後編
文字数 1,670文字
私は胸に詰まったたくさんの不安を吐き出すように、大声を出してその場を後にしてしまった。
帰りの電車はちょうど会社帰りの人たちが多い時間帯で、ちょっと混んでいた。
座ることはできなかったけど、扉のそばにもたれることはできた。
涼に連絡して、確認したらいいっていう気持ちと信じてるならそんなことしちゃだめだっていう気持ちがせめぎあう。
でも、一番心を占めているのは――。
泣きそうになるのをぐっとこらえていると、知らない手がスカートをめくり、太ももを触ってきた。
後ろからは荒い息遣いが聞こえてくる。
【男性】
「わ、私は何もしていないっ!」
【男性】
「知らん! 私は何も知らん!」
男性はそう言うと、逃げるように開いた扉から降りてしまう。
涼のスーツの裾を掴もうとしたけれど、凛の言葉が頭から離れなくて、掴めなかった。
私たちは次の駅で降りて、涼の部屋へと歩く。
涼が私の手を握ってきてくれる。
だけど、いつもなら嬉しいその手も、今は体が勝手にびくっと反応してしまう。
痴漢が怖くて、男性である自分が怖かったんじゃないかと勘違いをしたのか涼はその手を引っ込める。
私が足を止めると、心配そうに涼が顔を覗き込んでくる。
どうしても、凛の言葉と涼の辛そうな顔が頭をちらついてしまう。
涼の頬を涙の雫が静かに伝う。
私はその涼の言葉にやっと得心がいった。
そして、そっと涼のことを抱きしめる。
背伸びをして、私は涼の耳元に口を寄せる。
私はきっと今までで一番の笑顔になっていたと思う。
今まで涼からもらった幸せ分、全部を足した……そんな笑顔。