第5話

文字数 7,692文字

 ドアを通ると、そこは本当にお店をやっているようで、カウンターやショーケース、小さな丸テーブルと椅子がある、小さなカフェ付きのケーキ屋さんのような空間だった。室内は全て木でできており、近所の公園にあるログハウスを思い出させた。猫脚の丸いテーブルに、太い丸太を掘り出して作ったような椅子が三つ、そのテーブルの上には繊細な絵が施された陶器のティーカップやポット、角砂糖の入った銀の器や、ミルクが入った小さな小瓶まで準備されている。テーブルの中央に、白や黄色のお花の形をしたクッキーが行儀よく並べられている。
「まあ、はじめてここへ来たんだもの。戸惑うのも無理はないわ。何にしても、とりあえず、おすわりになって」
 女の人に促されるように、わたしはリュックを膝の上で抱きしめたまま椅子に腰を下ろした。女の人はショーケースの裏側にいて、なにやらお茶の準備をしているようだった。ショーケースの後ろ壁には棚がいくつも取り付けられており、その棚には様々な小瓶が並べられている。緑色の丸い玉が詰め込まれているものもあれば、透明なピンクの結晶のようなかけらがつめこまれているものもある。よくわからないけれど、小さな綿菓子のようなふわふわとしたかたまりがぱんぱんに詰め込まれているものもあった。小瓶に入った一つ一つがキャンディーなのだろうか。
 ふと気づくと、猫も椅子の上に行儀よく座り込んでいる。青いリボンをしてふさふさとした猫をぼんやりと見ていると、急にあることに気がついてぎょっとした。
 この猫、柄が変わっている……!
 猫の白と黒の模様は変わっていないのだが、その模様がゆらゆらと濃くなったり弱くなったり、あるいは移動したりして、白と黒がグラデーションのように混ざり合いながら変化しているのだ。
 猫の毛並みから目がそらせなくなったわたしは、だんだんと嫌な汗をかき始めていた。
 つい、お店の中に入ってしまったけれど、本当に怪しいところなんじゃ……。
 お姉ちゃんだったら、こんなふうにすぐに知らない人のお店にはきっと入らない。変質者は最近増えていると聞くし、子どもを狙ってくる妖怪やおばけだって、山ほどいるし。
 どうしよう、帰らなければ。でもどうやって? 今走ってここから出ていけば、すぐに逃げ出せるだろうか。大丈夫だろうか。
 今自分が座っている丸太の椅子からドアまでの距離を見定めたり、歩いてきたばかりの細い路地の距離を考えたり。頭の中でぐるぐるとまとまらない思考を続けていると、かちゃ……と、静かに食器が置かれる音がした。音のしたほうを見ると、猫の目の前に銀色のお皿が置かれていた。お皿の中にはなみなみと白いミルクが入っている。
 猫はちらっと横目でわたしを見て、にゃお、と小さく鳴くと、ぴちゃぴちゃと小さな音をたててミルクを飲み始めた。ミルクを飲む口もとやあごの毛色が白くなる。顔の毛色もさっきよりも黒い部分が減っていた。ゆらゆらと白と黒の割合を変えていく毛色だが、全体的に白くなってきているようだった。
「さて……と。まずはお名前から教えてくれるかしら」
 よいしょ、と言いながら、女の人が目の前の丸太の椅子に腰を下ろした。さくらんぼ色の唇が細く横にのびて、エメラルド色の瞳が優しげに微笑む。びっしり生え揃ったまつげまで金色だ。
 金色と緑色……ミモザみたい。
 お姉ちゃんの持っていた本にあったミモザの絵がぱっと頭の中で表れた。本物のエメラルドの宝石のように綺麗な瞳につい見とれていると、猫が彼女の膝をポムポムと叩いて、にゃあおと鳴き声をあげた。
「え? ああ、水沢区三丁目に住んでる彩心ちゃんというの? あ、そうなのね。まあ、最近にしてはお願いするときに珍しくちゃんと住所とお名前も言ったのね。えらいじゃない」
