第1話

文字数 1,999文字

「おぉー!久しぶりー!」

15年ぶりの中学の同窓会。
とは言ってもSNSで連絡と都合のついた6人だけの小さな会らしい。

男女各3人。まるで合コン。
4人は顔を見ればすぐに誰だかわかったが、1人だけ見覚えがない。
男はオレと川口と田原。
女は中村と町田とあと一人。

「羽柴サヨです」

残る1人が誰かを確認するためにあえて自己紹介を提案して、あぁ、羽柴か、とわかったけれど昔とはまるで別人だ。

あんなにかわいかったか?
昔は髪の毛で顔を隠すようにしていたし、メガネをかけててうつ向きがちだったから顔をまじまじと見たことはなかったな。

みんなが昔話で盛り上がる中、羽柴はニコニコと料理を取り分けたり皿を片付けたりしている。

それが変に頑張ってなくて自然だし、気も効くんだなと思った。

もっと早くにわかっていれば。

「ところでさ、よく見つけたよな、オレのこと」
オレがそう言うと、みんなが一斉にオレを見た。

「は?オマエだろ?オレたちのこと見つけて誘ったの」
川口が言う。

「え?いや、田原だろ?オレに同窓会あるって連絡したの」
「え?いやいや、だって同窓会のグループの管理人、オマエの名前になってたし」
田原も言った。
同窓会のグループがあることすら今知った。

「どういうこと?私も山根くんだと思ってた」
中村が言った。

「…え?コワ…消えてるんだけど。そのグループ」
町田がスマホを見ながら言うとみんなもそれぞれ確認した。


なんでオレ?

一気に空気が重くなった。

「私、ちょっとトイレ」
羽柴が席を立つと、中村と町田が待ってましたとばかりに言った。
「ねぇ、あのさ…あれ、誰?」

あれ、って?と男三人が身を乗り出す。

「羽柴さんじゃないよね、あれ」
「絶対違うよ!男子はわかんないかもだけど、私たちはわかった」
「うん、あれはメイクでどうにかなるレベルの違いじゃないよ、別人」
「…もしかして整形?」
「てゆーか…幽霊じゃない?」

「あ、あったよな、羽柴死んだ説」
田原が割り込む。

「変なこと言うなよ、あんなかわいい幽霊いるかよ」
「え?山根まさか羽柴のこと気になってる?」
オレが返事をする前に羽柴が戻ってきた。

「ただいまー。何の話?」
「あーえっと…中学の頃…流行ってた音楽の話」
「うんうん、羽柴さんは何か覚えてる?」
「私?私はさ、みんなにいじめられたことしか覚えてない」
「…え」
「覚えてない?か。そんな昔のこと。中村さんと町田さん、修学旅行で同じ班だったのに私1人別行動させたんだよ」

中村と町田は黙った。

「川口くんと田原くんはさ、私にボールぶつけてきたり、持ち物隠して笑ったりさ、ホントにめんどくてガキくさい低レベルないじめしてくれたよ」

川口と田原も黙った。

「あ、気にしないで。15年前のことだから。たった15年だけど15年あれば人は変わるんだね、みんな私のこと仲間みたいな顔でよく受け入れてくれてるよね、ほんと、大人になったよ」

「…オマエ、それ言うためにわざわざオレらのこと集めたわけ?」

「バカバカしいこと言わないでよ、そんな暇人じゃないから。でもまぁ、アンタらみたいに過去の悪事をなかったことにして生きてる人間なら別にどう使ったっていいかなって思っただけ。もー帰っていーよ。それとも、当時の私へのいじめの証拠、SNSにあげようか?いろいろとってあるんだよ、仕返しの材料はたっぷり」

羽柴は確かにいじめられていた。
だけどオレはいじめた覚えなんてない。
どちらかと言えば見かければ「やめろよ」くらい言ったし、恨まれるような覚えはない。

その言葉を聞いて4人は目配せしながら席を立って店を出始めたのでオレも続こうとすると、羽柴はオレの腕を掴んだ。

「山根くんは帰らないで」
「…え?」
「私ね、山根くんに会いたくてみんなを呼び出したの。私1人が連絡したって会ってくれないと思ったから。山根くんの名前ならみんな来ると思って。山根くんだけだよ、中学の頃庇ってくれたの。だから好きになったの。…だけどあの頃さ、思ってたでしょ?『もっとかわいいコだったらこのまま付き合うパターンあるのに』って。…だから私、頑張ったんだよ、山根くんの好みになれるように」
「…え」
「そうなの!山根くんがどんなコが好きなのか、ずーっと探ってたの!」
「…ずっと?どうやって…」
「その甲斐あって今日は私のこと気に入ってくれたでしょ?すっごく嬉しかったぁ!良かった、この顔にして!山根くん好みでしょ!?」
「え、あ、まぁ、いや、あの、え?…整形、したの?」
「整形じゃないよぉ!山根くん好みのかわいいコ見つけて、ちょっと体、借りただけですぅ!」

借りた?って?
いや、正直タイプだ。
このコとなら付き合ってもいいと思えるくらい。

そう思った途端、羽柴は嬉しそうに笑って腕にしがみついてきた。

こいつ、もしかしてオレの気持ちが全部聞こえてるんじゃないか。



「そうだよ、よくわかったね」



そう言った羽柴が中学の頃の羽柴に見えて、オレは走って店を出た。
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