何でも教えてくれるよ!スマホこっくりさん
文字数 3,296文字
あたしは小学五年の山田 真弓。
突然だけど、私には知りたいことがたくさんある!
毎週火曜日の抜き打ちテストの問題、いじわるな紺野先生の苦手なもの、クラスのボス・知里ちゃんに気に入られる方法。
そして、片思い中の沢村君の好きな人。
でもそういうのって、なかなか誰も教えてくれない。何でも教えてくれるこのスマホだって、さすがに分からない。
そう思っていたんだけどね……。
ぴょこんっ。
ある日の放課後、教室でスマホをいじっていたら、謎の通知が届いた。
開いてみると、「怪談アプリに新しいゲームが追加されました」って、スマホを買ったあのコドモショップさんからのお知らせだった。
怪談アプリは、今子供に大人気のアプリなんだ。ちょっと怖いけど、でも簡単にどきどきを味わえて楽しいの。
ぴょこんっ。
「新しいゲーム、その名もスマホこっくりさん。あなたの知りたいことを、スマホこっくりさんが何でも教えてくれます」
え?何でも教えてくれるんだ。
今のあたしにぴったりのゲームじゃん。
でも、ちょっとうそくさいなー、んー、試しで、やってみよっかな。
ぽちっ。
さっそく『スマホこっくりさん』スタートしますか?の吹き出しをタップした。
ルール説明が出てきた。
ルール説明
この先に進むと、真っ白な画面に変わります。知りたいこと、教えてほしいことを画面に向かってはっきり言ってください。
こっくりさんが、この白い画面に文字を入力して、答えを教えてくれます。
たったこれだけ。すごくカンタン。
でも最後に、注意がひとつだけ。
※決して疑わないでください。こっくりさんは、純粋に信じる子どもの味方です。
疑うなって……。
まぁでも、信じろっていうなら、信じてみよっか。
信じるだけなら、カンタンだもんね。
「何をしているの!こんな時間まで!」
やばっ。紺野先生に見つかった。
とっさにスマホをポケットにかくす。
「今帰ろうと思ってました」
「じゃあ早く帰りなさい!まったく……」
ぷんぷん怒りながら、大股で教室を出て行く。
ちょっと残ってたくらいで、あんなに怒らなくてもいいじゃない。
若い女の先生って、優しいイメージがあったのに、紺野先生はめちゃくちゃ厳しい。
ちょっとの遅刻も絶対許さないし、授業中話を聞いてなかったり、うとうとしてたら、わざと問題を当てて、答えられるまでずーっと立たせてるんだよ。
あたしも、この前ちょっとぼーっとしてただけなのに、当てられちゃって。ちょっと泣きそうになったら、「泣いてもダメだからね」って。
あー、ほんと嫌い。
なんか、がつんと仕返しできないかな……。
あ、そうだ。
スマホの画面をタップして、さっそくスマホこっくりさんを使ってみる。
このためのアプリじゃん。
これで、紺野先生の苦手なもの聞いちゃお~。
「こっくりさん、こっくりさん。紺野先生の苦手なものを教えてください」
ものは試しだもんね。
真っ白な画面に、教えほしいことを話す。
しばらくすると、タップもしていないのに、勝手に画面に、一文字ずつ、文字が表示された。
“カ
“エ”
“ル”
え~。意外!
先生、カエル苦手なんだ!
それならあたし、いいこと思いついちゃった・・・。
雨の日。
あたしは朝、めちゃくちゃはやく登校した。なぜかって?
ふふふ。近所のおばあちゃんの家で小さなカエルを集めてビンに入れたんだ。
だれにも見つからず、紺野先生の下駄箱の中に入れて・・・準備万端!
みんなもぞくぞく登校する中、クラスで1番うるさい島田がダッシュで教室にかけこんできた。
「大ニュース!紺野先生、たおれたって!」
「なんで〜⁈」
「なんか、下駄箱にちょーいっぱいカエルが入ってたんだってさ。びっくりして、ひっくり返ったらしいぜ」
「マジで⁈」
「見に行こ、見に行こ」
うわ〜、大成功じゃん。
けっきょく、紺野先生はショックでそのまま家に帰ったみたい。
「ねぇ、うちらのクラス、先生いないから、今日は自習だって」
「やったねぇ」
「でもさ、先生がカエルが苦手って、意外だよなぁ」
「誰が入れたんだろ?」
あたし、あたし、あたしあたし!
