第2話サムライハート

文字数 1,051文字

「お疲れさまぁーすっ!お先でぇーす」
「ああ〜いぃ、気ぃつけてねー。お疲れさんー」
部活仲間(チームメイト)の後輩の挨拶が扉の方から聞こえ、隣で身体に浮いた汗をタオルで拭う同級生の一人が返した。
「はーいっ」
挨拶を返してくれた先輩に後輩はハードな部活を終えたとは思えない元気な調子で返答し、更衣室を後にした。
後輩の後ろ姿が消え、ベンチに腰を下ろしている私と後輩の挨拶に応じた同級生は顔を見合わせることなく、会話を交える。
「ホント元気いいなぁ〜あの娘って」
「そうだね……」
「なんだよぅ〜香那〜ぁ。いつにもまして沈んでんねぇ〜どしたぁー?」
「どうもしてない。ただ……」
「んー?ただ、何よ」
首を傾げる同級生(チームメイト)の情景が脳内に浮かぶ。
同級生が言葉の続きを促す。
「忘れて、アヤ。そういや、彼氏と約束してるんじゃ——」
「急くものじゃない。遅れるくらい毎度のことだし、許してくれるよ。はぐらかされると気になるってぇ〜香那〜ぁ!って、まあ香那がそうなると話さないよね〜意固地だかんねぇ〜香那は〜」
彩乃が勢いよく顔を覗き込み、私の表情を窺い見つめる。
憎めない笑みを浮かべる彼女に、恋人をからかうときに見せる表情かなと場違いな感想を抱いてしまった。
「意固地じゃ、ないしっ!」
顔を背け、拗ねながら否定する私。
「拗ねない拗ねないのー香那ちゃ〜ん。可愛い可愛いねぇ〜香那ちゃ〜んっ!」
幼い子供をあやすように私の頭をわしゃわしゃと撫でてくる彩乃。
「かっ……からかうなーッッ!」
恥ずかしくて、声を荒げて抵抗する私だった。
「ははっ、あはははっ——!」
私と彩乃の微笑ましいやりとりを眺めていた同級生の二人と先輩の一人が可笑しそうに笑い出した。

「うぅぅー……」
恥ずかしさのあまりうめき項垂れた私を、沙那恵と絵梨華と彩乃、麻衣先輩が笑いながらからかってくる。

いつか、いつかこの恥ずかしさを彼女(こいつ)らに……

仲良し四人組が私をからかい終え、更衣室から出て行ったのは完全下校時間の十五分前だった。

二十分もの間、四人にからかわれた。

復讐心を燃やすも、本気も本気というわけではない。

着替え終え、更衣室を後にして戸締まりを終え校舎に戻り昇降口を目指す。
昇降口を抜け校門をくぐり抜けたのは、完全下校時間の三分前だった。

イヤホンの線が繋がるスマホを取り出し、イヤホンを耳に入れ音楽アプリを起動させる。
プレイリストを再生させると、あるバンドの曲がイヤホンから流れ始めた。


——誰か、居ませんか?

以前よりも歩けているのかな、私って……?

孤独が増した私は、変わらない街並みへと一歩ずつ踏み出す。



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