第5話

文字数 894文字

 ピンポーン、インターホンを鳴らす。
「はーい」
「あの、僕」
 そこまで言ってから困った。人間に生まれ変わったと言って信じて貰えるだろうか。
「どちらさまですか?」
 僕は「間違えました!」と言ってその場を去ろうとした。
「もしかして達哉さんの友達?」
 日向ちゃんが首を傾げる。
「ええ、そんな感じです」
 僕も合わせる。「達哉くんに用事があって来たんです」
「おーい、お客さんかあ?」
 ヤバい、気付かれた。達哉くんがリビングから顔を出して、こちらに歩いてくる。そして笑ってから言う。
「どちらさまでしたっけ?あっ、警備員に居たかな。見たことがあるような気がする」
 ビールをかなり飲んでいたので、支離滅裂だ。たぶん僕が誰かに似ていたんだろう。
「あの、日向ちゃんを僕にください」
 ついつい告ってしまった。どうしよう。
 プッっと日向ちゃんが笑う。可笑しなこと言ったかなあ。
「私、結婚してるんですよ」
 それは知ってる。僕は泣き笑いの顔になったと思う。
「達哉さんを愛しているんですか?」
「ええ」
「そうですよね、僕、何処かに消えます」
「そんな・・・そうだ!今日は大晦日でしょ。一緒に飲みませんか?あがってください!ね、達哉さん、いいでしょ」
「ああ」
 僕たちは絨毯の上に座って、みんなでビールを飲んだ。外から除夜の鐘が鳴り響いて聴こえる。気が付いたら年を越していた。
「ハッピーニューイヤー」
 日向ちゃんが言う。
「ハッピーニューイヤー」
 僕も真似して言う。達哉さんが「眠くなっちゃったなー」と言ってクッションの上にスライディングする。僕も初めてお酒を飲んだのでベロベロだ。人間って楽しいな。
 朝起きるとインコの姿に戻っていた。年の終わりに数時間の楽しい思いを神さまがプレゼントしてくれたようだ。
「ピティちゃん、おはよう。昨日、お客さんが来たよー。起きたらいなくなっちゃったけどね」
 日向ちゃんがそう言って「てへっ」と笑う。
「ピー、ピー、ピー、ピー」
「あっ、出たいの?おいでー、初飛びー」
 僕は思いっきり羽ばたいてリビングを10周くらいした。

終わり
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