伝説の幕開け、そして閉幕

文字数 800文字

 
 1980年代、世界は米国とソ連による冷戦末期の時代だった。
 そんな中、1940年代に終結した第二次世界大戦で敗戦したドイツは米国とソ連によって東西に分断されていた。西ドイツは米国側、東ドイツがソ連側であった。ベルリンそのものも東西に分断され、それを表す象徴はベルリンの壁であった。亡命者が出ない様にソ連が巨大壁を造ったのである。1980年代末期、東欧民主化革命の混乱期の中、東ドイツは全世界向けの生放送で「11月10日からの旅行許可に関する出国規制緩和」について記者会見する予定だった。しかし、当時の上司から仔細な説明を受けておらず、且つ会議の途中に中座して議事の詳細も知らなかった男はある伝説的発言を口にする。

「ベルリンの壁を含めて、全ての国境通過点からの出国が認められる」

 こうして伝説は幕をあけた。更に記者から「いつから発効するのか?」という問いに対して又もや伝説的発言を口にする。

「私の認識では『直ちに、遅滞なく』です」

 これは男が政令に書かれていた「直ちに発効する」と「遅滞なく」に従ったまでなのだが、これによって歴史が動いた。男の素直さが思わぬ展開を引き起こしたのである。
 まさしく、「その時、歴史が動いた」である。
 この瞬間、東西ドイツ国民はベルリンの壁を叩き壊し、握手し、国歌を詠唱した。時の西ドイツ首相も急遽帰国し、国中がお祝い状態になった。こうして東ドイツは崩壊し、ドイツは再統一された訳である。
 ついうっかりな発言が世界の歴史に足跡を刻んだ。
 その後、男は不遇の人生を送り、晩年は公の場に姿を現さなかった。だが、まさしく彼は西側から見れば英雄だった。
 今日のドイツの繁栄は彼に由来している。
 彼は世を去ったが彼の遺産は今も尚ドイツの中に生き続けている。これは神を信じない共産主義者達に下った神の悪戯だったのか、
 とかく今日もドイツは欧州連合の中心的な立場にある立派な大国だ。
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