 感心するように、笑顔のまま彼女は大きくうなずき、上品な香りがする紅茶を一口すする。
 しかし、落ち着いているのは彼女だけで、それを聞いて、わたしは心臓が口から飛び出たように感じた。両手で握りしめていたカバンが手汗のせいでずるっと手から抜けて、下にずり落ちた。慌てて、床に落ちないようにリュックを抱え込み直す。
「え……なんで? どうして⁉ わたしの名前と住所を」
「だから。お願いするときに自分で言ったんでしょ? 今ビーネがそう言ったわよ」
 さくらんぼ色の唇を尖らせて、彼女はそう言うと、少し面倒くさそうに頬杖をついた。
「まったくもう。お利口なのかそうじゃないのか、よくわからない子ね。全部わかってここへきたわけじゃないのね?」
「ぜんぶって……」
 何一つ、わからないんですけど。
 何から質問すればよいのかわからず口を閉じたり開けたりしていると、彼女が両手をあげてストップストップと声をかけた。
「わかったわ。まずは説明。そうよね。まあ、わたしが説明している間、お茶でも飲んでちょうだいな。せっかく淹れたのに冷めちゃうもの。ほら、一口飲みなさい、きっと落ち着くわ」
 ほら、早くしないとせかせれて、わたしはドキドキしたまま、言われたとおり、華奢な持ち手がついたティーカップをもって、ひとくち口にふくんだ。まろやかな甘さが口の中に広がり、鼻の奥で優しく控えめになにかの花の香りが抜けていった。
「ね、美味しいでしょう?」
「……はい、美味しいです」
「でしょ? わたしお手製のミモザブレンドの紅茶なの。クッキーにも合うのよ、ぜひクッキーも召し上がってね。そうそう……いいわね、じゃあ説明するわ」
 彼女はそっと立ち上がると、テーブルの上から腕を伸ばして、ミルクをすっかり飲み干して満足気に顔を洗っていた猫をむんずと捕まえた。そのまま膝の上へと持っていく。猫はびっくりしたような顔をして一瞬暴れたが、すぐに諦めたようにじっとして彼女におとなしく抱かれている。
「まずこの子。名前はビーネというの。わたしの名前はシンシアよ。シンシアって呼び捨てで呼んでくれてかまわないわ。気づいていると思うけど、わたし、人間ではないのよ。ちょっとした魔法が使えるの。この猫ビーネはわたしの、お手伝いさんのようなもので……こちらも、お気づきの通り、ただの猫ではないの。わたしが魔法をかけているから。この模様、素敵でしょ?」
 うっとりと白と黒のグラデーションの毛並みをなでながら、言葉を続ける。
「気持ちによって色が少しずつ変化するのよ。真っ白とはいかないけど、白が多くなったときに少しだけわたしはビーネから力をわけてもらっているのよ」
「ちから?」
「そう、力。なんていうのかしら……生きる力っていうのかしらね? とにかく、白が多くなるとポジティブな力が多くなってるってことなの。だから、そういうときにちょこっと力をもらう。こんなふうにね」
 彼女が細い指でそっとビーネの毛並みを撫でると、指先に白く輝く生糸のような細いふわふわとしたものがついてきた。目を見開いてそれを見つめる。ビーネは何事もないようにくわっとあくびをした。
「これを瓶の中に入れる」
 ポケットから取り出した小瓶の中に、シュルシュルと白く輝く糸を落としていく。小瓶のそこで、糸は輝きを失うことなく発光している。
「それから、こんなふうに、魔法をこめるの」
 シンシアが軽く目をつぶって、口元がわずかに動いた。なにか唱えたようだった。そのとたん、瓶の中で白く輝く糸がむわっとほどけて、煙のようになった。シンシアが小さく小瓶をふっていくと、次第に煙が晴れていき、クリーム色のキャンディーが数個、小瓶の中に入っていた。
