第2話

文字数 1,760文字

「いやぁ、まさかオッケーがもらえるなんて思わなかったなぁ」
少年は頬を赤らめながら、頭を掻く。
「初対面だし、見るからに生きてる人間じゃないのにさ。本当に良かったの?」
「まあ、はい、別に」
前に進んでいく足元に視線を落としながら、小さく呟いて答える。
他人から頼まれたら、私に断る権利なんて無いし。
「えへへ、やっぱり君は優しいね。でも、心配だなぁ。中には君を道連れに…って考える幽霊もいるだろうし、あんまり軽々しくお願いを聞いちゃダメだよ?特に、知らない人の幽霊はね!」
…それ、あなたが言いますか。
「あなたは私を道連れにしないんですか?」
「まさか!好きな人には生きてほしいでしょ」
照れながら発される真っ直ぐな言葉に、私の心臓が少しだけ跳ねる。
「…すみません、一つだけ聞いてもいいですか?」
「あ、うん!何?」
「なんで私が好きなんですか?」
昨日、彼に声を掛けられてからずっと不思議だった。
本当はその場で聞こうとしたんだけど、その後の彼は「えっ、本当!?やった!」
「えっと、じゃあ、その、デートとか…。いや、まだ早いかな?」
「あっ、明日も学校だよね?だったら、一緒に登校したいなぁ、なんて…」
「い、良いの!?じゃあ、明日は迎えに行くから!」
などと興奮気味に捲し立てて、顔を真っ赤にして空に溶けて消えていった。
普段あまり驚かない私でも、さすがに面食らう程だった。
それにしても、どう考えたって彼は明るい性格のようだし、私を好きになるようには見えなかった。
そうすると、単に彼女が欲しかったか、もしくは…。
「そりゃあ、君が優しいからだよ!あと可愛い」
…この人の目は節穴なのか?
私はお世辞にも優しいとは言えないし、顔も可愛く無い。
「それ、本気で言っているんですか?」
思わず疑いの視線を向けると、彼は焦った表情になる。
「あっ、ごめん、気持ち悪かったかな?そうだよね、今の時代、可愛いとかもセクハラに…」
そういうことを言っているんじゃない。
「…気持ち悪いなんて思っていません。セクハラだとも」
「よ、良かったぁ。君はやっぱり優しいな」
「…」
この人の優しいの基準って、下回る人がいない気がする。
っていうか、私というよりこの人がお人好しっぽいな。
だとすると…。
「もしかして、私に告白したのって、私が泣いていたからですか?」
場所が場所だったから、深刻な事態だと勘違いしたのかもしれない。
それで、かける言葉が見つからなくて、咄嗟に付き合ってって言ったとか…。
そういうこと言われたら、自己肯定感が上がりそうだし。
けれど、彼の言葉はどこまでも曇りが無かった。
「え、好きだから告白したに決まってるじゃん!ずっと前から好きだったんだよ!」
「ずっと?いつからですか?」
「君が生まれた時から、かな?」
前過ぎる。
「あなたは一体誰なんですか?」
私のことを生まれた時から知ってるって…。
そう言うと、彼はハッとしたように姿勢を正した。
「そうだ、まだ自己紹介してなかったね!僕はレイ」
「…確かに霊ですね」
「そうじゃなくて、名前がレイなの!レイくん!」
「うん、ごめん。今のはふざけた」
少しだけ口元が緩んでしまう。
すると、彼の顔にぱあっと笑みが広がった。
「やっと笑った!いつぶりだろう、君の笑顔を見たの」
「そんなに久しぶりですか?」
「そうだよ!僕が見ている時は、ずっと無表情だったからさぁ」
「見ている時って、私のことずっと見てたんですか?」
「え?いや、別に、そんなストーカーじゃないし、そこまで見ていた訳でも、まあ、たまたま時間が空いた時にちょっと様子見たりとか、うん、それくらい」
目が泳いでますけど。
でも、それなら十分に私のことも知っている訳か。
だったら、むしろ有難い。
「じゃあ、あなたの前では取り繕わなくて良いね」
デフォルトの無表情で、レイを見る。
「もちろん!僕はそのままの君が好きだから」
「そう」
私は嫌いだけど。
「あなたとは意見が合わなそうだね」
「え〜、なんでそうなるのさ!まだお互いのこともよく分かってないし、これから『あっ、こことか似てるな』とか『こんなところが好きだなぁ』とか…」
「あなたは一方的に私のことを知ってるでしょ?」
「でも、僕のとこは知らないよね?」
「まあ…」
「僕だってさ、君のこともっと知りたいし。だからさ」
レイはニッと私に笑いかけた。
「これから、よろしくね」
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