episode 1 映画のうわさ

文字数 995文字

 ねえ、携帯電話の二十九番に知らない人を登録したの誰?

 私が映画に出ているといううわさは本当なのか。私──来海(きまち)里奈(りな)が誰かを演じているのではなく、来海里奈が何者かに演じられている。主人公。役名は「来海(きまち)里奈(りな)」、題名は「まっしろな(ほし)のかけらは(おも)いをとばす」で旅行の話。私に教えた同級生たちは私が知らないことに驚き、どう否定しても信じてくれなかった。
 何しろ「来海」と書いて「きまち」と読ませる私の苗字はめずらしいし、来海里奈を名乗る主人公の性格や雰囲気が私そっくりというから困る。さすがに演じた子役は私ではないようだけど、遠目に映ったときに本物と入れ替わったと勘違いしたそうで、勝手に題材に使われた旅行当時の私を知る女子二人からは「絶対関わってる」と太鼓判を押されてしまった。
 この二人は現在高校一年生の私と小学校から一緒で、特に仲良しの桜井(さくらい)(はな)がにやりとして言うにはこうらしい。
「里奈ってあの旅行の前後で変わったんだよね。それが描かれてた」
「うち、そんなに変わった? あのころから悪い夢を見るようになったくらいで、中学生になったときは成長したかもって思えたけど……」
 正直なところ自分ではわからなかった。最近になってそう、お母さんから短い間だけ私が変だったと聞かされたっけ。いや、問題は私が変化したかどうかではなく映画がどこまで忠実に私を表現したか。話を聞くだけで判断するのは難しい。
 私も観なければならなかった、その映画を。
 まずは映画館を調べてみたが、映画『まっしろな星のかけらは想いをとばす』は映画館ウェブサイトはおろかインターネット全体の検索にも引っかからない。遠い昔の作品ならまだしも最近の映画の情報がないのか、私があの雪に抱かれてまだ四年にも届かないのに。私に話した同級生のうそ? それはない。そうだ誰からもどこどこの映画館で観たと聞いてないし、花はDVDだと言っていた。「映画」と銘打ちながら最初からビデオディスクだけだったとして、その情報すらないのはよほど流通しなかったか私家版かもしれない。親に内緒で我が家を探したけれど、それらしい代物は発見できなかった。
 しかしこうなったら花から借りればいいのだが、映画の内容うんぬんの前に一つ心配なことがある。自分の旅行を再現した映画を観て、それが事実に即しているか私に判断できるのだろうか。
 実は私、あの旅行のことをよく覚えていないのだ。
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登場人物紹介

来海 里奈 きまち りな


主人公。高校1年生の少女。自分の旅行の経験を勝手に映画に使われる。

福原 禎士 ふくはら ただし


高校2年生の少年。里奈が雪町で出会った。

桜井 花 さくらい はな


高校1年生の少女。里奈の同級生で友達。

雪の精 ゆきのせい


里奈が雪町で出会った。何者?

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