第2話 スラッシュ

文字数 1,039文字

今思うと、友達ができない理由はもう一つあった。
自分が受け入れられないことに対する拒否反応が非常に強かったのである。少し変わった服装をしている人を対して文句言ったり、他人の話を聞いてつまらないと心の中で叫んだりした。
つまり、尖ってたのである。その尖り具合は深刻で、薔薇よりも殺戮的でジーンズも平気で貫通するレモンの棘のようだった。
何が受け入れられなかったのかというと、今までの学校生活の中で地味で話が合わないと考えていたスポーツの経験者たちが、平気な顔して話しかけてくることだ。それもそのはずである。なぜなら、どこの高校もクラスの中で目立つ部活の部員は、せいぜい2割程度。
その陰でひっそりとしていた人たちが全国から集まり、さらには今まで築き上げてきた関係値がリセットされる。
要は、新入生というのは大学を最大限楽しむことを目的にした義勇兵なのである。

市民で他人を受け付けない私が、それを理解するには時間がかかったし、気づいたときには遅かった。もうすでに、グループは出来上がっているし、何しろ義勇兵特有の無理をして話を人に合わせることや、都会に染まることが目的の身の丈に合わない行動や言動を心の底から軽蔑し、かえって尊敬していた。義勇兵たちを見るたびに出る感想は、札幌で婚約指輪を雪の上に落とした新婚女性のために、警察数十人体制で雪の上を四つん這いになって見つけ出したというニュースを見たときの感想と同じだった。


あまりの友達のできなさから活動拠点をネット上に移そうと考えていた。一時期は「#大学辞めたい」で、ツイッターに悪口を投稿し、そのキーワードで検索したどこにいるのかわからない市民らしき人と傷をなめ合っていた。
しかし、入学1か月後には部活動には入部した。このころには、自分の表面を覆っていたレモンの棘が数本折れていたのだろう。
今までやってきたサッカーに似ているフットサル部だ。同学年の部員はすでに3人が入部していた。入部の決め手は、体験入部の後に同学年で行った晩飯会の時に、その3人と話があったからだ。ノリというか雰囲気が高校までの部活の友達と共通する感じがしたからだ。
どうやら、よく話す色黒がヨッシー、イケメンで病的なほど色白なのがユキというらしい。この時、初めて大学に入って「人間」と話した気がした。
と同時に、脳内の人生で出会った人リストの中で、入学から体験入部以前までの期間に記入された名前に縦に長くスラッシュを入れた。


結論、あいつらがおもんない、おかしいのは私じゃない。


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登場人物紹介

主人公 たいせい

関東の国公立大学に通う学生

ヨッシー

主人公と同じ大学に通う、学生。主人公とは同学年の部活仲間。

色黒で、よく話す

ユキ 

主人公と同じ大学に通う学生。主人公と同学年で、部活仲間。

色白のイケメン

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