第62話  最大の試練 4

文字数 3,242文字

 平八さんの態度に一瞬気を取られていたが、俺の中では納得出来ないことばかりだった。

華凛……なんであいつが……いじめられなきゃならんのだ!
 思ったことが勝手に出やがる。感情むき出しなのは止まらなかった。

 震える聖奈はずっと泣いていた。

 顔も上げれないくらいにぐしゃぐしゃだ。



 何も言わず聖奈に抱きつくと、耳元でごめんと謝った。

ごめん……
あんたがこんなに怖いなんて……
ごめん。ごめんね、聖奈っ!

 そう言って抱きしめると、聖奈はもっと声を上げて泣いてしまった。


 広い部屋に聖奈の声だけが響き渡り、彼女が大人しくなるまでずっと抱きしめていた。

平八さん。ごめんなさい……

いえいえ。

それもこれも……ももとまろのお陰でございますれば。


よくやってくれたね。ありがとう

 いつの間にかお漏らしを処理した平八さんはまろをしっかり抱きかかえていた。
まろ。今のお漏らしは見なかった事にしてあげますぞ
 聖奈が俺の胸で大人しくなってくると、頃合と見たのか平八さんは淡々と説明してくれる。

この件。私は楓蓮お嬢様にはまだ伝えない方が良いと伝えたのですが、聖奈お嬢様はきっと分かってくれると……そうおっしゃいました。


ですがこのような結果になるのは、平八には分かっておりました

 やっぱり親父の親友という事なのだろうか
……平八さん。ごめんなさい
いえいえ。楓蓮お嬢様も中々よい動きでしたが。まだまだ平八の足元にも及びませんな
さっきの攻撃を受けたのはワザと?

いかにも。この方法が一番手っ取り早いですからな。

平八めには……楓蓮お嬢様に間違っても、手を上げたくありませぬ。

 参った……完敗だ。

 怒りに身を任せ、平八さんを倒そうとした自分がとても愚かだ。

今度、稽古をつけてあげましょう。

その時にこそ、存分に暴れてもらいたいものですな

 その時ギュっと抱きしめてくる聖奈に抱きしめなおすと、
本当に怖かったじゃないの……楓蓮があんなに……
聖奈……ごめん。ごめんなさいっ……

 また……やっちまった。バカみたいに……

 感情に身を任せたらロクな事がありはしない。



 これじゃ……中学の頃から、俺は何も変わってない。



 ※


 そこから聖奈はずっと俺にしがみ付いていた。が暴れまわったのが相当怖かったのか、ぎゅっと抱きしめたまま震えていたのだ。



 平八さんは立ち上がると、再びお茶を入れてくれる。俺の攻撃など全く効いていないかのように、ごく普通に歩き、湯飲みを持って来た。

しかし。このままでは時間がありませんな。聖奈お嬢様。平八が説明してもよろしいでしょうか?
うん……お願い

 聖奈に許可を貰った平八さんは一口お茶をすすると、淡々と喋り始めた。






 華凛がいじめられた。

 それを聖奈が知ったのは今日の夕方らしい。


 いつの間にそんな連絡があったのかを聞くと、平八さんはこう説明した。

どう言う訳か、楓蓮お嬢様の電話番号で掛かってきました。

華凛お嬢様は本日。今すぐにでも来て欲しいと連絡があったのです。


楓蓮お嬢様には極秘との事でした。これには平八や聖奈お嬢様も訳が分かりませんでしたが、今思えば、スマホが壊され連絡が取れなかったのでしょう

 あいつ! それで……俺にスマホ貸せって言ってたのか!
聖奈お嬢様はすぐに緊急だと察知し、平八めを遣わしました。楓蓮お嬢様がアルバイトに行くのを見計らって、家へとお邪魔させて頂きました
待ってくれ! 何で。何で華凛は……俺に言わないんだ! 意味が分からない! 何で聖奈に……

 すると後でお話しますと断られると、顔が歪み出した。


 なぜだ。

 何故華凛は……俺より先に聖奈を選んだんだよ?

す~っす~~!

 ああ、ごめん! 怒ってるわけじゃないんだ。

 思わず手を差し伸べると、飛び掛ってきて顔をベロベロ舐められてしまう。


 分かった。分かったから! 落ち着いてくれ!

