あめはきらい

文字数 1,155文字

……あの夢を見る度、何度も仕事を休んだ。
吐き気が止まらない、膝が笑っている。
どうしたら解放されるのか。
相手の生死も知らない。死んでいておかしくない。
人を殺したことなんてないけれど、生きているはずがない。生きていてほしい。
もしかしたらどこかで生きていて、俺を監視しているかもしれない。
生きることで償うのか、死をもって償うのか。
幽霊に殺されたり、社会的に抹消……。

あの夢をみたあとの俺の精神状態は、いつも極限まで自らを追い詰めてしまう。
少し落ち着くと、「こんなに神経をすり減らしてまで反省してるんだ、許してもらえるはず」と考え出す。
何がしたいのだろう。
生きたいのか、死にたいのか。

雨は嫌いだ。夢を見ていなくても水溜まりを恐れる。
血溜まりが見えるような錯覚を覚える。
10年も経つから忘れている時もあるが、夢は鮮明に克明に思い出させてくる。
脳裏に焼き付いて離れない。
覚えていない時があるのは、まだ正気の部分が俺にはあるという証拠だ。
正気と狂気を繰り返し続け、疲弊してしまった。
なんでまだ生きているんだろうか。
なんでまだ正気でいられるんだろうか。
完全に狂ってしまえたらどんなに楽だろう。

……繰り返し繰り返し、延々と。

すべて雨の日だった。

□□□□□

雨音のような耳鳴り、耳鳴りのような雨音。
芳るは雨の臭い。今日は後者。
あれ以来、私が濡れることがないようにと両親は異常なほど気を使ってくれている。コワレモノのように扱う。会話こそ変わらない風を装ってはいるけれど。
その実私はコワレモノだった。なってしまった。
事故の衝撃で肺や心臓を肋骨が圧迫し、損傷を招いている。
肋骨を戻したところで修復は不可能と言われていた。移植手術に頼るしかないと。
このままでは結婚もままならない。長くはもたないだろうから。
刺激の少ない生活。悪化しないようにと周りに気を使われる日々。
逆にそれらが私を蝕む。
どうしてこうなった? 全部あの日の所為!

昔から持て囃されていた。
高二のミスコン優勝で拍車が掛かった。
キャンパスライフを送りながらのモデルも夢じゃないと思っていた。
頭だって悪くは無い。東大は無理でも慶大とか行けたかもしれない。

起き上がれるようになるまで3年。
1年目で退学届けを出されていた。
私は高校中退者になってしまった。
目が見えなくては受験もままならない。
楽しかった頃には戻れない。
チヤホヤされてたからって何か悪いことしてたわけじゃない。
友だちが「○○の彼氏寝取っちゃった」と話している時だって、「友だちなのによくそんなこと出来るよね」って言ってたくらい曲がったことが嫌いで。
なのになんで私、私……!

泣いても泣いても、視界は戻ることは無い。
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