第1話(1話で完結です)
文字数 1,982文字
おはよう、と言っては泣き、おやすみ、と言っては泣く。
彼は本当に、がっくりきていた。
9歳年下の甥が死んだのだ。
ライヒシュタット公フランツ*。21歳だった。結核だったという。
*ナポレオンと、オーストリア皇女マリー・ルイーゼ(フランツ・カールの姉)の間の子。父の没落に伴い、ウィーン宮廷に引き取られた。
(傍白)
この人は過去の思い出に逃げているのね。(鬱屈)
亡くなるまでの17日もの間*、私は彼を見舞っていない。夫が止めたからだ。
彼はあんなに、私を慕ってくれたのに。
*次男出産の時期。出産前日まで彼女は甥を見舞った
鼻の頭を真っ赤にし、F・カールは、一枚の絵を見ていた。
甥の死後、所蔵庫から出してきた絵だ。
1826年の夏。ウィーンに里帰りしていた
*わが子フランツが幼いうちに彼と離れ、イタリアの領土で暮らしている
皇帝は、気さくに応じた。
口々にそう言って、一行は、あずまやを後にした……。
ナポレオンの遺言執行人たちが、
たとえばこれ。あいつが母親に書いた手紙。
(読み上げる)
「お祖父様に聞かれたので、母上は6月の終わりにお帰りになると申し上げました。でも、大好きなママ。どうか僕のことを、『嘘つき』にして。お願い。5月になったら、こっちに来てよ……」
ベビーベッドで、むずかる声がした。
父親の泣き声で、小さなマクシミリアンが目を覚ましたのだ。
生まれたばかりの息子を抱き上げ、ゾフィーは尋ねた。
上の絵については、こちらに