犬は主人の声色に敏感ですからな。すぐに分かるんですよ。

 あまりにも激しい求愛行動に話がストップしてしまう。

 ももまろを落ち着かせるのに、俺はニコニコスマイルを見せ付け、怒ってないアピールを繰り返した。

さて、そろそろいいでしょう。お話に戻りますぞ。


最初。華凛お嬢様はスマホが壊れた。それだけしか言いませんでした。

しかしこのような状態のスマホを見てしまえば、理由はそれだけではないのは一目瞭然です

 その後、聖奈は仕事があり手が離せなかったらしく、まずはスマホの修理をする為にショップに赴き、代替機を受け取った。

 幸いデータなどは復元できたそうだ。

華凛お嬢様は、修理の値段はどのくらいか聞いておられました。

平八めは正直に答えると……その時彼女は大泣きしてしまったのです。


ずっと楓蓮お嬢様の名前を呼び、何度も謝っておられました

華凛……
 やばい。今の話だけで……涙が勝手に……

全てを平八に教えてもらえないか、そう質問すると、華凛お嬢様は全部お話してくださいました。


学校で男の子にいじめられ、スマホを取り上げられ、壊されたと

あぁ……ダメだ。そんな話されちゃ、頭がおかしくなる

 思わず口に出すと、聖奈がギュっと締め付けてくる。


 分かってる。分かってるけど……やばい。


 今にも立ち上がって、出て行きそうになる。

そして華凛お嬢様は何度もおっしゃられておりました。


この件、楓蓮お嬢様には内緒にして欲しいと

えっ?
……何故だ! 何故俺に言わない! 俺に言えばすぐ……!
仕返しにいくのですかな?
当たり前じゃないですか! 何で華凛を……なんであいつばかり……
 すると平八さんは怒り狂う俺を見ながら「それです」とだけ言った。

華凛お嬢様はそれが嫌なのでございしょう。

きっと楓蓮お嬢様に言えば、見境なく仕返しに行くだろうと、そして……こうも言っておられました。

「今お兄ちゃんも頑張ってるから。僕の事で心配かけたくない」と

 それを聞いた瞬間、俺は不甲斐なく涙が溢れてしまった。
華凛……
なんで! なんでだよ……
 俺が完全にダウンしてしまうと、今度は聖奈が抱きしめてくれた。

あいつは悪いことなんか絶対しない。

華凛が人に悪さするハズが無いんだ!


なのに何故……華凛ばかり……

楓蓮。この件は私達に任せて。華凛ちゃんと約束したの。

この事は……華凛ちゃんに絶対に言わないで

何でだよ! そんな事できっか! ふざけんな!
約束なのよ。それに華凛ちゃんは……自分でどうにか解決しようと思ってる。楓蓮には迷惑を掛けないように。だからあなたは知らないフリをして欲しい

なんだと? 聖奈お前……お前ならそんな事できるのか?

大事な弟がいじめられ、知らないフリをしろだと? そんなの黙っていられるのかよ!

あの子はとても幼い。それは……前から気になってたわ。

だけど今回の件は、あなたに頼らず、一人でどうにかしようと、頑張ろうとしているのよ

そんな……

このままじゃいけない。

それは華凛ちゃん自身でも分かってる。だから今必死に頑張ろうとしてるの。


私は……華凛ちゃんがあなたに連絡しなかった理由は、それだと思うの

最初は平八にもイジめられたという事実は伏せておりましたからな。

恐らく……聖奈お嬢様にも内緒で、まずは自分でどうにかしようと……そう思ってたのでしょう

楓蓮。つらいでしょうけど。今回は黙って見てあげて。それが一番華凛ちゃんにとって良い方法だと思う。

帰ってきたら優しいお姉ちゃんとして、笑顔を見せてあげて

華凛お嬢様は……楓蓮お嬢様に頼らず、自力でこの問題を解決しようとしておられます。


ここは我慢なさいませ。彼女が自分で解決するその時まで……見守ってあげましょう。

 うぅっ。だめだこれ。

 今だかつてない絶望に吸い込まれていくようだ。

 

 一緒に住んでおきながら、目の前に居ながら、俺は何もする事が出来ないなんて……今でさえ演じる自信が無い。

その代わり。私や平八が全力で華凛ちゃんをサポートするわ。

あんたの無念な気持ちも上乗せして……華凛ちゃんを守る

任せて。楓蓮。私だって……華凛ちゃんをいじめる奴は許せないのよ!

