第23話 お化け屋敷

文字数 3,608文字

 わたしははじめてのVRに少し緊張した。雪合戦みたいなルールで、一人できたわたしは樹くんと戦うことになった。えい、やー と、一人で騒ぎながらやっているとまけちゃったけど、樹くんが無邪気に笑っている姿を見れてよかった。
 VRコースターは本当にすごかった。わたしは最初から声を上げて、最後は悲鳴を上げて、みんなの注目の的だった。
 出口で会計を済ませると、廊下まで樹くんが見送ってくれる。
 ——ここまで……少し寂しいけど樹くんにも仕事があるから、わがままは言えない……。
「ありがとう、凄く楽しかった!」
「よかった、また来てよ」
 そう笑って答えてくれる樹くんの言葉に甘えて、もう一度列に並びなおそうとした時だった。
 女子生徒とさっきわたしの担当をしようとしてた男子生徒が、樹くんの後ろから現れる。
「なに~樹のかのじょ~」
 女子生徒が樹くんに聞いた。樹くんは少し鋭い顔で彼女に向き直り否定した。
「違う、そんなんじゃなくて……」
「野暮なことはいいから、はい、行った行った」
 続けて男子生徒の方が樹くんの首に腕を回していう。
「ここはまかせとけって、楽しんでこいよ」
 言い終えると樹くんの背中を押す。止まり切れない樹くんはまっすぐわたしに向かって迫ってきた。わたしにもどうしたらいいかわからなくて、迫ってくる樹くんを受けとめようとする。
「はうっ」
 ——ああああああああ、どうしよぉ~……変な声出しちゃった……恥ずかしくて顔上げれないし、樹くんと抱き合ってるんですよ!樹くんのいい香りするし、もう、本当いろいろ幸せ……。
 樹くんはわたしに抱き付いてから、すぐに顔だけ振り向く。
「おい」
 樹くんの言葉を聞かずに二人は続けた。
「ジュースおごりな」
「あ、うちのも~」
 そう言って教室の方に戻っていく。わたしは樹くんの腰に腕を回したまま顔だけを出して教室の方を見る。すると、さっきの女子生徒が親指をたててわたしにグッドサインを送ってくれる。
 わたしは目を目を輝かせながら、ぺこぺこと頭を振った。
「あの、もういいかな」
「あ、ごめん」
 わたしは思い出したように手を離し、樹くんから離れた。
「こうなったら、楽しむしかないね。気にしなくていいからね、あいつらが悪いし」
「樹くんと回れるの、わたし凄く嬉しい!」
「そっか、それはよかった。咲葵のクラスのお化け屋敷行きたいな、うちのクラスまで噂が来てるよ。すっごく怖くて、難しいって」
「私たちのところにもVRアトラクションがすっごーい本格的で面白いっては話きてるよ!」
「そっか」
 樹くんは笑って聞いてくれた。そのあと、私たちは二人でお化け屋敷の列に並ぶ。
「それにしてもすごい列だね、怖そうだし」
 樹くんがそういい終わると、お化け屋敷の中からドタバタと大きな音と絶叫が聞こえる。
 わたしも思わず唾を飲む。
「えっとね、昔刃物で頭から刺されて亡くなった女子高校生の霊が出るの。それで、お札を祭壇に備えたら、お化け消えるんだけど」
 そう説明してる間にもいろいろな人の悲鳴が聞こえる。
「中に入るときに、紙風船のついたヘルメット被るんだけど、その風船を割られたらそこで強制的に終了で、入り口から外に戻されるの。三分以内に札を見つけて、祭壇に納めたら私たちの勝ち……」
「そうなんだ、でもさっきから出口から出てくる人誰もいないね」
「むずかしいから!私が受付してた時も、一割ぐらいしか出口から出てこなかったよ……」
「それは……すごく難しそうだね」
「話によると、霊がガチで殺しに来るみたい……」
「それは……」
 二人が言葉に詰まっている間にも列はだいぶ進み、わたしのクラスメートの女の子が説明に来る。
「あ、咲葵ちゃん」
「説明しとくよ」
「ありがとう、はいこれ」
 そう言って、プラ板を渡される。彼女はわたしの後ろの人たちに同じようにプラ板を渡し説明を始めた。
 わたしも、樹くんにプラ板を見せて説明を始める
「こんな感じに大きな楕円を描いてあるように道があって、この楕円を女子高校生の霊が徘徊してるの……多分見つかったら全力疾走で追いかけてくるよ。でも、この楕円の通路しか霊は通れないルールなの。境界線に青色のテープが張られてるから、よく見たらわかると思う。一応、赤色でコーティングされてる小さなライトが真ん中の楕円の通路につながってる全ての角に設置されてるから分かり易いかも?私たちのスタートがここで、三つの分かれ道があるからどっから出てもいいの、見ての通り楕円の通路に繋がるようになってるから。で、そこ意外に四つ道があるでしょ?そこのどこかにお札か祠があるの。毎回ランダムだよ。制限時間は三分」
「結構本格的だね」
「VRアトラクションもすっごい本格的てきだったよ!」
「ありがとう」
 そんな会話をしている間にも私たちの順番が回ってきた。扉の前に立っているクラスメートにプラ板を返す。
「それではお楽しみ下さい」
 その言葉を聞いて私たちは入った。間取りは完全に把握してるけど、思ったよりも雰囲気がでていて、凄く怖い。目が慣れるまで、少し時間がかかったけど三十秒もたってないと思う。
わたしは樹くんの後ろに付いて行った。樹くんは真ん中を選んで、足音を立てないように移動する。わたしも両手で口を塞ぎながら付いて行く。少し進むと、例の楕円型の通路が見える。
樹くんは私に耳打ちで、左側から見てくるから待ってるように言ってくれる。
 ——樹くんのささやきボイス!あああ、やばいよ……霊に殺されても一生忘れない!