「できあがり。これは、お腹がいっぱいになれるキャンディーよ。ビーネがお腹いっぱい、美味しいものを食べて幸せ、というときの力を取って作ったものだから。こんなふうに、わたしはいろんなキャンディーが作れるの。あそこの棚に飾ってあるキャンディーも全部わたしが作ったものなのよ。今はビーネの力のかけらだけでキャンディーを作ったけど、いくつかの力のかけらをブレンドして、いろいろなキャンディーが作れるのよ」
 ま、さっきはちょっと失敗しちゃったんだけどね、とシンシアは子どものようにぺろっと舌を出した。
 ビーネはもういいでしょ、というように床にぴょんっと降りると、うーんとお尻を持ち上げて伸びをした。それから窓のそばに近寄り、ちょうど陽があたるところで日向ぼっこを始めた。
「ビーネはわたしに力を分けてくれるだけじゃなく、ときにはお客さんも連れてきてくれるの。今回は、あなたがお客さんというわけ」
「わたし?」
「そ。あなた、なにかお願いをしたんでしょ? ビーネはキャンディーがあれば願いが兼ねられそうな人を見つけて、ここへ連れてきてくれるのよ。で、なにを願ったの?」
「わたし……」
 優奈の本当に気持ちを知りたいって願った……。
 シンシアに見つめられて、戸惑いながらも、わたしは口を開いた。
「わたし、と、友だちの本当に気持ちが聞けたらなって、思って。ちょっと、いろいろあって、友だちが本当は何を考えているのか、わからなくなっちゃって……」
「なるほど。お友だちの本当の気持ちが知りたいのね」
 シンシアは小さくうなずくと、立ち上がって小瓶が並ぶ棚へ向かった。あれでもないこれでもないとつぶやきながら、いくつかの小瓶を手にとっては棚に戻すことを繰り返していたが、やがて、透明な青い小さなキャンディーが入った小瓶を持って、戻ってきた。
「これを口の中に入れて、相手の子にふれると、ふれた子の本当の声が聞こえてくるわ」
 シンシアが小瓶を傾けた。カランコロンと澄んだ音が響いた。透き通った透明な青い小玉は、いつか家族で沖縄旅行に行ったときに見かけた、琉球グラスでできたとんぼ玉を連想させた。
「ほしい?」
ニヤッとシンシアが不敵に笑った。
「ほ、ほしいです!」
「ふふ。じゃああげる。その代わりあなたの力をちょうだいね?」
「え?」
 わたしの力?
 さっきビーネから引き出していた白い糸のようなものを思い出して、途端にぞっとした。わたしの生きる力が奪われてしまうってことだろうか。
 わたしの顔色が変わったのを見て、シンシアは眉をひそめた。
「やだ。ただでもらえると思ったの? そんなわけないじゃない! 何事も対価を払わないと」
「で、でも……」
「大丈夫、安心して。さっきのビーネの様子を見たでしょ? ほんのちょっともらうだけだから、あなたはなんてことないわ。寿命が縮むこともないし、悲しい気持ちになったりもしない。なんでもいいの。幸せなことを思い浮かべてくれたら。そしたら、その力を少しだけもらうだけ。あなたにはなんの変化もないわ」
「ほ、本当に?」
「嘘言うものですか。ビーネを見てみなさいよ、ピンピンしてるじゃない」
 エメラルドの目が呆れたようにわたしを見て、それからくいっと顎でビーネを指した。ビーネは完全にお昼寝しているようで、体をコテンと横に倒して眠っている。ふっくらとしたお腹がゆっくりと上下に動いていた。ぷすう、ぷすう、と小さく寝息まで聞こえる。
「痛くもなんともないわ。すぐに終わる。ほら、キャンディーがほしいんでしょ?」
 もう一度、シンシアが小瓶を降った。カランコロンと揺れる透明な青いキャンディーは陽の光に透けてさっきよりも魅惑的に見えた。
 あれがあれば、優奈の本当の気持ちがわかる。
 わたしは覚悟を決めて小さくうなずいた。シンシアはにっこり微笑むと、そうこなくっちゃ、とつぶやいた。