――――――――――


 次回 最大の試練 5 終



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登場人物紹介


 ★登場人物でも若干のネタバレを含みます。第一部からお読みいただきますようよろしくです。

 ★逆に第二部の登場人物を先に読んでから、第一部をお読み頂きますと、別の意味で楽しめます。

 

 ★読者視点は神視点。登場人物の心の声も聞こえます。(フキダシの色がこの色)

 ★ 黒澤 蓮 くろさわ れん


 本編の主人公。高校一年

 男女入れ替わり体質。
 
 弟の凛と共に、新天地で新たに生まれ変わろうと、楽しい学校生活を送ろうとする。友人作りに重きを置き、人との付き合いにはとても慎重である。


 自分自身の事よりも、仲間の為ならば凄まじく有能になる。

 ★ 白峰楓蓮 しらみね かれん


 蓮の女性の姿。類稀なる美少女だが本人にはあまり自覚がない。


 外部には黒澤家の親戚(蓮の姉)となっている。

 楓蓮では世間との関わりあいを最小限にしてきたが、徐々に一人の女性として目覚め始める。

 

 自分を理解してくれる人間が増えるたびに楓蓮は飛躍的に成長してゆく。  

 ★ 黒澤 凛 くろさわりん


 小学校六年生

 男女入れ替わり体質。

 

 兄である蓮を慕い、とっても素直で女の子のような性格。
 ことある毎に兄に甘えてしまい、いつまで経っても、子供のままなので、蓮は凛の将来をとても心配している。

 

 二部中盤で凛オンリーの章があります

★ 白峰 華凛 しらみねかりん


 凛の女性の姿。

 外部との接触が無いので、彼女の存在を知るのは黒澤家の秘密を知るものだけ。

 楓蓮と違い、おしゃまさん。

★ 黒澤 玲斗 くろさわ れいと

★ 白峰 麗華 しらみね れいか


蓮や凛のお父さん。ただいま遠方で仕事中。

麻莉奈や平八。ティナとは大親友。


後半から再び登場します

★ 美神聖奈 みかみせいな


 高校で蓮と同じクラスとなる。実は小学四年生までの幼馴染。

 容姿端麗。成績優秀。運動神経抜群。リーダーシップ抜群。お金持ち。


 高校当初から蓮と関わりを持ち、お互いに影響されてゆく。無二の親友?

 記憶喪失だったが、徐々に昔の事を思い出してゆく。


 二人目の主人公。

★ 平八 へいはち 


 聖奈専属の運転手。

 黒澤家の秘密を知っており、蓮の親である麗斗(れいと)とは旧知の仲

 おっぱい職人。ツイッタのフォロワーは10万以上の有名人。

 作中でも最強だと言われるが……

★ 白竹 美優 しらたけ みゆう

 

 男女入れ替わり体質

 蓮と同じクラスとなる。ピンクの髪が目立つ美人。とても内気で、語尾が変になる。

 自分の家の喫茶店で働いている事になっているが、実は魔優と入れ替わっている

 歌が上手く、全国でも有名な絵師でもある。(エロ同人が本業)

 

 三人目の主人公。 

★白竹 美樹 しらたけ みき


 白竹美優の男性の姿。

 外部では白竹魔樹と名乗っているので、彼を知るのは家族と秘密を共有する人のみ。

 主に喫茶店で厨房担当したり、サイクルの都合上、学校でも魔樹として振舞う。

 男の子の身体で遊ぶのが大好き

★白竹 魔優 しらたけ まゆう


 男女入れ替わり体質。

 外部では白竹美優と名乗っているので、彼女を知るのは家族と秘密を共有する人のみ。

 主に喫茶店で接客担当。サイクルの都合上、学校でも美優として振舞う。

 心の中は女の子なので、こちらが真の姿となる。

 四人目の主人公

★白竹 魔樹 しらたけ まき


 魔優の男の姿。外部に知られているのは魔樹である。

 蓮の隣のクラスで、常にクール。成績も良く、空手や合気道を習得。

 学校内では魔樹王子と呼ばれるほどモテる。


 自分の家の喫茶店で働いている事になっているが、実は美優と入れ替わっている

 乙女ゲー大好きのツンデレ。

★白竹 麻莉奈 しらたけ まりな


美優。魔優の母。入れ替わり体質。


とてもピアノが上手く、蓮はプロの犯行だと断定。

双子の母だけあり、とても美人だが色々とヤバい人。

男の姿は、でかい上にマッチョらしい。


★ じいじ


 白竹家のおじいさん。喫茶店のオーナー。

 小太りでツルっぱげ。チョビ髭が可愛い。

 厨房担当で楽しい事があると、その場でクルクル回りだす。

★ 染谷龍一 そめやりゅういち


 男女入れ替わり体質。

 蓮と同じクラスとなり、前の席という事で付き合い始める。

 わりと積極的で、クラスでも人気がある。

 楓蓮に一目惚れし、ずっと彼女を追い求める。

 オムライサーでありポニテマニア。

 

 五人目の主人公

★山田 龍子 やまだ りゅうこ


 龍一の女性の姿。

 楓蓮を追って同じ喫茶店で働く事になる。全国でも有名な山田組の人間。

 ケンカが強く、蓮も認めるほど。

 楓蓮に近づく男を排除しようとする俺っ子。

★山田 虎子 やまだ とらこ


男女入れ替わり体質。龍一の弟(妹)

