第4話
文字数 1,270文字
「やばい……迷ったかもしれない……」
いや、言っておくがとっくの昔に瑠璃は迷子になっている。
それなのに、琉璃が自分が迷ったと自覚したのは杉林に入ってから一時間が経った頃だった。
琉璃は極度の方向音痴なのである。しかも悲しいことにそれを自覚していないのだ。そして、おまけと言ってはなんだが、みなさんお気づきの通り極度の怖がりでもある。
あたりはもう薄暗い。ガサガサと風が葉を揺らす音を立てるたび、琉璃はビクッと肩を上下させる。
「ひっ……うぅ、来なきゃよかった…」
やがてその目には暗闇で光るものが……おっと、それが何かは本人の名誉のため言わないでおこう。もしかしたら水飴かもしれないし。
「なんで? みんななんでいないの? みんなどこぉ! ちょっとぉ、返事してよぉ」
すると、琉璃が足を止め、呟いた。
「神隠し……」
周りをぐるりと見渡す。
「そういえばここは前にも通った道だ。ここも、ここも。なんで?」
方向音痴で同じ道を通っているだけである。
しかし、今の琉璃にそれは知るよしもない。
こういう時、いつだって方向を正してくれたのは一花なのだ。こう見えて、瑠璃は一花の言うことを実は信じたりしている。
「森が動いてるっ。一花の言ってた通り森が動いてるんだ。私をみんなに合わせないように動いてるんだっ」
だから違うって。
「どうしよう、もうみんなと会えない?」
べそかいて、独り言を言いながら森を走り回る空手着をきた女子高生。
そんな女子高生は、ついにその場にへたり込んでしまった。
「一花……」
これじゃあ、なんだかあまりにも可哀想になってきたが……
琉璃は、叫んだ。
「一花ぁ、一花ぁぁ」
「呼んだかい?」
「うわぁぁ」
琉璃が驚いて振り返ると、そこには一花がいた。ほっ。
「全く、やっぱりここにいたよ。みんなで道場戻ってみたらアンタいないんだもん。まあ、おそらくここだろ……って」
一花が言葉を切ったのは、琉璃が一花に抱きついたからだった。
「うえええん、一花がいなくなったと思ったよおおお」
「バカ。いなくなったのはあんたでしょ。だから私がこうやって一人で探しに来たんじゃない」
「ふえええええん、怖かったよおお」
薄暗くなった雑木林の中で、真っ白な道着の女子高生が抱き合っている。それもまた、乙である。
一花の胸の中で泣くだけ泣いて落ち着いてきた頃に、琉璃がか細い声で言った。
「オレは神隠しなんか怖くない……」
「はいはい、そうだね。わかってるよ」
「でも、神隠しで一花がいなくなるのは怖い」
「……悪かったよ。もう一人になんかしないよ。怖がらせてごめんね」
ピタッと磁石のようにくっつく二人。
「オレは美子ももちろん好きだ。公子も。でも、お前が一番好きだ……」
「そんなの」
一花が微笑む。
「とっくに知ってるよ。さっ、みんなのところに帰ろう」
夕日が二人の友情を包み込むように淡い光を放っている。
実に綺麗である。
いや、言っておくがとっくの昔に瑠璃は迷子になっている。
それなのに、琉璃が自分が迷ったと自覚したのは杉林に入ってから一時間が経った頃だった。
琉璃は極度の方向音痴なのである。しかも悲しいことにそれを自覚していないのだ。そして、おまけと言ってはなんだが、みなさんお気づきの通り極度の怖がりでもある。
あたりはもう薄暗い。ガサガサと風が葉を揺らす音を立てるたび、琉璃はビクッと肩を上下させる。
「ひっ……うぅ、来なきゃよかった…」
やがてその目には暗闇で光るものが……おっと、それが何かは本人の名誉のため言わないでおこう。もしかしたら水飴かもしれないし。
「なんで? みんななんでいないの? みんなどこぉ! ちょっとぉ、返事してよぉ」
すると、琉璃が足を止め、呟いた。
「神隠し……」
周りをぐるりと見渡す。
「そういえばここは前にも通った道だ。ここも、ここも。なんで?」
方向音痴で同じ道を通っているだけである。
しかし、今の琉璃にそれは知るよしもない。
こういう時、いつだって方向を正してくれたのは一花なのだ。こう見えて、瑠璃は一花の言うことを実は信じたりしている。
「森が動いてるっ。一花の言ってた通り森が動いてるんだ。私をみんなに合わせないように動いてるんだっ」
だから違うって。
「どうしよう、もうみんなと会えない?」
べそかいて、独り言を言いながら森を走り回る空手着をきた女子高生。
そんな女子高生は、ついにその場にへたり込んでしまった。
「一花……」
これじゃあ、なんだかあまりにも可哀想になってきたが……
琉璃は、叫んだ。
「一花ぁ、一花ぁぁ」
「呼んだかい?」
「うわぁぁ」
琉璃が驚いて振り返ると、そこには一花がいた。ほっ。
「全く、やっぱりここにいたよ。みんなで道場戻ってみたらアンタいないんだもん。まあ、おそらくここだろ……って」
一花が言葉を切ったのは、琉璃が一花に抱きついたからだった。
「うえええん、一花がいなくなったと思ったよおおお」
「バカ。いなくなったのはあんたでしょ。だから私がこうやって一人で探しに来たんじゃない」
「ふえええええん、怖かったよおお」
薄暗くなった雑木林の中で、真っ白な道着の女子高生が抱き合っている。それもまた、乙である。
一花の胸の中で泣くだけ泣いて落ち着いてきた頃に、琉璃がか細い声で言った。
「オレは神隠しなんか怖くない……」
「はいはい、そうだね。わかってるよ」
「でも、神隠しで一花がいなくなるのは怖い」
「……悪かったよ。もう一人になんかしないよ。怖がらせてごめんね」
ピタッと磁石のようにくっつく二人。
「オレは美子ももちろん好きだ。公子も。でも、お前が一番好きだ……」
「そんなの」
一花が微笑む。
「とっくに知ってるよ。さっ、みんなのところに帰ろう」
夕日が二人の友情を包み込むように淡い光を放っている。
実に綺麗である。