第1話 お土産

文字数 513文字

「バカヤロウッ」
 親父の拳骨が落ちてきた。
 目がチカチカする。

 なんで叱られたのかが分からなかった。
「隆、京子叔母さんの旦那さん、正一さんは随分前に亡くなっているのよ」
 母ちゃんが言い聞かせるように言った。
 そんな事は知っている。
 大叔母は、ずっと独り暮らしだ。
 僕が遊びに行くと、いつも和やかな笑みを浮かべ、
「タカちゃんが来てくれると、楽しくていいねぇ」
 と喜んでくれる。
 そんな京子おばさんとの、穏やかな時間と、手作りのおやつが嬉しくて、僕はよく遊びに行った。
 今日も、修学旅行で買った茶碗をお土産として届けたばかりだった。
 濃茶と赤茶の飯椀のセット。愉しげに駆ける白ウサギがあしらわれ、可愛いらしい雰囲気が大叔母にピッタリのお土産だと思ったんだ。

「あのね、2つ揃いの茶碗は夫婦茶碗っていうのよ」
 母ちゃんの言葉に、胸がヒヤリとする。

「この馬鹿が。連れ合いが亡くなった京子さんに失礼なことを。明日、ちゃんと謝ってこい」
 親父の冷たい眼が僕を差す。

 どうしよう。
 京子おばさん。にっこり笑って、嬉しそうに茶碗を受け取ったんだよ。
 僕は優しい大叔母に、辛い思いをさせたのだろうか。

 今は、殴られた頭よりも、心臓の方が痛かった。
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