全国統一を夢見る女の子。既にチームを結成しており、チームヴァルハラと名づける。

口調はキツいが、兄弟には頭が上がらない。

デコトラならぬデコチャリで街中を暴走する。

★染谷 翔一 そめや しょういち 


男女入れ替わり体質。龍一の兄(姉)

龍一が恐れる唯一の兄貴。百人でかかっても勝てないらしい。

ただいま、新婚生活真っ最中。

★染谷 桜 (そめや さくら)


 翔一の奥さん。普通の人間。

 とても清楚で大人しそうな美人だが染谷三兄弟は彼女に対し頭が上がらない。

 翔一を女らしくする為、日々調教中。

★百済 紫苑 くだら しおん


 高校二年。軽音部。実家はソッチ系統の百済組。

 楓蓮達と一緒に喫茶店でバイトを始める。関西弁ちっくな喋り方だが、とても優しく後輩想い。

 蓮の同じクラスである、米山まゆこと、坂田沙織は小学校からの付き合い。

 マイブームはマジョリーナちゃん(ミニチュアダックス)を可愛がる事。

★坂田 沙織  さかた さおり


 高校一年。蓮と同じクラス。

 いつもニコニコ。おっとりとした口調でマイペース。

 紫苑と同じ軽音部。ベース担当。

 親が犬のブリーダーで楓蓮に二匹のダックスを譲る。

★ 西部

 蓮と同じクラス。

 事あるごとに蓮に絡んでくるが、その目的は聖奈や美優と接点が持ちたいが為である。

 ツイッター名では「モントゴメリー」。おっぱい職人を神と崇める。

★真鍋

 蓮と同じクラス。西部の友達。

 頭は良く、テストでも上位だが、彼もおっぱい職人を神と崇める。

 ツイッター名は「穴バースト」

★米山 まゆこ (だんじりバージョン)


 蓮と同じクラス。坂田とは昔からの親友で、紫苑は先輩に当たる。

 魔樹王子にベタ惚れてしまい、蓮に紹介してもらえるよう頼んだ。

 バスケ部所属。一年なのに相当の実力を持っている。

★ 三輪 加奈子 みわ かなこ

 

 蓮と同じクラス。坂田沙織の友達で幼稚園からの付き合い。

 男の子同士がホニャララするのが好き。

★ 清原 愛美 きよはら まなみ


 魔樹と同じクラス。米山まゆこと中学時代からの付き合い。

 ちなみに魔樹王子と呼び出したのはこの子。

★ 梶谷


 蓮と同じクラス。西部の友達で小学生からの付き合い。

 バスケ部所属。一年でレギュラー筆頭。

★高坂


蓮と同じクラス。梶谷の友達。

ギャルゲーのアイドルプリンセスをこよなく愛する男の子。

★ 鼻


楓蓮が命名。

その昔、蓮にケンカ売ってきたり、美優をナンパしたり、ろくでなし男であったが楓蓮や龍子にボコられる。だが楓蓮に鼻を治してもらったと勘違いしている。

楓蓮に殴られてから、とんでもなく優秀な男へ変貌する(だがケンカは弱い)

★ヴァルハラメンバー 


 只今メンバーは八人。

 虎子率いるチームヴァルハラメンバー。俗に言う不良だが、楓蓮。龍子。虎子には従順。

 実は全員イケメンレベルだが、とにかく頭も弱く、ケンカも弱い。

 NO表示されており、変なヤツが混じってます。 

 竜王 冴子 りゅうおう さえこ


 高校一年。西部曰く、彼女と美神聖奈。白竹美優を三大美女認定している。

 いつも笑顔。とても愛想が良い彼女だが……

 王二朗曰く、超危険人物。鞄にスタンガンを隠し持ち、女の子を襲うらしい

★ 播磨 王二朗 (はりま おうじろう)


 高校一年。竜王冴子と共に登場。190センチの巨漢であり極道顔。

 とてもじゃないが高校生には見えない容姿に、シルエット姿となっている。

 警官とエンカウントすると、ほぼ職務質問されてしまう。

 ゴリラのモノマネが神がかっている。

★竜王 将哉 りゅうおう しょうや


 萌ゴリと共に現れた男性。とてもイケメンだが萌にナンパーマンであると暴露されてしまう。萌は恋人だと告げるが……楓蓮は最初から将哉を警戒する。 

★稲坂 萌 いなさか もえ


 楓蓮が早朝マラソンに出かけた際に知り合った女性。

 巨漢で筋肉質なので、楓蓮は男だと勘違いするほど。

 とても気さくでしゃべりやすい印象を受けた萌ゴリ。ちなみにラッキースケベ体質。

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