第1話

文字数 1,017文字

 「山形県民より東京の人の方がよく歩く」。山形から東京へ出かけて帰って来た人達からよく聞く話だ。自分も山形県庄内町に住んで12年になるが、成る程と思う。
 通勤、買い物は全て車で、door to door だ。しかも駐車場が完備されているから、建物の扉から車までもがすぐそこである。飲み屋も然り。帰りは運転代行の運転手が店の中まで車の鍵を取りに来て、店の駐車場から飲み屋の玄関まで車を回してくれる。店の玄関から車まで10歩しか歩かない事すらある。
 不動産の広告などの「徒歩1分」は距離にすると80mである。自分の住んでいる所から勤務先の病院までが 750m で歩いて9分かかるが、滅多に歩かない。羽田空港の保安検査場Aから羽田-庄内便がよく発着する67番ゲートまでは徒歩で14分もかかる。
 医療講演などで「歩きましょう!」と言っている手前、自分も最近、努めて機会を作って歩くようにしている。
 自分は撮り鉄で、庄内地方の豊かな自然を背景にした鉄道写真が好きだ。
 早朝、5時37分余目(あまるめ)発の羽越本線上りの特急「いなほ」2号をよく撮影する。田んぼと鳥海山を背景に撮るのだが、同じ場所から撮ると、稲の育ち具合によって季節の移り変わりが分かって面白い。庄内町八幡スポーツ公園の端がその定点撮影の場所である。
 そのすぐそばに、サッカー場、ソフトボール場、多目的広場を大きく1周する遊歩道がある。早朝から皆、てくてくとウオーキングしている。何故か歩く方向は皆、反時計回りで、1周に速足で約6分かかる。
 そこで、撮影の準備ができて時間が余った時は、自分も遊歩道を歩くのだ。15分あれば遊歩道を2周はできて、撮影にも間に合う、といった具合だ。
 ところがこれがよくない。人に抜かれるなど論外だ。自分の1/4周前を歩いているあのお婆さんを追い抜けるか?とか、半周先を行く若者との距離をどれ位詰められるか?とか、何かと目標を作って頑張ってしまう。ストレスなことこの上ない。歩くために歩く。自分でも疲れるんですけど…、ふ~。
 そして、中にはわざわざ車を運転して公園まで歩きにやって来る人達もいるのだが、その人達の気持ちが少し理解できるようになった(笑)。

 さて写真は、2018年10月に前述の場所から撮影した、収穫前の稲穂と秋の鳥海山を背景に走る羽越本線の鈍行列車である。

 この時期が「豊穣な庄内」を感じさせる一番いい時期だと思う。
 んだんだ!
(2019年10月)
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