3 ✿ 数秘術とストーカー

エピソード文字数 1,563文字



 ジョンは「女性が苦手」だという。

 咲良は驚いて、目をしばたき、自分を指差した。
私も、苦手?
「いいえ。あなたのそばは、とても落ち着きます
 でかけたり、おしゃべりしているうちに、彼の心にかけられた固い錠が解かれたのだ。

「苦手だったのは、昔…近所のお姉さんにストーカーを受けたからなんです」

 屋敷の庭に入り込んだ年上の少女は、四歳のジョンの遊び相手になってくれた。その子がある日、自分が小さいころの服を持ってきた。おままごとでもしたかったのか、「着てくれ」と女装をせまられたジョンは、全力で拒否した。
 それがきっかけで縁遠くなると、彼女が庭へ忍び込む回数は増え、はては屋敷のゴミ箱からジョンの捨てたものを集めるようになった。
 ある夜、ストーカー少女は、樹伝いにジョンの部屋のベランダへ下り立ち、「Jhon be mine」と呪いのように何度も唱えたあと、

ここがあんたの部屋だって知ってんのよ。出てこないなら、ここで死ぬわ

 と、窓を叩き、彼を脅した。
「ひどいわ…。サイコね…」
 咲良は口の端をひくつかせる。
「警察沙汰となり、少女は監視下におかれました。家庭環境が複雑だったためか、精神症を患っていたようです。あの夜、彼女はベランダで悪魔のように高笑いしていました」
「ホラー映画さながら…ね」
「事実は小説より奇なり、です。映画より、死んだ人間より、生きた人間が一番こわい
 ジョンのひたいには冷や汗が浮かんでいた。
「彼女がそうだと知っていたら、近づかないこともできたのにとよく思うんです。幼いながらに、自分の身を守るすべを模索していて…。数秘術を使い、そのストーカーの行動を予測しようとしたり…」
「数秘術って?」

「アルファベットに数をふりあて単語を数値化し意味を解釈するものです。十六世紀には、不安定な世界情勢から未来を予測しようと、占星術師数学者たちの多くが数秘術を用いたそうです。僕だって魔法使いのはしくれだと、やってみましたが外れました。未来は…たまに夢で見たり、ふとした時に分かることはありますけど、本当に知りたいことは視えない。神様は少々意地悪です」

 ジョンは肩を落として、咲良と目を合わせた。
「すみません。暗い話で咲良さんのお耳をよごしてしまいました」
「ううん、気にすることないよ。だってね、私は逆に男の子が苦手だったから」
「そうなのですか?」
「まぁ……イジメられっ子だったのだ、うん」
「男性が女性をいじめるなんて…」
 と、ジョンは憤った。
「お父さんたちのように強くなれば、自分の身を守れると思った。それで剣道の練習に努めたの」
「僕も同じです。自分の身を守るためでした」
「私たち、似た者同士だね」
 咲良はじっとジョンを見つめる。

「男の子は意地悪するものと遠ざけていたけど、ジョンは優しくてなんだかほっとするわ。こんな風に話を聞いてくれる人がいるんだな、自分…ちゃんと話せるんだなって自信が持てた。だから、ありがとう」

 咲良は両手を膝に揃え、頭を垂れた。
 顔を上げ、恥ずかしそうに破顔する。
 ジョンはミルクのカップを持つ指をそわそわさせた。
 青い目をのぞかせ、彼女と見つめ合う。
 咲良は美人だが、今日はよりきれいに見える。

 この美しい人は誰だろう。彼女と、初めて出会った気がしないのだ。

 彼が彼である前から、共に語らう日を待ち望んでいたのは、この人ではないだろうか。
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登場人物紹介

帯刀 咲良(たてわき・さら)


高校2年生の、剣道少女。
ドールオタク(俗にいう、シルバニアン)

ジョン・リンデン


インターポールの捜査官。
所属は、IWCI(INTERPOL Wizard Complex for Innovation)


天羽 理々(あもう・りり)


高校2年生の、合気道少女。
アニオタ。

ラルフ・ローゼンクランツ


インターポールの捜査官。
IWCIのリーダー

マリー・ローゼンクランツ


ラルフのイトコ。

絵画修復士になるためにイタリアの大学で学んでいたが、行方不明になる。

マルコ・ローリエ


インターポールの捜査官。ジョンの同僚。

イタリア人。お菓子が大好き。

レイ・マグノリア


インターポールの捜査官。ジョンの同僚。

フランス人。透視能力者。

鞍馬 勝(くらま・まさる)


警視庁特殊科の捜査官。

日本の魔法使い。忍者。

ブレイク・アンショー


赤の国際手配書が出された犯罪者。

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