声に出して言いたいけれど、犯人だってバレたらまずいし、やっぱり言わない。
それにしても、スマホこっくりさんって、すごい!
教えてくれること、全部本当のことなんだ。
あたし、すっかりこっくりさんにはまっちゃった。
何でも聞いた。
明日の天気のこと。
理科のテストの答え。
意地悪な佐奈ちゃんの弱点。
何でも答えてくれるし、そしてそれは全部本当のことだった。
知りたいことが知れるって、超サイコー。
だからね、あたしはいよいよ、一番聞きたかったことを、聞いてみた。
「こっくりさん、こっくりさん。沢村君の好きな人を教えてください」
“深町 のぞみ”
え~、のろちゃん?
同じクラスだけど、しゃべったことなんてほとんどない。
だって、何をしてものろまなんだもん。
歩くのもしゃべるのも、何もかも!
だから、みんなからは、のろちゃんって裏で呼ばれてる。
そんな子を沢村君が好きなんて、ありえない!
「こっくりさん、こっくりさん。沢村君の好きな人を教えてください」
“深町 のぞみ”
また同じ答え。何回も何回も聞いても、変わらない。
「もういいや」
画面を消す。
けっきょく、ただのアプリだなぁ。
なんかテンション下がっちゃった。
それからあたしは、スマホこっくりさんを使うことがほとんどなくなった。
ー1週間後。
夕暮れ、カラスの声が聞こえる。
明日は待ちに待った林間学校。
リュックに荷物を詰めて準備をしていると、スマホが鳴った。
誰かからの通知みたい。よっちゃんかな。開くと、それは『スマホこっくりさん』からだった。
「え……」
あたし、息が止まりかけた。
だって、白い画面に、こう書いてあるから。
“今日、君は死ぬ”
何この悪ふざけ。
しばらく使っていなかったからって、こんなの書いていいわけがない。
画面に向かって、怒鳴る。
「こっくりさん、こっくりさん。あたし、死にません。やめてください」
だけど、画面の文字は変わらない。
“今日、君は死ぬ”
なんか怖くなっちゃって。
スマホの電源を落として、さっさと荷物に詰め込む。
ウソだよ、こんなの。絶対ウソ。
今日はもう終わるし、なんたって明日は、楽しみな林間学校なんだから。
コンコンッ。
ノックの音にびびってると、ママが入ってきた。
「なんだ。ママか」
「何よ。お化けでも見たような顔して。ねえ、それより、お醤油買ってきてくれない?」
「えー」
「余ったお金で好きなもの買っていいから。お願い」
めんどくさいなあ。
でも、ちょうど、林間学校に持っていくお菓子が足りないかも。
「じゃあ、行ってくる」
「ありがと。あ、スマホ忘れずに持っていきなさいね」
「え」
「外出する時の約束でしょ。じゃ、お願いね」
今は持っていきたくないなあ……。
まあでも、通知さえ無視すればいいよね。
荷物の中をまさぐると、スマホを引っ張り出してパーカーのポケットの中に放り込んだ。
よし。しょうゆも、お菓子も買えた。
スーパーを出て、大通りに出る。
その時ー
「あぶない!!」
あたしのすぐ目の前で、車のライトが光っていた。
あたしは初めて、空を飛んだ。
「うっ…う…」
うっすら目が開いた。
目の前に見えたのは、スマホの画面だった。
白い背景に、黒い文字がびっしり。
“今日死ぬ今日死ぬ今日死ぬ今日死ぬ今日死ぬ”
その瞬間、あたしは思い出したの。
こっくりさんを使うときのルール、決して疑わないことって。
もし信じていれば、こっくりさんに聞けばよかったんだよ。
死なないためには何に気をつければいいの?って。そしたらきっと、こっくりさんは教えてくれたはずなんだ。
だって、純粋に信じる子どもの味方だから。
「お願い、助けて……」
声をしぼり出す。
画面を見つめて、祈る。
もう疑ったりしないから。ずっと信じるから。
助けて―。
白い画面に、文字が打ち込まれた。スマホこっくりさんからの、答え。
“もう、遅い”
突然だけど、私には知りたいことがたくさんある!
