第6話

文字数 1,031文字

「黒薔薇の君」

ここはバー・シラユリ。その裏の資材搬入口を通って地下三階へ向かうと見える裏の顔は、カジノ・クロバラである。
違法カジノであるここは、客からハラグロカジノなどと揶揄されているが、私はここの雰囲気を気に入っている。
「ハンドは?」「ローヤルマリッジでK7のツーペア」「こっちはロケッツだよ、A7のツーペアさ」「やられた……」
「ヒット」「おいおいやめとけよ」「まだだ、ヒット」「お?まさかまさかの……あッ」「言わんこっちゃないな……」
普通の範囲で楽しんでいる分には、こうして気軽に遊ばせてくれるからだ。
しかし、今日はそのつもりではない。
8億円を詰めたアタッシュケースを、チップの交換所に置いた。
「オーナーと勝負がしたい」

オーナーは妙齢の美女。香水の香りをさせてやってきた。
「いい度胸ね。私と勝負をするにはお金だけじゃいけないのを、知っているかしら」
私は沈黙と視線をその返答にした。
「ふふ。分かっててきたのなら、いいわ。この勝負は、客にも見せるものになるけど、それでいいわね?あなたにとってはイカサマの防止に、私にとってはさらなる稼ぎのタネになるわね」
他人から見えるところではイカサマができず、そして見えることで「この勝負がどちらの勝利か」という賭け事に使えるというわけだ。その条件はどちらも得をするものだった。
「勝負は……バカラで決めましょう。最低金額は100万円。どう?」
それに対して、私は思わず笑ってしまう。
「それは観客に言ったのか」
私の言葉を聞いて、オーナーはその言葉の真意を理解したようだった。
「あら。……ずいぶんと強気じゃない?せっかちは嫌われるわ」
くすくすと笑う姿すら妖艶だ。しかし、
「……8億、プレイヤーに賭ける」
私はオーナーの言葉を聞いて、なお、ゆっくりとチップを置いていった。
「……せっかちなのか、男前なのかは、カードだけが知っているわ。ディーラー」
ぽかんと口を開けていたディーラーが、
「ゲーム開始よ(Shuffle up and deal.)」
オーナーのその言葉に口を引き締める。1度きりの勝負に水はさすまいと、必死にカードを切っていく。
そして。
配られたカードは。

その時、観客たちの歓喜と絶望が轟く叫び声となって現れた。

私は、誰もいない自宅へと、オーナーから贈られた黒い薔薇だけを持ち帰った。
「あなたはあくまで私のもの」という花言葉を持つそれは、果たしてそのままの意味で贈られたものだろうか。
何にせよ、私は既に黒薔薇に潜む彼女の虜だった。
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