 わたしの心の声が両手で抑えている口から漏れ出そうになるのを鼻息に変えた。
樹くんは楕円形の廊下を時計回りに回った。そして、赤い小さなライトで照らされてる小道に入る。わたしからはもう何も見えなくなった。霊の足音もしないし、本当にいるのかな?とさえ思えてくる。けど、独りぼっちになったわたしは急に不安が強くなっていった。一分経ったかわからないぐらいの時、ピツ、と高い音が鳴った。
 ——どうしよう説明し忘れてた……今のが一分経った。ことを示す合図なんだけど……。
 樹くんが入っていった道を見ていると、樹くんが返ってきた。奥を指さしている。
 ——意味わからないよ……私も行けってことかな?
 躊躇していると、樹くんは忍び足で先に行ってしまった。
 ——わたしどうしたらいいんだろう……それにしてもさっきから全然足音聞こえないし、可笑しいな……。
「うわっ」
 その時、奥から樹くんの驚いた声が聞こえた。足音が聞こえなかった感じ、たぶんトラップにびっくりしたんだと思う。企画側のわたしは一人しめしめと思った。祠のある通路は誰かが通ると後ろに首が垂れるようにしてあり、振り返ったらさっきまでなかった生首が目の前にあるという仕掛け。
 ——それにしても霊の足音しないな……まさか……、スタンバイミス?
 わたしは樹くんの元に行こうと樹くんの通った道をゆっくり進む。すると、先の方から黒い長い髪を垂らし刃物を持った女子高生が立っていた。
 ——なんでええええええええええええ‼
 わたしは回れ右をすると心の声を悲鳴にかえて、盛大に叫びながら走った。振り返ると幽霊とは思えないほどの全力疾走で迫ってきて、わたしは恐怖のあまりしゃがみ込んだ。そして、頭の紙風船を刃物で潰されてしまう。幽霊は足音を聞くと、振り返り樹くんの方へ一瞬で駆けて行った。すると樹くんも大声を上げながら、走る音が聞こえる。
 わたしは後ろから来た生徒に連れられ、入り口から出る。眩しくて思わず両目を塞いでから、自分が泣いていることに気が付いた。同じクラスの生徒がわたしのヘルメットを外し、脇の方に案内してくれる。
 そんなに時間が経たないうちに入り口から樹くんも出てきた。ヘルメットを受付にいる生徒に渡して、わたしの所に来る。そして、わたしの頭を優しくなでてくれた。わたしは咄嗟に樹くんに抱き付く。樹くんはそんなわたしの頭を優しくずっと撫でてくれた。
 しばらくして、落ち着いたわたしは一緒に体育館で、劇を見に行くことにした。
 私たちの見る劇は『花咲か爺と七匹のロミオが叫びたがっているんだ』
 ——意外と楽しみ!
「それにしても咲葵のお化け屋敷怖かったし、すごく難しかったね」
「振り返ったら生首があるのは、私が立案」
 わたしは鼻を高くして自慢げに言った。樹くんは驚いたようにわたしを見て言った。
「あれ、咲葵だったんだ!ほんとにびっくりした!」
「でしょ!でも、あの幽霊本気過ぎでしょ!」
「そうだったね」
 樹くんは笑いながら続けて言った。
「蒼、咲葵に対しても容赦なかったね」
 わたしは驚いて、樹くんを見た。
「気づいてなかったの?」
 そう首をかしげながら樹くんは聞いてきた。わたしは前を向き直ると顔の近くで強くこぶしを握りながら言った。
「蒼のやつ~!ぜったーいゆるさない!」
 切れ気味で言うわたしを樹くんは笑って見ていた。
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