毎週火曜日の抜き打ちテストの問題、いじわるな紺野先生の苦手なもの、クラスのボス・知里ちゃんに気に入られる方法。
そして、片思い中の沢村君の好きな人。
でもそういうのって、なかなか誰も教えてくれない。何でも教えてくれるこのスマホだって、さすがに分からない。
そう思っていたんだけどね……。
ぴょこんっ。
ある日の放課後、教室でスマホをいじっていたら、謎の通知が届いた。
開いてみると、「怪談アプリに新しいゲームが追加されました」って、スマホを買ったあのコドモショップさんからのお知らせだった。
怪談アプリは、今子供に大人気のアプリなんだ。ちょっと怖いけど、でも簡単にどきどきを味わえて楽しいの。
ぴょこんっ。
「新しいゲーム、その名もスマホこっくりさん。あなたの知りたいことを、スマホこっくりさんが何でも教えてくれます」
え?何でも教えてくれるんだ。
今のあたしにぴったりのゲームじゃん。
でも、ちょっとうそくさいなー、んー、試しで、やってみよっかな。
ぽちっ。
さっそく『スマホこっくりさん』スタートしますか?の吹き出しをタップした。
ルール説明が出てきた。
ルール説明
この先に進むと、真っ白な画面に変わります。知りたいこと、教えてほしいことを画面に向かってはっきり言ってください。
こっくりさんが、この白い画面に文字を入力して、答えを教えてくれます。
たったこれだけ。すごくカンタン。
でも最後に、注意がひとつだけ。
※決して疑わないでください。こっくりさんは、純粋に信じる子どもの味方です。
疑うなって……。
まぁでも、信じろっていうなら、信じてみよっか。
信じるだけなら、カンタンだもんね。
「何をしているの!こんな時間まで!」
やばっ。紺野先生に見つかった。
とっさにスマホをポケットにかくす。
「今帰ろうと思ってました」
「じゃあ早く帰りなさい!まったく……」
ぷんぷん怒りながら、大股で教室を出て行く。
ちょっと残ってたくらいで、あんなに怒らなくてもいいじゃない。
若い女の先生って、優しいイメージがあったのに、紺野先生はめちゃくちゃ厳しい。
ちょっとの遅刻も絶対許さないし、授業中話を聞いてなかったり、うとうとしてたら、わざと問題を当てて、答えられるまでずーっと立たせてるんだよ。
あたしも、この前ちょっとぼーっとしてただけなのに、当てられちゃって。ちょっと泣きそうになったら、「泣いてもダメだからね」って。
あー、ほんと嫌い。
なんか、がつんと仕返しできないかな……。
あ、そうだ。
スマホの画面をタップして、さっそくスマホこっくりさんを使ってみる。
このためのアプリじゃん。
これで、紺野先生の苦手なもの聞いちゃお~。
「こっくりさん、こっくりさん。紺野先生の苦手なものを教えてください」
ものは試しだもんね。
真っ白な画面に、教えほしいことを話す。
しばらくすると、タップもしていないのに、勝手に画面に、一文字ずつ、文字が表示された。
“カ
“エ”
“ル”
え~。意外!
先生、カエル苦手なんだ!
それならあたし、いいこと思いついちゃった・・・。
雨の日。
あたしは朝、めちゃくちゃはやく登校した。なぜかって?
ふふふ。近所のおばあちゃんの家で小さなカエルを集めてビンに入れたんだ。
だれにも見つからず、紺野先生の下駄箱の中に入れて・・・準備万端!
みんなもぞくぞく登校する中、クラスで1番うるさい島田がダッシュで教室にかけこんできた。
「大ニュース!紺野先生、たおれたって!」
「なんで〜⁈」
「なんか、下駄箱にちょーいっぱいカエルが入ってたんだってさ。びっくりして、ひっくり返ったらしいぜ」
「マジで⁈」
「見に行こ、見に行こ」
うわ〜、大成功じゃん。
けっきょく、紺野先生はショックでそのまま家に帰ったみたい。
「ねぇ、うちらのクラス、先生いないから、今日は自習だって」
「やったねぇ」
「でもさ、先生がカエルが苦手って、意外だよなぁ」
「誰が入れたんだろ?」
あたし、あたし、あたしあたし!
