前編

文字数 1,084文字

【涼】
「ねえ、付き合っちゃう?」
【翔子】
「は、はい……!」
 憧れていた職場の先輩の突然の告白に、私は嬉しくてすぐに返事をした。
 涼は今まで付き合ってきたどの彼氏よりも優しくて、毎日がとても幸せ。
 仕事にも身が入り、充実していた。
 ある日の彼氏の家。
 一緒にベッドの中にいるときも彼は優しい。
【涼】
「……」
【翔子】
「ど、どうしたの? なんか辛そうだけど……」
【涼】
「あ、あー……翔子があまりにもかわいくてさ。でもあんまり無茶させたくないなーって」
【翔子】
「そんなの気にしなくていいのに。私も涼ともうちょっと繋がってたいかな」
【涼】
「はは、俺ら同じこと考えてたんだな」
【翔子】
「だね」
 涼はいつもこんな感じだ。
 私と一緒にいると嬉しそうだけど、なんだか辛そうな顔をする。
 だけど、私はなんだかまだ踏み込めなくて、その理由をそれ以上聞けずにいた。
 付き合い始めてから1ヶ月くらい経ったある日、私は学生時代からの友人とお茶をしていた。
【美恵】
「ねえ、ねえ! 新しい彼氏の写真見せてよ~! 面食いの翔子のことだからきっとイケメンなんでしょ?」
【翔子】
「た、たしかに面食いだけど、別にイケメンだから好きってわけじゃないよ?」
【凛】
「イケメンっていうのは認めてるわね」
【翔子】
「あ……」
【美恵】
「ほら、見せる、見せる!」
【翔子】
「えー?」
【凛】
「そう言いながらもめっちゃ嬉しそう」
【翔子】
「へへへ~」
【翔子】
「はい、これが彼氏の涼」
【美恵】
「やっだ! 本当にイケメン! こんな人、うちの職場にいないんですけどっ!」
【凛】
「……」
【美恵】
「凛もそうでしょ?」
【凛】
「……」
【翔子】
「凛?」
【凛】
「ねえ、もしかしてなんだけど、彼氏の名前、高梨涼……?」
【翔子】
「え、うん。そうだよ?」
【美恵】
「何、知り合い? もしかして元カレとか!?」
【凛】
「私の元カレではないよ」
【美恵】
「じゃ、友達とか?」
【凛】
「あー……うん、学校行ってたときのバイト先の子の元カレだと思う……」
【翔子】
「それで、どうしてそんなに複雑な顔してるの?」
【凛】
「いや、間違ってるかもしれないし、さ」
【美恵】
「なんかあるんじゃないの? 気になるって」
【凛】
「いや、ほんと、間違ってるかもしれないよ? 別人な可能性あるよ?」
【翔子】
「そこまで念を押すってことは何かあるの?」
【凛】
「……」
【美恵】
「ほら、きびきび吐く! そこまで言ったら気になるって」
【凛】
「翔子、本当に……聞く?」
 私は聞かないほうがいいかもしれないと思いながらも、こくりとうなずいた。
【凛】
「……彼ね、彼女の体の一部を食べたの……」
【翔子】
「え……?」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色