26 浜辺で、紗季が崩壊する前に

文字数 2,896文字



もうちょっと遅かったが、みんなはカフェのメニューを考えていて、料理とドリンク自体より主にテーマに合う名称のことだったが話し合って、すると解散前に吉木は女優の『ちはる』のことを言った。少し前に大ヒットした大河ドラマに彼女の着物姿があって、彼女のその写真を拡大して店に貼らないかと友だちの濱口は言った。「やっぱり、君はなんでもちはるだ」
吉木はニコニコした。「え、いいじゃない。今みんなは彼女のファンだ。彼女のグラビアを使ってもいいけどね」

ちはるは十八歳でとても有名な若手女優だ。私が初めて彼女の演技を見たのは二年前の『勝~!チリンと鳴る町へ』の学園ドラマからで、そのあと私の学校でも人気があるとわかった。それは男子だけではなく、女子たちもちはるのスタイルに憧れていた。六月のある朝、教室に着いたとき女子たちは雑誌を見ていて、ちはるのファッション撮影も載っていたらしくて彼女たちの話が聞こえた。「ちはるは百五十四センチだっけ。すごいね、こんなに高く見えて」
「多分彼女の顔が小さいかな」
「そう?私ならこんなジーパンは無理だ」

彼女たちはいっぱいちはるのことを話していて、それは彼女の噂の彼氏やドラマのこととかだった。ちはるの上半身は水着じゃなくて、カジュアルな服装でも『目立つ』と思ったが、女子たちが全然言わなかったのでだめなことを考えまくったのは私だけせいじゃないか。

漫画や雑誌などを学校に持ってくるのは学則違反だけど、授業中に出さないと問題がなかった。そういうわけで私は二つ、三つの雑誌のなかに『bestie』という雑誌も見た。美月がいつも買うのとは違う雑誌で、朝同級生の女子たちの机を通ったときにチラッと見ると、モデルの顔に馴染みがあったので止まった。「さっきのページ、戻れる?」

そう頼むと、橋本、放送文化部員彼女は捲ってあげた。全身が載ったそのモデルは優雅で背が高そうで、ちゃんと見ると唇の左上に小さなほくろがあった……私はどこで彼女を見たか。そして橋本は言った。「彼女は大八木優奈だ。最近ドラマとかもっと見たね、気に入った?」

「え、いえ」

八月号で彼女はワンピース姿できれいだった。その朝私はすることがないので近くの机の上にすわって彼女たちと雑誌を見ていた。ほかのページにはかわいい水着の四人のモデルがあってなかに藤間穂花ほのかというモデルがいた。さっきの大八木優奈と藤間穂花は私より一つ上くらいで、藤間は十三歳からデビューしたと橋本が言った。藤間穂花の歯が見える笑顔を見るとちょっと妙な感じになったけど、そのページに戻ってほしいと言う勇気がなかった。

毎年芸能事務所、雑誌、アイドルなどのオーディションは複数東京で開催されて、いずれも何千人との競争だった。私の学校にはそんなオーディションを受けた人が二、三人いるとわかったが、最終選考まで合格したことはなかったらしい。

うちの学級なら、西谷にしや嶺れいオーデションを受けないかと友だちが促したが、彼女は教師になりたいので断った。七月文化祭のカフェについてのミーティングが終わったあと、夕方まだ学校にいた私たち五人は自販機で買ってジュースを飲みながら、西谷は手に持っているそのジュースを見ると言った。「これ?弟のね。帰り道あまりコンビニがないの」
紗季は聞いた。「彼はどう?この前のお湯のやけどって」
「もう大丈夫だよ、でもまだ赤いね。傷跡になるかな」
西谷の弟は八つ下で、彼とよくあそんだのがきっかけで子どものために働きたいのかもしれないと彼女は言った。そして庄司、弓道部の女子は西谷がいつもコーヒー飲むかと聞いた。「一日どのくらいの」
「三つかな」
紗季は言った。「ハイね、君」
「ハイじゃないよ。コーヒーってだれも飲まないの」
「たまに、でもよく飲むのはお茶かな」私は答えた。
「松島もハイよ。二時にメッセージを送ってみて、彼はまだ起きているんだ」
西谷は私に振り向くと目を大きく開いた。「そう?なにしてるの、松島?」
「そんなヤバいものを見るよ」
男子の濱口はそう発すると、彼に黙ってと私は言って、答えた。「別に、ただ寝れないだけだ」
西谷は笑った。「今度私はなんか送ってみるね」


七月下旬、定期テストが終わって夏休みがはじまると、まだ部活をしている文化祭委員会の私たちは、たまに『武者カフェ』のことを話し合うために集まった。もともと私たちはそんなに仲が良いわけではないが、そのミーティングがきっかけでよく会っていたので、たまにファミレスみたいなところへ一緒に食べに行ったこともあった。そして紗季の誘いで、この夏休み私たち五人は彼女の家にあそびに来た。

二年前初めて紗季の家に来たとき一般の家だと期待したが、実は結構広かった。屋根と木の板の飾りのある白い壁には大河ドラマにありそうな日本風だから屋敷の方が呼ぶのに相応しいと思った。

夏の午後きれいな庭から、本館は二階建てで長く繋がっていた。それは部活の合宿をしたら三十人には簡単に入れるらしいが、祖父母と紗季の家族は七人で住んでいるそうだ。まだ英語部に所属する高校三年生の紗季のお姉さんとは会ったことがあったし、夏休みだから北海道の小樽商科大学に通っている一番上のお姉さんが実家に帰っていたから私は初めて会って、それは私たちがいる紗季の部屋に挨拶しに来たときだった。吉木と濱口は格闘ゲームで戦いながら、庄司は紗季の机にあった英語の小説を見ると紗季は読んでいるかと聞いた。「うん!えっと、わからないなら松島に聞けるからね」
「やはり中川は松島と仲良しね」
「同じ中学校だったからよ」

暑かった八月に私たちは学校で部活をしながら、浜辺にあそびに行くことを提案したのは西谷かな、それはみんなすぐ賛成した。海沿い町又渡は、海外みたいに長い浜辺の景色ではなくて山と家並みがあるので道から海はあまり見えなくて、私たちが行った及森(おいもり)海水浴場には着くにはちょっと小道に入らないといけなかった。砂浜に来たのは去年以来かな。

この浜辺は私の家から十キロくらい離れていて、親の車で来る友だちもいたし、紗季と私ならリュックを背負って自転車に乗って来た。しかも夏休みなので賑やかだった。真っ青な空から光輝く海を見ると、そこから続く眩しい浜辺の方を向くと、遠くに巨大な風車が何台もあった。

風車の一台ずつは離れて配置され、多分十階建てのビルくらいの高さだった。その白い羽根をしばらく見ると、風が強かったのでちょっと速くまわった。先に来た男子の千葉は借りた二本のパラソルの下にすわると、風でパラソルがパタパタと音を立てていて、そばにいる吉木はだれかとメッセージをやり取りする間に、ほかの三人の友だちはもう海に入った。暑くて、一緒に彼らと海であそびたい私がTシャツを脱いだとき、後ろの紗季の声が聞こえた。「日焼け止めいる?」

振り向くと、眩しさのせいで紗季の目も細くなった。まだTシャツを着ているけど、彼女の下は水着だった。「いらないでしょ」
「いつもね、君、テニスをしたときも……黒くなることだけじゃないよ。皮膚にもよくないし」
「そう?」
「うん、使って」

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