第2話

文字数 802文字

 二日後。再び倉持奈々が交番を訪れた。彼女は何かが乗った四角い皿を持ち、それを高松巡査の前に置いた。
「……これは何かね?」
 困惑した高松は訝し気な目を彼女に向ける。
「見てわかるでしょう? お刺身よ」奈々はあっけらかんと言い放った。
 確かに皿の上に盛られたそれは、どう見ても刺身にしか見えない。所々黒く変色した濃いめの赤をしていて、恐らくマグロのそれだろうと推測される。
「まさかこれも?」高松は恐る恐る訊いた。
「そうよ。さっき四丁目の大東ビルの前で見つけたの」奈々は、前回と同様にあどけない笑顔で答えた。
 四丁目といえばオフィス街の中心部である。そこには和食店はもちろん、ファミレスや喫茶店すら一軒もないはず。何故これがあんな所に落ちていたのだろうと疑問を持たざるを得ない。
「あのさ、生ものは困るんだけど……」
「じゃあ食べろっていうの? 落とし主が困っているかもしれないのに? あのね、警官がそんなこと言っていいワケ?」奈々は目を吊り上げながらいった。
「何か入れ物は一緒に落ちてなかった? おかもちとか、大き目の弁当箱とか、タッパーとか」
 奈々は首を振った。
「ううん。このままむき出しで置いてあったの。道路の脇に」
「ラップもせずにか」
「そうよ。ラップもせずに。そうだ! もったいないからお巡りさんが食べちゃいなよ」
「いや……」それは出来ないとすぐさま断り、これは受け付けられないと突っぱねた。だが、奈々に諦める様子はなく、刺身の乗った皿を置いたまま、強引に立ち去ってしまった。

「これ、どうしましょうか?」高松はパトロールから戻ったばかりの坂野巡査長に相談した。
「仕方が無い。しばらくの間、奥の冷蔵庫にしまっておくか。」板野はぼそりと呟く。「誰も取りに来ないと思うけど」
 言われるがまま、刺身を皿ごと冷蔵庫に入れた高松は、あの倉持奈々という生意気な女子高生から、自分がかわれているような気がしてならなかった。
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