第1話:不良少年と優等生

文字数 1,999文字

※当作品は違法賭博を推奨する意図で執筆しているものではありません。
※『ノベルアッププラス』さんにも先行して連載中です。
※使用している牌画像は転載・商用OKの『Gutenberg Labo』さんからDLしたフォントを私自身が画像ツールで着色した物です。

◇◇◇◇◇

「さて、残ったのはテメーだけだぜ? どうすんだ?」

 袋小路となっている、新宿区北高田町の通称『カモネギ通り』と呼ばれる商店街裏。表通りに比べて半グレ集団の仲間はもう全員が口から血を吐いたり、顔面から(おびただ)しい流血をして汚い路面にうずくまっている。
 残った金髪のソフトモヒカンの男は、思わず落ちていた仲間の三段警棒(さんだんけいぼう)を拾い上げた。

「こ、このクソがあぁっ!?」

「クソはテメーらだよっ!」

 振り下ろされた三段警棒をひらりと(かわ)した少年───竜ヶ崎和弥(りゅうがざきかずや)は、ソフトモヒカンの男の耳のピアスをつまむと、力任せにそのピアスを引っ張る。
 瞬間、男の耳たぶから血があふれ出した。

「ぎゃああああっ!?」

 激痛のあまり耳を押さえた男の顔面に和弥の空手でいう足刀(そくとう)、トラースキック。中国拳法でいう側踹腿(そくてきたい)がまともにヒットする。
 男はそのまま壁に激突して後頭部を強打し、頭部からも出血してその場に崩れ落ちた。

「ここは監視カメラに映らねぇだ? そんな場所を選んで墓穴掘ったのはテメーらの方だったな」

 8人ほどいた半グレ集団が文字通り血の海に沈んだその様子に、裏路地の隅で小さくなっていた艶やかなロングの黒髪の美少女───和弥のクラスメートである西浦(にしうら)小百合(さゆり)は、唖然としていた。

「怪我は()ぇか? 委員長?」

「え、えぇ………大丈夫よ。あ、ありがとう、竜ヶ崎くん………」

 西東京では有数の進学校である私立・立川南(たちかわみなみ)高校。今時珍しく制服は男子は学生服、女子はセーラー服を貫いている。
 勿論文部省からは「『多様性』に配慮するように」と制服を変更するよう“指導”を度々受けているが、越権(えっけん)行為を何よりも嫌う理事長は

「生徒にアンケートを取ったところ『今のままで何も問題ない』との回答が8割を超えている。そもそも主義を押し付けることのどこが『多様性』なのか」

 と全く譲る気配はない。
 そんな立川南高校で2年生ながら、ある意味“有名人”である西浦小百合と竜ヶ崎和弥。
 クラス委員長も務める文武両道の優等生で、『立川南三大美少女の一人』といわれる小百合。
 片や20世紀で時間が止まっているかようなオールドヤンキーな外見の、「どうしてあんな奴が立川南に進学出来たんだ」と他の男子から陰口を叩かれる和弥。
 実は同じクラスとはいえ、小百合が和弥とまともに話をするのはこれが初めてだ。
 それはそうである。文武両道の優等生である小百合が、時代遅れのヤンキーのような和弥と話す“接点”など一切無かったのだから。

 しかし、小百合にはどうしても気になる事があった。
 先週、反社会的組織の構成員、所謂(いわゆる)“ヤクザ者”に腹部を刺されて、そのまま亡くなった和弥の父・竜ヶ崎新一。
 表面上はリサイクル中古店の社長という事だが、しかし小百合も入っている部活の関係で、奇妙な噂を何度も耳にしていた。

『竜ヶ崎のオヤジの裏の顔は、麻雀の“雀ゴロ”“裏プロ”だ。ヤー公に刺されたのも勝ちすぎて恨みをかったからだ』と。

 男子はともかく、女子からは良くカラオケなどに誘われる和弥だが、これまで「バイトがあるから」「格闘技のジムに行くから」と応じた事は一度もない。
 現に半グレ集団を小百合の目の前でほんの数分で、全員を半殺しにしてしまったほどだ。「キックボクシングやムエタイを習っている」というのは本当なのだろう。
 しかし、だ。生活指導担当で、所属している部活の顧問でもある東堂龍子(とうどうりゅうこ)からも、「彼がアルバイトの許可願いを申請し、許可した」なんて話は聞いてはない。
 女子達の誘いを断る方便ならいい。ただ、和弥が本当にアルバイトをしていたなら、それはそれで大きな問題だが。
 最も、小百合には確信があった。

 ───「彼はアルバイトなんてしていない」

 そう思い、和弥をこっそり尾行してきた結果、今倒れている半グレ集団に絡まれたところを和弥に助けられたのである。

「委員長みたいな優等生が、こんな街に何の用事があるんだ。あンたみたいな美人がこんなトコをウロウロしてると、またそこのクソ共みたいなのに絡まれるぞ?
 いや、そこのクソ共だってもう、そろそろ立ち上がれるくらいには回復してるかもしれねぇ。日が出てる間にとっとと帰るんだな」

 それだけ言って小百合を一瞥(いちべつ)した和弥は、振り向くとさっさとその場を後にした。だが、帰れと言われて「はい、分かりました」と帰宅するつもりなど、小百合には更々ない。
 再び距離を置いて、和弥の後ろを再びこっそりと付いていく小百合。和弥はとある雑居ビルに入っていく。
 そのビルの看板には『3F 雀荘・紅帝楼(こうていろう)』の文字が、くっきりと映っていた。
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