27 紗季の告白

文字数 3,805文字

  

日焼け止めチューブの表示を読んで塗りはじめると、紗季は私の隣にすわった。テニスに専念するため、中学三年生から彼女の背中まであった長い髪の毛から徐々にボーイッシュな短いスタイルにした。高校一年生になってもまだ同じ髪型で、清潔で、彼女に似合っていてかわいいと思ったが、その感想は日本では余計なことかと心配して私は控えて言わなかった。
  男子の千葉の両親が多分安全を心配してちょっと離れたパラソルにすわっていた。その日は私たち一年A組の七人でいた。やっと私は海に入ると最初はただ泳いだが、友だちを見ると彼らは『サーフィン』であそんでいた。その名前はだれが付けたかわからないが、当時ちょっと大きな波にサーフボードに乗るみたいにただ溺れないよう波に抵抗するあそびだった……「中川、逃げないでよ!」
  私と同じときに海に入った紗季はしばらくそこであそんでいた。吉木にそう言われると、彼女は叫んだ。「バカ!もう顔が……」
  紗季の不注意だったか、大きな波が彼女にぶつかって咳もした。
  私は彼らの周りを泳いでいると、急に吉木が私を捕えてサーフィンさせた。波で髪の毛が濡れたこと以外、多分みんなと変わらなくて海水を飲んでいだ。疲れてきたのは海水であそぶことより、いっぱい笑ったせいじゃないかと思った。そのあとそれぞれ私たちは浜辺に戻って休憩した。
  夏前は静かだったのに、今は周りにいろんな店があって普段そのオーナーたちはなんの仕事をしているのかと思った。フライドポテトやかき氷の店があるのは当然だけど、なぜたこ焼きの店もこんな暑い日に売っているか……あれ、おでんの店?
  もう理解するのは無理。でもちゃんと家族のテーブルに目を向けると串揚げみたいなもので、おでんじゃなかった。多分暑すぎて私は幻想を見たかな。
  ジュースを買いに行ったときフランクフルトを買っていた男子の濱口を見かけて挨拶すると、そのあとジュースの店の近くで私は西谷に会った。手が空かない彼女は買った細長いフランクフルトを私に任せるとしゃべっていた。彼女は肩にタオルをかけているけど、柄のある白いビキニが見えた。なぜか私は男子の同級生が彼女はBかCかと真剣に論議していたことを思い出して……グラドルさんたちほどじゃなくても、結構あるんじゃないかな。
  ……なに、私!
  そんな思いを払って、持っているフランクフルトから西谷のかわいい顔に集中しようとして残りの夏休みのことを話していた。彼女は来週自分は東京に行くと言った。「MASAROさんのコンサートチケットを買ったよ、坂本綾さんもゲストとして出演するのは嬉しいね。どこに行くのがいいかまだ考えているけど。松島さんはおすすめはある?」
  「ないかな。でもそろそろ私も行くね、東京」
  「え?いつ?」
  「西谷さんのあとけど」
  「残念ね。会えるかと思った。でもなにするの?旅行?」
  「うん、あと知り合いにも会って」
  「面白いね……あ、松島さん!」
  振り向くとジュースの店の店員が注文を聞いた。買うとしばらく西谷を待って、彼女は赤い色のジュースを持ってくると言った。「多分私たちは東京旅行のことをしゃべれるね。二時くらい話しかけてもいい?」
  「もうそんなジョークやめてよ、いつもそんなに遅くまで起きてるわけじゃないから」
  彼女は微笑んだ。「そうなの、じゃあ」
  
  私のグラスはちょっと濁った白色のレモネードだった。私がリュックを置いたパラソルに戻ると紗季はもうそこにいた。彼女の持っているジュースのボトルを見ると、レモンのイメージでツインシトラスと書いたのは偶然かわからなかった。パラソルの影で吉木と濱口はゲームの話をして、弓道部の女子の庄司と西谷は携帯のなにかを一緒に見ていた。私はレモネードを飲んでリラックスしていると、紗季は一緒に周りを歩かないかと誘った。「あの辺の丘とか、歩いたことないね」
  まだ三時で、最初裸足で歩こうとしたが紗季の例に従ってサンダルを履いた。今水着の上に彼女はTシャツを着ているのであまり身体が見えなくても、足の肌からちょっと上に水着の青緑色があった。私はそんなに見たくないけど、どこを見たらいいのか。
  浜辺から石の地面に変わると、以前行ったことのある海に繋がる小さな川の橋が架かる場所があるが、紗季と私は別の方向へ歩いた。砂っぽい土の林に踏み込むと貝殻を発見して、自然のものではなくて店が捨てたかもしれないと私たちは冗談言って笑った。この笑顔はどう見ても紗季じゃないのか、そう思っていると彼女は私を呼んだ。「彰くん」
  「うん?」
  「えっと、言いたいことがあるけど。言っても怒らないでね」
  「いいよ、なに」
  「約束?」
  私はうなずいた。
  海を少し見ると、彼女は言った。「私、彰くんのことが好きだ」

  え?

