第10話 ❀ 伏兵カーテン

文字数 1,265文字

メアリーがリンフォード家へ来て、二週間が経ったある日のこと。


ダンスのお稽古が終わったメアリーは、ルークの部屋へ足を運んでみることにした。

(お仕事中かしら? でも早めに話しておきたいのよね)

メアリーは、自分のお腹をさすった。

(あばらの浮いていた私のお腹・・・ようやく人らしい肉付きを得たわね。

 良かった、良かった。それもこれもルーク様のおかげね)

ルークは、こってり系の量のある食事をメイド長に何度もお願いしてくれたのだ。


それも全部「俺の気分だ」と言ってくれた紳士である。

(婚約者の立場で「肉をガッツリ食べたいです」なんて言いにくいもの。ありがたいわ)

カリッと揚げられた鳥肉、じっくりと長時間オーブンで焼いた牛肉、厚い羊肉。


ここのところ毎日、肉祭りだったのだが・・・。

(胃袋は毎日喜んでいると思っていたのに、ちょっともたれたみたいなのよね。

 せっかくのご厚意だけど、肉料理の数を減らしてもらおう

コンコン、と扉をノックする。


どうぞ、と返事がしたので、扉を開けて部屋へひょこっと顔を出した。

なにこれ、暗い…。ここは暗黒星雲?

奥に、ぽつん・・・と灯りが一つ。


そこで、カリカリと書き物をする誰か。

あ。メアリーさん
ほのかな明かりに照らされた、その顔を見たメアリーは。
お化け―――!?
扉をあけたまま、三歩も四歩も後ずさり、廊下に尻餅をついた。
お化けじゃないですよ、ルークです!!

真っ暗闇の部屋から、ルークが出てきた。


尻餅をついたメアリーに手をのばし、彼女が立ち上がるのを助けたが。

…う。まぶしいな。部屋戻ろう
いや、ちょっと待ってください

メアリーは、ルークのセーターをつかんだ。


そのセーターが、にょーん、とのびた。

のびきってる。毛玉もいっぱい。ほつれも…
ええと・・・これは・・・家着というか寝間着というか・・・
寝間着? もしかして寝ていたのですか? 具合でも…?
いえ、いえ。心配なさることは…。仕事をしていただけですよ

部屋に戻ろうとしたルーク。


しかしメアリーがセーターを離さなかったので、のびきったそれがさらにぐにょーんと変形した。

この真っ暗な部屋で仕事を? まるで夜じゃないですか! まず目に悪いです! 失礼しますよ
メアリーはずんずんと部屋へ入ると、締め切ったカーテンを、シャッと左右に引き開けた。
あれ!? あれれ!?

まだ、カーテンがある。


まだある、まだある。めくってもめくってもカーテンだ。

今度こそ最後!
残り、あと一枚だろうと思って開けたが・・・。
伏兵カーテン……いた

白のレースカーテンだ。


それを開けると、部屋のすみずみまで光が届いた。

ま、まぶしい! まぶしいです、メアリーさん! ああっ、窓は開けないで!!
ただの自然光です。・・・窓? もちろん開けますとも!!
メアリーは満面の笑みで、部屋の窓を開け放った。
何年、空気を入れ替えていないのですか
エドガーたちが、定期的に掃除や換気を…。俺が外へ出る用がある時などに・・・
もしや、という考えがメアリーの頭をよぎった。
もしかして、ルーク様は・・・
・・・・・・!!
ルークの顔が、すべてを物語っていた。
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登場人物紹介

シスター・ガブリエラ


本名:メアリー・デイヴィス

ルーク・リンフォード


伯爵卿の息子。

シスター・テレサ


修道女。負傷兵アルバートの手当てをした。

アルバート


 元軍人。顔が怖い。

 戦後、警察官になる。

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