ステージで歌うねこ
文字数 1,513文字
絶対領域は、大盛況になっていた。
ショコラとフワリがお客さんを大量に呼び込んだからだ。
かといって、店内はパニックになったりしていない。
ツクネがテキパキと、みんなに指示を出していたからだ。
「フワリ、カウンター席行ける?」
「はあ~い!」
「おかえりにゃさいませ~♪2名さまですか?少々お待ち下さい!ミルク、ご案内お願い!」
「は、はい!ご案内いたします!」
と、その時だった。
「ステージにご注目くださ~い!」
ショコラが手を上げてステージに立っていた。
そうして、アイドルの曲のタイトルを言うと曲が流れだす。
ショコラは本物のアイドルのように、歌い踊る。
まるでそこは、ライブ会場のようになった。
ご主人様、お嬢様たちは、光るねこじゃらしを振って、コールを言ったり、手拍子をしたりして、みんなが笑顔になっていた。
(す、ごい……)
ミルクは立ち尽くした。
相変わらずショコラのステージは素晴らしいが、今回ほぼ満席のこの店内だから より盛り上がりを感じさせた。
(ショコラさんはやっぱりすごいんだ……)
ボーッと見とれているとミルクは持っていたお皿を落として割ってしまった。
「ほにゃん!ま、またやってしまった……です」
ミルクが慌てていると
「ミルクちゃん~?次はミルクちゃんだよ!」
と、ショコラが、ステージから手招きしていた。
顔は笑顔だが、お皿を落としたことに怒っているように見える。
(ほにゃにゃ~~)
ミルクは泣きそうになりながらも、おずおずとステージに上がる。
(でも!頑張ってここを残すんだから……っ)
ミルクは意を決して
「お願いします!」
と言った。
ミルクの合図で流行りのアニメソングが流れ出す。イントロの間に、フワリがガラガラとトランクをひいて、ミルクに渡す。
ミルクがトランクをあけると、中から大量のお皿が出てきた。
Aメロが、はじまると同時にミルクはお皿を掴む。
『パリン!パリン!パリン!!』
ミルクがお皿を掴んだだけで、お皿が真っ二つに割れた。
曲に合わせて、バンバンお皿が割れていく。
ザワッ………
当然のことながら、店内がザワついた。
突然メイドさんが大量のお皿を曲と一緒にわりはじめるなんて、意味不明にも程がある。
(……きっとみんな驚いてる)
(でも!)
(私の特技はきっとこれだから……!)
サビに入ると、連続でバンバンお皿を割っていく。
その光景に、尚もご主人様たちは固まっていた。
「お、おいおい、あのステージの後で、これ?」
「ていうか、意味が分からないよ……」
「でもなんで、破片とか飛び散らないんだろ?」
「あ、たしかに。妙に真っ二つだし……あれ、あれって……紙皿?!?」
そう。
ミルクが割っていたのは紙皿だった。
紙で出来た皿を何故か、『パリン!』と言う音とともに割っているのだ。
紙皿を音を立てて割る。
あまりにも意味不明、イリュージョンとしか言いようがない状況に、見ている人達が笑顔になっていく。
「なにこれ、面白い……!」
「こんな、メイドカフェ見たことないよ」
「ミルクちゃーーん!」
一気に声援に変わっていった。
「すごい~盛り上がってるう~!ショコラちゃん、よく紙皿もこんな風にミルクちゃんが出来る~って分かったね~~」
「だってお皿を5498枚とかイリュージョンでしょ!たまたま近くにあった紙皿持たせるとどうなるのかなーって思って。やっぱり私天才!」
曲が終わると、みんなから盛大な拍手が、送られた。
けれどミルクは唖然として、状況の理解がすぐ出来なかった。