第2話

文字数 2,377文字

 カケリ・ラッカとムツェルフは、ラサンとユキネに案内されゴローヌのロッカーを調べていた。後ろめたさを感じつつ調べたが、すぐに終わる。入っていた物はわずかであった。
「お?」
 カケリ・ラッカはそこに気になる何かを見つけた。メモ用紙と思われるそれには、こんな文字が書かれていた。

 かるバ

「これは?」
「いったい?」
 カケリ・ラッカとムツェルフは考え始めた。ロボットがアナログでメモを取るとはどういうことなのか。これは印刷とは思えない。ペンで書いたと思われる。そこには一体どんな意味があるのか。この文字は何を表しているのか。カケリ・ラッカの推理はこうだ。
「これは、何かの文章の頭文字では無いか? ロボットながらに日本文化に目覚め、縦書きをしてみた。例えば、

 バカヤロウ
 ルビーなんて
 買えねえよ

 では?」
 ムツェルフはあきれ顔(をしていると思われる動作と音声)で、彼の推理を否定した。
「そんなわけないでしょう! 平仮名と片仮名にしている意味がありませんよ。これはきっと、

 バックドア
 るっくあっとざ
 かたぐるま

 ですよ!」
「意味が解らん!」
 探偵と相棒ロボットはシネコンの内部で喧嘩を始めた。ラサンとユキネは呆れ、戸惑う。我々はどうすればいいのか。ゴローヌはどうなってしまうのか。そんなことを考えていた。その時、ユキネは争う二つの影の先に何かを見つけた。
「あっ、それは!?」
 そこにユキネが見つけたものは、ハンバーガー店のチラシであった。そこには新メニューの名前を募集する旨が記されている。ユキネは争いを止めた探偵と助手に、ゴローヌの様子を語り出した。
「ゴローヌは、何かを呟きながら考えていました。この劇場のフードメニューのことだと私は思っていましたが、ハンバーガーらしき名前も出ていたように記憶しています」
「なるほど。ということは、この『かるバ』というのは、チラシにある『かるび』を使った新メニューの名前であるということなのか……」
「はい。きっとそうです。ゴローヌはこの劇場のメニューだけでは無く、近くのハンバーガー店のことまで考えていたんです。そんなこと、ロボットの心には重すぎるわ……」
 ユキネは顔を押さえて苦しみを露わにしてしまう。その時、ムツェルフが声を上げた。
「そ、そうかっ!」
「どうしたんだ?」
「大変です。私は今日の昼食をこのハンバーガー店で頂いたんです。その時、私は目にしていました。新メニューの名前をっ!」
「そ、それは……?」
「この新商品の名前は『ビビットかるび』となっていました。生き生きとした、という意味の”VIVID”と、電撃的なイメージの『ビビッ』を合わせた名前でした。そして、美味しかった」
「つまり、ゴローヌが応募したであろう名前は?」
「不採用ということに」
「そんな……」
 その場には重苦しい雰囲気が溢れてしまった。さて、ここまで来て読者の皆様は混乱しているかもしれないので少々の補足をさせていただきたい。裏方だ人当たりだなどと言って、どことなくロボットなど機械種族を下に観ているような人類が、今更何を心配しているのか? 機械種族が人間と同じ食事をとるとはどういうことなのか? 壊れたりしないのか? 支払いとかどうなっているんだ? などなど。その点を含めてカケリ・ラッカは頭の中で整理し、一つの結論を見出した。味覚センサーと消化器官を備えたロボットであるゴローヌは、ハンバーガー店に意見を申し出に行ったのだ。味をしっかりと吟味し、クレームをつけるつもりなのだ。今、ゴローヌは店の近くに潜み機会をうかがっている。すぐに止めに行かなくてはならない。4人はハンバーガー店に向かって駆け出していった。
 ストーリーテラーから一言申し上げれば、無茶苦茶な推理である。この探偵がまともな推理をする機会は訪れるのだろうか。しかしながら、この探偵の推理は支払われる依頼料に見合った働きをすることとなった。ハンバーガー店に向かう4人が道を走っているとユキネが叫び声をあげた。
「ゴ、ゴローヌですっ!」
「なにぃ!?」
 ユキネの指差す先にはヒョコヒョコと歩くロボットの姿。事態を把握したカケリ・ラッカはムツェルフと共にゴローヌに突撃する。
「わあぁ!!」
 ゴローヌは予期せぬ攻撃を受け、地面に倒れた。そして更なる攻撃にさらされる。
「くっ苦しいっ!!」
「大人しくしろ! テロ未遂犯め!」
「そうだそうだ! あの店は私のお気に入りなんだぞ!」
 一体のロボットを抑え込む人間と4つ足のロボット。その近くには人間の女性と人型ロボットが立ち、険しい表情で眺めている。
「テロ未遂って、なんのこと!?」
「証拠は挙がっている! 降参するんだ!」
 バタバタと暴れるゴローヌ。しかし、ユキネは何かがおかしいと感じたようで徐々に落ち着かせていった。
「ぼ、僕は破壊行為何て企んでいない!」
「では、このメモは? 新商品の命名キャンペーンに応募したんだろう!?」
「そ、そうですよ。でも、採用されなかったからって店で暴れるなんてことをするわけないでしょう。お店に名前と味を確かめに行ったんです。残念だったけど、美味しかった」
「おお!」
 ムツェルフは飛び上がった。
「で、では、何故行方不明になった!?」
「えーと……そ、そうか。休みの連絡を忘れていました」
 その言葉を聞いて、その場の一同から力が抜けた。なんだ、そんなことかと思って脱力する。しかしながら、ロボットの労働環境のことを殆ど知らなかったカケリ・ラッカは心の奥で安心していた。このことを憶えておかねばならないと考え、自分の手帳にメモしていく。そのタイトルには『ポプッコラ騒動』という名前が付けられていた。

(終わり)
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