「じゃあ、始めるわよ。なんだっていいわ、幸せだったことを思い出して。小さな頃の嬉しかった思い出でも良いし、つい最近あった面白おかしい出来事でも良いわよ。目を閉じて、なるべくそのとき感じた気持ちをリアルに思い出して」
 シンシアに言われて、わたしはギュッと目を閉じた。
 幸せだったこと……幸せだったこと……。
 思い出したのは、日曜日、塾のテストで良い点数を取って、先生やお母さんに褒められたことだった。特に国語が予想外に良い点数で、塾の先生からも、国語だけなら今すぐでも上のクラスでもやっていけると言ってもらえた。
「いいわね、いい感じ、いい感じ……。あ、あら、ちょ、ちょっと! ほらしっかり、良いことだけ思い出して!」
「えっ、ああ! ご、ごめんなさい!」
 シンシアの言葉にはっとする。気がつくと、その直後、優奈にトイレまでひっぱって行かれたことを思い出していた。慌てて、違うことを考える。
 次に思いついたものは、優奈が思いっきりわたしの前で笑ってくれた思い出だった。そう、確か、三年生の夏休みだ。夏休み中、学校のプール公開日になると、わたしと優奈はよく二人で学校のプールで一緒に遊んだ。学校なのに、家から持ち込んだ浮き輪でプカプカ浮かんでいるのは特別なことをしている気がして最高に楽しかった。十分プールではしゃいだあとは、お互いの親に内緒でスーパーに立ち寄り、アイスをたくさん買った。たくさん買ったアイスのうち、一つは公園の木陰にあるベンチに二人で横並びに座って食べた。じわじわと汗が出るような暑さの外で食べるアイスは本当に美味しかった。そのあと、わたしと優奈はわたしの家に行き、ガラスのコップに氷をたくさんいれて、冷蔵庫にあったしゅわしゅわとはじけるサイダーをそそぎ、その上にアイスをのっけて、お手製のサイダーサイスという飲み物を作ったのだ。優奈と二人で名付けたサイダーアイスは、まさに夏休みにぴったりの飲み物だった。スプーンでアイスとサイダーが触れ合っているシャリシャリとした部分をすくって食べる優奈は確かに満面の笑みを浮かべていたし、サイダーが小さくはぜるたびに香るフルーティーな匂いは、口の中でつばがきゅっと出てくるような美味しそうな香りだった。
「……うん、よし。いいわよ、目を開けて」
 アブラゼミやミンミンゼミの大合唱の中に次第にひぐらしの鳴き声が響き渡り始め、遠くの空がパステルカラーな紫に染まり始め、空気の中から少し熱気が引いてきて……と、夏休みの日が夕方になっていくところまで想像していたわたしは、目を開けても一瞬どこにいるのか、よくわからなくなっていた。
 金色の巻毛をふわふわと漂わせ、満足気にエメラルドの瞳を細めて小瓶を見つめるシンシアを見て、やっと自分が、キャンディーをもらうための対価を支払っていたことを思い出した。
 シンシアの手の中の小瓶には、とろとろに光るはちみつをかためたような、金色のかけらが入っていた。あまり綺麗な球体ではなく、ところどころとんがったり、へこんだりしている。
「これが、わたしの?」
「そうよ。完全な幸せであればあるほど、形は丸くなるの。でも、人間で完全な球体だった人はほとんどいないわ。なんでだかわかる?」
「え、さあ……。わからないです」
「んもう、ちょっとは考えなさいよ。人間はね、いろんなことをいつも考えちゃうからよ。幸せに感じてもすぐに未来にあるかもしれない不安なこと、過去にあったこと嫌な出来事を思い出しちゃうの。あとは……幸せだったと思えるためには、不幸だったことがなくちゃいけないのよ。わかる? 不幸せだと深く感じたことがある人ほど、純度の高い幸せを感じられるのよ」
 シンシアは目をきらきらさせながら、小瓶の中身を見つめていた。その様子を見て、ぞわっと鳥肌がたった。改めて、横に微笑んで立っているシンシアが自分とは全く違う考え方をもつ、不思議な存在だと感じたのだ。
