エピローグ

文字数 916文字

 現実では、不幸は心を蝕むものだし、超ド級の幸運も、そうそうに使い果たしてしまう。非常時に発揮される良心だとか、不思議な力でドーピングした栄光だとか、ぼくにとって必要なのだろうかと思う時がある。自尊心を満たしてくれる夢のような舞台を用意されて、そこに頭までどっぷりつかれるのは大人だからじゃないかと疑う時がある。君は大人よりもずっと選択肢がなくて、基本的にお金を稼げなくて、出口の見えない生活をしていると思う。
 大人たちの言葉はいつもづれていて、北風のようにぼくらを追い立てる。あるいは、ころころと変わる空疎な言葉で、なだめすかされる。ぼくは優しくエスコートして欲しいんじゃない。君もそんな風に思ったことがあるんじゃないかな。かつての子どもたちが鈍感になってしまうのは、忘れてしまったからじゃない。言葉にしようとしてこなかったからなんだ。君の心中が無視されるように、言葉にしないことは、存在しないのと同じなんだ。
 世の中には絶対と言い切れることが少なくて、教科書の内容が変わるように、他人に教えられる真理なんてほとんどない。だから大人たちは適当なことを教える。
 もしも君が窮屈さを感じているなら、言葉にしてみてほしい。
 きっと、君の力になってくれるから。
 ぼくはそのことをこの部活で知ったんだ。すべては古くなって、どうしてもギャップが生まれるから、君に書き継いでもらえたらすごい嬉しい。
 言葉は人を結びつける。
 まったくのおせっかいだけど、本を破ってしまう中学生がやってこないとも限らないし、君の言葉で目覚めさせてほしいな。
 エロ本の話でもしながら。


 注  ※1 本書における人名は、菱久田を除いてすべて仮名です。
    ※2 吉田(仮)先生はすでに別の学校へ赴任されています。偶然にも吉田姓の司書さんが本校へいらっしゃる可能性もあります。ご注意ください。

 参考文献 『伊豆の踊り子』著・川端康成 新潮文庫

 謝辞

 本書を執筆するにあたり、たこ焼き屋のおじさんに目を開かされ、先人たちの作品と吉田先生にご助力いただきました。重ねて御礼申し上げます。
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登場人物紹介

菱久田 曾孫(ひしくだ そうそん)仮名

文芸部部長を務める中学生。風土史研究家である菱久田香雪の曾孫。

仲間を探している。

彼女/x x x x 匿名

傍若無人な転校生。退屈な家も学校も大嫌い。

吉田 先生 仮名

司書。本が大好き。

活字が子どもたちの力になると信じている。

津野田(つのだ)仮名

恋する少年。いい奴。

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