第1話ツリーハウスのお店

文字数 1,547文字

 町外れに大きな(かし)の木が立っていた。

 日当たりのいい芝生のまん中に、繁った枝を四方に伸ばして、葉ずれの音がサラサラと聞こえていた。

 近づいてみると、木の幹に大きな窓があって、窓際には小さな鉢植えの木が並んでいた。

 唐草模様が彫られているドアの前には張り紙があった。

 ~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
 ツリーハウスの店・グリーングリーンへようこそ!
 ただいま内見受付中☆飛び入り歓迎!
               店主 グリンダ・グリーン
 ~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

 ツリーハウスのお店? 私は首をかしげた。

 ツリーハウスで何かを売っているのか、それともツリーハウスを売っているのか、聞いたことのない店に好奇心がわき上がった。

 お店のまわりをながめていると、窓があいて声がかかった。

「こんにちは」

 見た目十代後半くらいの女の子で、パフスリーブのピンクのワンピースに、白いレースのエプロンをつけていた。

「こんにちは」

 私が応えると、少女は可愛らしくほほえんだ。

「内見をご希望ですか?」
「いえ、たまたま通りかかったら素敵なお家だったので」

「まあ、うれしい。そう言ってもらえると、ツリーハウスたちも喜ぶわ」
 少女はポンと両手をうちつけた。

「ここはツリーハウスのお店?」
「そうですよ。私が育てたツリーハウスを売っています」

「育てた?」

 私は聞き間違いかと思って聞き返した。

 ツリーハウスというのは、普通は木の上に建てた小屋などを言うと思っていた。
 建てた、とか作ったと言うならまだしも、育てたとはどういうことなのだろう。

「ええ、そうなの。見てみますか?」
「私、お家、買えないと思うけど」

「あら、いいんですよ。見るだけでも。どうぞ入って来て」
 少女は手まねきすると、ひとりでにドアが開いた。

「それじゃ、おじゃまします」
 私は少しとまどいながら、それでも好奇心にかられて大きな木の幹の中へ足を踏み入れた。

「部屋の中はずいぶん広いんですね」
 思っていたよりも奥行きのあるエントランスに驚いた。

 丸い壁に沿うように家具もカーブするように作られていて、風変わりだけれど可愛らしかった。
丸い絨毯の上には、ボールをくり抜いたような形のソファが置いてあって、低いテーブルの横には、ドアと同じような唐草模様が描かれていた。

「ゆったりしてるでしょ」

 少女は、私よりもすらりと背が高かった。
 ブロンドの長い髪の間から見えている耳は少し尖っていて、もしかしたらエルフ族かと予想した。

 少女は私の内心を察したのか思わせぶりに唇の端を上げて、手を差し出してきた。

「店主のグリンダ・グリーンです。お気づきの通りハーフエルフよ。見た目はこんなだけど、これでも成人してるの」

「そうなんですね、失礼しました。ミャウ(猫人)族のミミ・リーフです」
 クリンダがさしだした手を軽く握ると、彼女はパアッと顔をほころばせた。

「まあまあ、ミャウ族さんとは、はじめてお会いするわ。お会いできて光栄だわ」

 この世界、エルフもドワーフも獣人もいて、あたりまえに平和に暮らしているが、それぞれの生活習慣があるため、住み分けができている。

 エルフ族は多く森に住み、私たちミャウ族は草や低木が多い平地を好んでいる。
 私が住んでいるのは、森に近いところで、その境界あたりにこのお店が建っているのだった。

「売ってるツリーハウスもこのお店と同じものですか?」

 私が聞くと、少女は首を横に振った。
「いえいえ、お客様のご希望にあわせて、色々な間取りが選べます」
「そうなんですね」

「では、モデルハウスにご案内する前に、ツリーハウスの育つところを見ていただきましょうか」

 グリンダは言って、螺旋階段を上った先にある部屋へ案内してくれた。
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