誕生日の思い出

文字数 1,999文字

平地光彦(さかなしみつひこ)は中学の同級生だ。
勉強は優秀、スポーツ万能で見た目もかっこいい。クラスの人気者で女子にもモテていた。

一方の俺は頭も鈍く運動音痴、顔はブサイクでニキビ面でしかも太っていた。
性格も暗いからクラスのみんなからよくイジメられていた。
もちろん女子には露骨に気持ち悪がられていたさ。
女というのは残酷な生き物だから常にイジメ加害者の味方だ。
その証拠に彼女の居るイジメっ子はいくらでもいるが、イジメられっ子で彼女が居る奴なんか見たことないだろ?
しかしそんな俺がクラスの悪餓鬼どもにねちねちとイジメられているとき、いつもかばってくれた女子がひとりだけ居たんだ。
「もう、みんなからかうのはいい加減にしてね。**君が困ってるよ」
それが涼宮繭(すずみやまゆ)だ。
色が白くて美しい顔だち、サラサラした髪。
細くて撫で肩で、すらりと長い手足。
全身に清潔感が溢れていて、近くに来るといい匂いがして、とても俺と同じ人間とは思えなかった。
彼女が声をかけると少なくともその時だけはイジメが止むんだ。天使かと思ったよ。

「俺、繭の処女いただいたぜ」
体育の着替えで女子が居なくなった教室で、平地光彦が仲間の悪餓鬼どもにそう言うのが聞こえた。
俺は急激に顔に血が上るのを感じた。
「え、マジが光彦」
「あたりまえだろ。あいつああ見えて意外にエロくてさ・・・」
平地光彦はあたりに聞えよがしに涼宮繭がどんなだったかを喋っていた。
これは俺に対するどんなイジメにも勝るイジメだ。
平地光彦は俺に聞かせているんだ!横目で俺の顔をチラチラ見ながら。
俺は平地光彦を許さない。必ず復讐すると決めた。

「やめたほうがいいよ、**君」
その日の放課後、帰宅準備をしている俺に木器直美(こうずきなおみ)という女子が突然話しかけてきた。
木器直美は四角い顔をして、ずんぐりしたゴツめの体形をしている。
クラスの男子からは『ゴリ子』と呼ばれている、はっきりいってあまりカワイイとはいえない女子だ。
しかしそれでも日ごろ女子から声をかけられることなんかない俺は少し緊張して聞き返した。

「えと・・なんのことかな?」
「**君、怖い顔している。何か物騒な事考えてるでしょ?」
「え・・あ・・・どゆこと・・」
「**君はイジメっ子に仕返しとか考えているでしょ?」
「・・・・」
「それ、やめたほうがいいよ。私もイジメられてるから気持ちがわかるの。でも復讐なんかいいこと無いよ」
そう言うと木器直美はそっと俺の手を握った。
女子に触れられたのは生まれて初めてだった。柔らかくてゾクゾクするほど気持ちいい感触だった。

俺はその日からからなんと、木器直美と付き合うことになったんだ。
直美はブスだと思っていたけど、付き合いだすとどんどんカワイく見えてきた。
クラスのみんなに知られたらどんなイジメに会うか知れないから、それは密かな付き合いだったけどね。
とにかく俺みたいなブサイクに彼女ができるなんて夢のようだった。
数日後には俺は直美とはじめてのキスをした。
俺はもう平地光彦への復讐なんかどうでもよくなっていたんだ。

俺の誕生日が近づいて来た。
「誕生日には特別なプレゼントをあげるから期待してね・・」
女の子からの特別なプレゼントといえばもしかしたら・・・。

直美から誕生日の午後7時に児童公園に来るように言われた。
すでに薄暗くなっていて人気の無い公園のジャングルジムの側に直美は立っていた。
手には大きな紙袋を持っていた。

「直美、お待たせ」
「あのね、ちょっと目を瞑ってくれる?最初のプレゼントを今渡すから」

最初のということは、他にもプレゼントがあるってことか?
期待しながら俺は目を瞑った。
俺の手に何か固い棒のようなものが触れたので、それを掴んだ。
わりと重い物だ。

「もうひとつのプレゼントは**君の足元に置いたよ。10数えたら目を開けて」

言われた通り10数えて目を開けると、直美は30mほど向こうに立っていてこっちを見ていた。

「ごめんね、**君に会うのは今日で終わり。**君のこと嫌いってわけじゃないんだけど生理的に無理っていうか、キスしたときも吐きそうになっちゃった」

直美は何を言ってるんだ?

「プレゼントは**君の大好きなものよ。受け取ってね」

俺の手に握られていたのは、大きな血まみれの(なた)だった。
足元に置かれていたもの・・・
それは切断された涼宮繭の生首だった。

「**君のおかげでその女に復讐できたわ。私に聞えよがしに光彦君のことを自慢する嫌な女」

直美の姿は暗闇に溶けて行った。

「**君の復讐にもなったでしょう?だから私の代わりに警察に行ってね」

最後に直美の声だけが暗闇から聞こえた。

「言い忘れてたけど、お誕生日おめでとう」
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