「おお、雪のように美しい肌のそなたにふさわしい名だ……」

(アッブネー……うっかり本名を言っちゃった……ニブい男で良かったぁ……)

▽    ▽    ▽    ▽    ▽    ▽    ▽    ▽

「あの夜のことを人に話してはならぬとあれほど言っておいたのに……でも、私にはお前を殺す事は出来ない……」
「そ、そうか、子供たちだな? お雪、お前、子供たちの行く末を案じて……」
「いえ、お前が雨男だから……雪は雨で溶けてしまいますゆえ……」

4.
「なんと! 角力で熊を負かすとは! そのほう、ワシの家来にならんか、士分に取り立てて遣わすぞ」
「いやいや、侍なんて堅苦しいばかりでお前さんの性分には合うまい、こっちに来れば年中裸で過ごせるし、めしも食い放題、強さだけが物を言う世界だぞ」
「おじさんは誰?」
「ワシか? ワシは相撲部屋の親方じゃよ」

5.
「もう……この子は寝てばっかり……もう三年になるよ、少しは働こうって気にならないのかい?」
「おっかさん、その台詞は引きこもりには禁句だよ……」

6.
「お~い、寿限無寿限無五劫の擦り切れ、海砂利水魚の水行末風来末雲行末、食う寝る所に住む所、藪ら小路のぶら小路、パイポパイポ……」
「そこなんだ、おとっつあん、おらぁ自分の名前のそこの所嫌いなんだ、キラキラネームってからかわれるんだよ……」

7
「あっ! ネズミが小僧を齧ろうと……今縄をほどいてやるぞ!」
「あ、和尚さん、ちょうどその角度から見ると立体的に見えますでしょう? そう見えるように描いたんです、もう少し近寄ると平面だって判りますよ」

8.
「この屏風の中の虎が夜毎抜け出ては暴れるので困っておる、どうじゃ、この虎を退治してはくれぬか?」
「お安い御用でございます、お庭の落ち葉を集めて焚き火をしていただければ、その中に投げ込んで退治いたしましょう」
「い、いや……これは大層高価な屏風なのじゃが……」
「これは異な事を……お殿様は家臣の命よりも屏風が大切なのでございますか?」

▽    ▽    ▽    ▽    ▽    ▽    ▽    ▽

「先日は一本取られたな……この襖絵の獅子が夜毎抜け出ては暴れるので困っておる、どうじゃ、この獅子をその縄で縛り上げてはくれぬか?」
「はい、わかりました……では、屏風の中から獅子を追い出して下さいませ、私が見事縛り上げてお見せいたしましょう」
「いやいや、抜け出てからではこの場にいる者に迷惑じゃ、そなたが屏風の中に入って縛ってくれぬか?」

▽    ▽    ▽    ▽    ▽    ▽    ▽    ▽

「襖絵の獅子を縛り上げる方法を考え付きましてございます」
「ほう、では、見事縛り上げて見せよ」
「では、硯と筆をお貸し願いとうございます……」

9.
「ああっ! 饅頭だ! 怖い怖い、怖いから食べて目の前から無くしてしまおう、これはこし餡だな、なんとつややかで滑らかな餡だ、これは特に怖いぞ、これは酒まんじゅうか、香ばしい香りがあんとも言えずに怖い……」
「おい、あいつ、怖い怖いと言いながら食ってやがるぜ」
「まあ、見てろよ、もうすぐ唐辛子饅頭に手を伸ばすから……」

10.
「よくぞこの三つの難問を解いたな、褒めてつかわす、何なりと褒美を取らせよう」
「……お殿様、白状いたします、私は姥捨ての令に背いて母親を納屋に隠しました、三つの難問が解けたのは母の知恵でございます、褒美としてどうか母をお見逃し下さい」
「う~む……左様であったか……年寄りの知恵とは軽んじられぬものであるな……わかった、姥捨て令は取り下げよう、だが、もう一つ解いてもらいたい難問があるのじゃが、母に訊いて参ってはくれぬか?」
「ははっ……それはどのような難問でございましょう?」
「破綻寸前の年金制度をどのようにしたら良いか、しかと訊いて参れ」

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み