序文

文字数 736文字


 古い関連書籍でも文集でもない。少し毛色の違う薄い本が君の興味を引いたのは、他にやることがないからだ。他に部員もいなくて(違ったらごめん)、これからどうしようかと、伸びをしている毎日。そこへやらなければならない課題が生まれてしまったから、君はこの部活をいかし続ける郷土愛へと目を向けた。そして今、この本を読んでいる。
 本に親しんでいる君なら、手作り感に驚くだろう。元にした作品の素晴らしさばかりが際立つ表紙。タイトルに(にじ)む試行のあと。妙な著者名。読み終わった後には、ちょっとした遊び心にくすりとして、奥付やあらすじににやりとするんじゃないかな。
 これを読んでいる君が、教師でないことを祈ろう。まあ別に、教師であってもぼくは困らないのだけど。できれば大人には読んで欲しくないし、そのことは君も感じ取ってくれると思う。これを読めば、君はぼくを探したくなるかもしれないから、一応言っておくけれど、菱久田香雪の曾孫は十一人いて、そのうち七人はこの中学校を卒業するか、する予定だ。たぶん、簡単には特定できないと思うし、そもそもどこまでが本当かなんてわからないだろう。絶対に徒労におわるから、ぼくはおすすめしない。……つまりは気恥ずかしいから勘弁してくれってことだ。それでも書き残しておきたいことがあったんだ。大人になってからではきっと、嘘になってしまうから。
 だからもし、君が退屈しているのなら、世界を面白く書き換えてほしい。
 大人が見たがる恋なんか、ぼくたちには必要ないんだって。
 大人が(うらや)む恋なんかじゃ、ぼくたちは救われないんだって。
 君は君の物語で、ぼくたちをにやにやとながめる大人たちを、ぶん殴ってほしい。
 思い知らせよう。
 ぼくらの恋は、大人が語れるものじゃないんだと。

 
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登場人物紹介

菱久田 曾孫(ひしくだ そうそん)仮名

文芸部部長を務める中学生。風土史研究家である菱久田香雪の曾孫。

仲間を探している。

彼女/x x x x 匿名

傍若無人な転校生。退屈な家も学校も大嫌い。

吉田 先生 仮名

司書。本が大好き。

活字が子どもたちの力になると信じている。

津野田(つのだ)仮名

恋する少年。いい奴。

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