美代子と絹子

文字数 1,097文字


 美代子が娘を連れ、千葉に戻って半年後、母、和子が亡くなった。
和子の亡き後、お店は絹子と美代子の二人でやってきた。そして四年後には、三人の従業員を雇うまでになった。
 絹子の娘、節子は22歳の時、嫁にいった。美代子の弟、進は大学卒業後、愛知県の自動車メーカーに就職し、2年前に結婚した。
 そして来年、大阪で仕事をしていた絹子の長男である博が、千葉の川島家に帰ってくる事になったのだ。その為、絹子は家の新築を提案した。川島の家は、その大きさだけは立派だったが、経年劣化が酷く、直すより建て換えた方がいい事は明らかだった。
 美代子は自分達が川島の家を出ていく事にした。この家を出ても、まつの屋の収入があれば食うに困らない生活はできる。いつまでも絹子さんに甘えている訳にはいかない。
 だが、絹子は美代子の提案を却下した。今、この辺りは地価が上昇している。川島家の土地は大きかったが、その半分以上が傾斜地で、ほとんど価値が無かった。だがここ最近、近隣道路が整備され、住宅や店舗が建ち始めてからは、不動産業者からの連絡が後を絶たない。
 絹子の案は、今、高騰している川島家の土地を半分売却し、残りの土地を二等分して、それぞれ家を建てる。売却益も二等分にして、建築費に充てればいいというものだった。
 確かに、川島家の土地は広く、まつの屋の店舗部分を除いても三百坪近くある。実際、空いている土地のほとんどは林で、一部を家庭菜園として使っているだけであった。だが、その土地は川島家の嫁である絹子さんのものである。いくら美代子の母が川島家の長女だったとしても、当然、相続権はない。
 そんな事は受け入れられないと言う美代子に対して、絹子は一歩も引かなかった。自分が頑張ってくることができたのは、川島家と松野家のおかげだと言った。戦後の生活苦や子供達の学費、それを助けてくれたのは、隆三と和子さんが川島家と松野家の財産を処分しながら、それに充ててくれたからだと言う。
 自分は川島家に嫁いで幸せだった。夫の両親、和子さん、さらには美代子のおかげで、未亡人の自分が子供達を無事育てる事ができた。だから、この提案を聞き入れてほしいといって譲らなかった。
 絹子の言う通り、敷地の半分以上を処分しても家二件を建てる事は出来る。それでは悪いと再度、美代子は断ったが、絹子は聞き入れなかった。さらに、自分のところには博が帰ってくる。 もうお店も続ける必要がなくなったから、全て美代ちゃんに譲ると言うのだ。元々、まつのやは松野家の稼業だから、美代ちゃんが引き継ぐのが筋だという。
美代子は感謝してもしきれない想いで、その提案を受け入れた。

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