あるよく晴れた日(朝)

文字数 1,927文字


 「…んみぅ…」
 容赦無く差し込んでくる朝日に、布団を被り、小さく抵抗する。
 そのまま暫く、もにもにと布団の中で眠気と格闘し、目が覚めた頃に起き上がる。

 「やっぱり、カーテン必要かなぁ…」

 わしわしと、寝癖で乱れた頭を軽く掻く。
 布団を押し退け、もそもそベッドから降りて、大きく伸びをする。
 「んっ…ん〜〜…っ!…んんぅ」
 だらんと腕を下げて、そのままてしてしとトイレへ行き、そして洗面室へ向かう。
 ぼけーっと寝惚け眼の顔が、洗面台の鏡に映り込む。
 手早くうがいと洗面を済ませ顔を拭くと、やっと目が醒めた。
 「ぷはあ…」

 こうして私のの〜んびりな一日は始まる。


 顔を洗って着替えたら、銀色の取っ手付きの箱を持って家を出る。
 ぱたぱたと布靴で走り向かう先は、この村の大広場。
 私の他にも何人も人が来ていて、その誰もが銀色の取っ手付きの箱を持っている。
 「おはようララ」
 「おはようスミー」
 「おはようララ」
 「おはようございます、レイラさん」
 「おはよーララねぇ」
 「おはよう、リナちゃん」

 挨拶や最近起きたことなどを話していると、遠くから馬車を引く、『ガラガラガラ…』という車輪の音が聞こえてくる。

 やがて馬車は大広場の空いたスペースに止まり、中から男性が出てきた。

 「皆さん、朝も早くからお待たせして申し訳ありません。おはようございます、牛乳売り『アルノ』。新鮮な牛乳をお届けに参りました」

 男性が帽子を取って挨拶すると、集まっていた人達が、列を作って並ぶ。私もその列のひとつに並び、順番が回ってくるのを待つ。
 「おはようございます。牛乳一本、それからチーズも一つ、下さい」
 「はい。牛乳一本、チーズを一つ、ですね。…空の瓶はありますか?」
 私は銀の箱から綺麗な透明の瓶を出す。
 「はい」
 「はい、確かに。お代は620グラスです」
 私はポケットから穴の空いた色ガラスの硬貨を取り出す。一枚10円の赤硬貨を二枚、一枚100円の緑硬貨を六枚。男性に手渡し、チーズと牛乳瓶を受け取る。受け取ったら、素早く銀の箱にしまう。

 この箱は『冷蔵ボックス』と呼ばれている、常に中を10℃に保つ、持ち運び用の魔道具だ。内側の底面に、温度保存の魔法陣が刻まれているらしい。これには直接自分の魔力を注ぐのではなく、中に一緒に充電魔石を入れておく。
 充電魔石は、自身の魔力を注ぎ込むと、暫くはその魔力をその身に保持しておいてくれる特殊な魔石(いし)だ。牛乳を買うと、もれなく箱とセットで貸し出してくれる。牛乳売りさん太っ腹。

 「いつもありがとうございます」
 「いえいえ。美味しい牛乳は、お菓子には必要不可欠!欠かせないです」
 「またいらして下さいね」

 男性にペコと会釈して、私は大広場を離れた。


 「ただいまー」
 家に帰ると、早速朝食の準備に取り掛かった。

 「先ずは…」

 刃の長いナイフを手に取り、棚から出したパンを、数枚スライスして切り出す。さっき買ったチーズも同様、薄くスライスして切り出す。更にベーコンもスライスして切り出し、塩胡椒を振って軽くフライパンで焼く。魔力コンロは魔力を流せば火加減は思いのまま。なので、元の世界のコンロより優秀。
 野菜を適当に洗って千切り、皿に盛る。
 「あとは…」
 甘味が足りないと感じ、瓶入りのジュースを別の冷蔵ボックスから取り出して注いだ。
 こちらは少し前に街で買ったもので、持ち運び用のさっきのものより大きい。ミニ冷蔵庫サイズ。
 「あ、そろそろ魔力切れそう」
 んむむむむ…!と、魔力を注ぎ直してから、パタンと蓋を閉める。

 「よし!」

 これで朝食が揃った。

 「いただきます」


 食事が終わると、手早く食器を洗う。
 木の皿やボウル、カトラリーは、直ぐに洗わないと痛んでしまう。
 洗い終わったら、丁寧に拭いて棚に仕舞う。
 「ふう」

 今日は何をしようかな。

 「あっ、洗濯…」

 そうだ、今日はシーツを洗うと、昨日決めたんだった。

 『そうと決まれば』と、私は寝室にシーツを取りに行く。ついでに枕カバーと脱いだ寝間着も抱え、洗面室へ向かう。
 「ていやっ!」
 大きな球体の扉を開けて洗濯物を全て入れ、洗剤を入れて扉を閉め、魔力を注ぎ込む。
 「…っ、よし!」
 必要量の魔力を注いだら、洗濯機は自動で動き出す。魔力の少ない私には、この作業、ちょっと疲れる。少し息が上がっている。


 まあ、出来るまでは少し掛かるから、その間に本の続きでも読んで、少し休もうかな。



 − 続く−
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