声に出して言いたいけれど、犯人だってバレたらまずいし、やっぱり言わない。
それにしても、スマホこっくりさんって、すごい!
教えてくれること、全部本当のことなんだ。
あたし、すっかりこっくりさんにはまっちゃった。
何でも聞いた。
明日の天気のこと。
理科のテストの答え。
意地悪な佐奈ちゃんの弱点。
何でも答えてくれるし、そしてそれは全部本当のことだった。
知りたいことが知れるって、超サイコー。
だからね、あたしはいよいよ、一番聞きたかったことを、聞いてみた。
「こっくりさん、こっくりさん。沢村君の好きな人を教えてください」
“深町 のぞみ”
え~、のろちゃん?
同じクラスだけど、しゃべったことなんてほとんどない。
だって、何をしてものろまなんだもん。
歩くのもしゃべるのも、何もかも!
だから、みんなからは、のろちゃんって裏で呼ばれてる。
そんな子を沢村君が好きなんて、ありえない!
「こっくりさん、こっくりさん。沢村君の好きな人を教えてください」
“深町 のぞみ”
また同じ答え。何回も何回も聞いても、変わらない。
「もういいや」
画面を消す。
けっきょく、ただのアプリだなぁ。
なんかテンション下がっちゃった。
それからあたしは、スマホこっくりさんを使うことがほとんどなくなった。
ー1週間後。
夕暮れ、カラスの声が聞こえる。
明日は待ちに待った林間学校。
リュックに荷物を詰めて準備をしていると、スマホが鳴った。
誰かからの通知みたい。よっちゃんかな。開くと、それは『スマホこっくりさん』からだった。
「え……」
あたし、息が止まりかけた。
だって、白い画面に、こう書いてあるから。
“今日、君は死ぬ”
何この悪ふざけ。
しばらく使っていなかったからって、こんなの書いていいわけがない。
画面に向かって、怒鳴る。
「こっくりさん、こっくりさん。あたし、死にません。やめてください」
だけど、画面の文字は変わらない。
“今日、君は死ぬ”
なんか怖くなっちゃって。
スマホの電源を落として、さっさと荷物に詰め込む。
ウソだよ、こんなの。絶対ウソ。
今日はもう終わるし、なんたって明日は、楽しみな林間学校なんだから。
コンコンッ。
ノックの音にびびってると、ママが入ってきた。
「なんだ。ママか」
「何よ。お化けでも見たような顔して。ねえ、それより、お醤油買ってきてくれない?」
「えー」
「余ったお金で好きなもの買っていいから。お願い」
めんどくさいなあ。
でも、ちょうど、林間学校に持っていくお菓子が足りないかも。
「じゃあ、行ってくる」
「ありがと。あ、スマホ忘れずに持っていきなさいね」
「え」
「外出する時の約束でしょ。じゃ、お願いね」
今は持っていきたくないなあ……。
まあでも、通知さえ無視すればいいよね。
荷物の中をまさぐると、スマホを引っ張り出してパーカーのポケットの中に放り込んだ。
よし。しょうゆも、お菓子も買えた。
スーパーを出て、大通りに出る。
その時ー
「あぶない!!」
あたしのすぐ目の前で、車のライトが光っていた。
あたしは初めて、空を飛んだ。
「うっ…う…」
うっすら目が開いた。
目の前に見えたのは、スマホの画面だった。
白い背景に、黒い文字がびっしり。
“今日死ぬ今日死ぬ今日死ぬ今日死ぬ今日死ぬ”
その瞬間、あたしは思い出したの。
こっくりさんを使うときのルール、決して疑わないことって。
もし信じていれば、こっくりさんに聞けばよかったんだよ。
死なないためには何に気をつければいいの?って。そしたらきっと、こっくりさんは教えてくれたはずなんだ。
だって、純粋に信じる子どもの味方だから。
「お願い、助けて……」
声をしぼり出す。
画面を見つめて、祈る。
もう疑ったりしないから。ずっと信じるから。
助けて―。
白い画面に、文字が打ち込まれた。スマホこっくりさんからの、答え。
“もう、遅い”