第7話 おでんを頬張る音

文字数 1,078文字

横浜駅は大規模な工事中だったため、アルミなのか鉄なのかわからない白い板に覆われていた。
その殺風景さが横浜駅から体温を奪い、寒さを助長しているようだった。

しまったばかりのシャッターにもたれかかるように、トラ柄のアウターを着た見るからにギャルが体育座りをしていた。酔いつぶれて、電車に乗れず一夜をシャッターの前で過ごす覚悟を決めているようだった。
私も同じ覚悟ができていた。しかし、あまりにも肌寒かったため近くのコンビニにおでんと酒を買い出しに行った。10分後にはギャルを見かけたシャッターの前に戻ってきた。念のためギャルとは少し離れて座った。おでんの蓋を開き、わざと大きな音をあげながら頬張るように大根を食べた。入れたばかりだったのか、シャキッと音が鳴った。ギャルに反応はなかった。寝てしまったのだと思った。

20分くらいたっただろう。何やらうるさい4人組が私の前を通った。全員が太くて金色の軽そうなネックレスをした。脳の構造が孔雀と同じで、外見だけを我流で磨いた集団だった。私が最も受け入れられないタイプだった。
その集団は、案の定ギャルに声をかけた。ギャルは抵抗し暴れていたが、4人に担がれる形でホテル街に消えていった。あまりにもあっという間な出来事だったので、ギャルが本当に嫌がっているようには見えなかった。
彼女は、シャッターの前で一夜を過ごす覚悟をしていたのではなく、金銭的に無料の宿を探しているだけであった。

いつも終電の時間まで精一杯利用する横浜駅が、1時間遅くなるだけで全く別の世界のものに見えた。怖かった。恐怖を感じたときには、シャッターの前におでんと飲みかけの酒をそのままにし、家の方角に向かって走りだした。
横浜から家までは歩いて7時間ほど。一度歩いたことがあるからわかっていたが、そうせざるを得なかった。

10分ほど走った。かなり横浜駅から離れたので、恐怖もなくなっていた。それ以降は、その日にあったことを一つ一つ思い出しながら歩いた。二つだけ思い出せないことがあった。
右ひじにできた擦り傷と、南さんに彼氏がいるかどうかである。
後者に関しては、ひどく私を悩ませた。南さんだけを考えていた。
たとえ、彼氏がいたらどんな人か。急に、連絡先を聞いたら変だろうか。仮に私と付き合ったとして、客観的に釣り合っているように見えるのか。そもそも、私のことを覚えているだろうか。
気が付くと、3つ先の駅が見えた。シャッターは閉まっていなかった。
ちょうど、始発の電車が見えたので走って乗り込んだ。
始発まで待つのはあっという間だったなと時計を見ると、4時間歩き続けていた。



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登場人物紹介

主人公 たいせい

関東の国公立大学に通う学生

ヨッシー

主人公と同じ大学に通う、学生。主人公とは同学年の部活仲間。

色黒で、よく話す

ユキ 

主人公と同じ大学に通う学生。主人公と同学年で、部活仲間。

色白のイケメン

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