  「好きだー!」

  強い風で、多分聞こえないと思ったのか彼女がそう叫んだ。

  「好き……ずっと好きだよ」
  「紗季……」
  「あーッ!なんかすっきりだね、やっと言った。彰くんは気にしなくていいよ。ただ私のめちゃくちゃな思いなだけ」
  平然と彼女はその林を歩き続けると、私は言った。「待って。さっき、どういう意味?」
  「え、その通りよ」
  「……でもめちゃくちゃって」
  「だって彰くんは美月と交際してるし。やばいね、私。知ってるのにこんなことを言った。ただこのまま置いたら、もう私は言う機会がないんじゃないかなって、ごめんね」
  「いえ、そんな」
  「一緒に行かない?そこに立ってるなんて」
  「……ねえ、紗季」
  「うん?」
  「私も紗季のことが好きだ」
  「どういう意味?」
  「紗季はさ、さっきすっきりしたと言っても、すっきりじゃないでしょ。多分今日家に帰ると自分がバカかと思うとか……紗季はこんなにはっきり言ったのに、私は臆病なんだ。なにも言わなかったのはごめんね」
  それを聞いた紗季は少し微笑むと手で木の幹をさわって、しばらくそのまま立つと言った。「全然わからなかった」
  「大丈夫?」
  「さっきはなに……ちょっと、一人になっていい?」
  「え、うん」
  ためらった彼女から離れて、振り向くと彼女はまだ困っているようでしゃがみ込んでいた。私はなんと言ったらいいか、いえ、それより私は本当になにを思っているのか。
  波の音が聞こえる海を見ながら、紗季は言った。「彰」
  「はい」
  「私のことが好きって、友だちとして?」
  「……なんというか」
  「なに?」
  「もし友だちだと言ったら……ちょっと無責任だね。紗季といたとき私はわくわくしたよ。普通に紗季になにも感じないと否定したら便利だけど、君は私の友だちだから、そんなうそをつきたくない……今まで、いつも私のことを心配してくれて、助けてくれて、いつも感謝しているよ。だから紗季に私の本当の気持ちを言わないと」
  彼女は私に一瞥すると目の前の土を眺めながら言った。「苦しかったよ」
  「なんで」
  「いつも、いつも、彰くんのことを思っていたの……さっき言ったのは友だちへの気持ちという意味でしょ。ただ私の気持ちを傷つけたくないから言ったんじゃない?もういいよ」
  「でも」
  「ただ私は告白したかった、感情を軽くしたかっただけだ。彰くんはなんで言ったの」

  私がなにか言う前に、彼女は続けた。

  「もう私はずいぶん前に彰くんのことを諦めたよ。好きじゃないなら、私のことを逃すなんてできない……毎日、彰くんはこんなに私に優しくしてくれて、もう限界だ」

  そして私は鼻をすする音を聞いた。そちらを見ると彼女の目はもう濡れていて、泣いていた。少し離れて立っていた私を彼女は呼んだ。「うん?」

  「……私のことが好きって、なに?」紗季は聞いた。

  「え、えっと」

  「ただ会ったら楽しいってことでしょ。それは友だちなんだよ!」

  彼女は私を見つめた。その目は赤くなっていたが。

  「また彰くんと会ったとき、私はどんな顔をしたらいいの?彰くんは私のことが好きかなと思って、好きじゃなかったでしょ。君はただいつも人に優しいし、全然特別じゃないから私はただ一人の友だちだ……友だちなら私を慰めないで、好きじゃないならちゃんと言ってよ」
  「ねえ、紗季のことが好きじゃないなら、私はこんなに付き合わないでしょ」
  「え?」
  「私になにしてほしいの?紗季のことはただの友だちと言う?紗季はやっと言ったのに、私にただ君の気持ちを無視してほしい?」
  彼女はため息をつくと立ち上がった。「多分彰くんは外国出身だから。日本ではただ告白に失敗したら、ただ相手を無視して消えてほしいと君は知らないの?それくらいしてくれない?」
  「外国かどうかの話じゃないよ。紗季はずっと私に親切なのに、急に私は君をただ他人のことのように扱うの。私はまだずっと君と付き合いたいから」
  「彰のバカ」

  彼女は鼻をすするとまた言った。

  「君はバカ」

  「紗季……」

  「もう消えてほしいよ!ただ一人の同級生になってほしい。なんでできないの!」

  「え、それは」

  「バカ!君のバーカ!もう会いたくないよ。バーカ!」

  そう叫んで彼女は泣いていた。しばらく私たちは話さないかもしれない、また海から強い風の音が聞こえてきた。

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