「ふふふ。これで新しい美味しいキャンディーが作れるわ。ありがとう、彩心ちゃん。はい、じゃあ約束通り、これあげる。手、出して」
 言われたとおり両手を差し出すと、アクアグリーンに塗られた爪から、小瓶が離れて、わたしの手の中へとおさまった。
 ひんやりとした小瓶の中には、透明な青い小さな球体が3つ入っている。
「口に含んで、本当の気持ちが知りたい相手にふれるのよ。声が聞こえたら、すぐに口の中でキャンディーはとけてなくなっちゃうから、一粒のキャンディーで声が聞こえるのはせいぜい一人か二人よ。あと、今は三粒あるけど、必要ない、もう使わないと彩心ちゃんが思ったら、すぐになくなっちゃうから。気をつけてね」
「あ、ありがとう……」
「いいえ、こちらこそ、ありがとう。帰り方はわかるわね? 一本道だもの、平気よね。じゃあ、また会えたら面白いわね」
 シンシアがにっこり微笑んで立ち上がった。気がつくと、テーブルの上にあった紅茶やクッキーはなくなっていた。驚いてテーブルの上を見つめ、それからシンシアを見上げる。シンシアはなんでもないように微笑んでいて、お店のドアまでお見送りするわ、と歌うように言った。
 おずおずと立ち上がり、受け取った小瓶をリュックの前にある小さなポケットにしまった。それから、リュックを背負い直した。お店から出て、一本道が伸びる方向へと歩きだす。細い路地に足を踏み入れる前、最後にもう一度振り返ると、シンシアは変わらずわたしに手をふっていて、シンシアの足元ではビーネがおすわりをしながらしっぽをゆらゆらと揺らしていた。
 どきどきする心臓を抑えながら、最後にもう一度シンシアたちに挨拶のつもりで小さくお辞儀をして、路地へと一歩踏み出した。苔が生える細い路地を抜け、ゴミ箱があるカーブを抜ける。すると、道の先に縦に伸びる白い光が見えてきた。白く輝く割れ目からぼんやりと外の世界が見えた途端、自然とわたしは走り出していた。
 細い路地から飛び出すと、視界が急に明るくなって、一瞬何も見えなくなった。何度か目を瞬く。ようやく目が慣れてくると、いつもどおりの駅前の景色が広がっていた。 
 人々の話し声と車のエンジン音の中に、カッコウとひよこの鳴き声が大きく割り込んでくる。その後ろでスーパーからかすかに、夕方五時から始まるセールを知らせる音楽が流れている。
 はっとして時計を見る。シンシアのところに少なくとも五分以上はいたはずなのに、時間は路地に入った頃からほとんど変わっていないみたいだった。
 塾に行かないと。
 そう思って、とりあえず早足で歩き始める。歩きながら、さっき自分に起こった夢のような出来事を思い返す。豊かな金髪の巻毛に、綺麗なエメラルド色の瞳を持ったシンシア。色や柄がゆったりと変化していた猫のビーネ。朝露に濡れて輝く蜘蛛の糸のようだった、ビーネから取り出した力。アクアグリーンのシンシアの綺麗な爪から、落ちてきた小瓶。青くて透明な小さなキャンディが入った小瓶。
 そうだ。小瓶、キャンディーは……!
 心臓を大きく鳴らしながら、リュック前についている小さなポケットを触る。硬いものが手に触れる。
 あ、ある。本当にある!
 興奮でさらに心臓が大きく鳴った。高まる鼓動はそのまま足に伝わっていき、はや歩きから小走りへ変化し、それも次第に息が切れるほどの全速力に変わった。
 わたし、ミモザの神さまに会っちゃった!
 心の中で大声で叫んだ声は、わたしの体を通り抜けて、オレンジとピンクと紫が重なり合う空へと響いた気がした。
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