シャーペン作戦・結果

文字数 1,027文字

それから30分後。私はどきどきしながら自習室に向かった。今来たばかりらしい男子高校生の後から中へ入ると・・・ちゃんと我が席は空いていた!!作戦成功だ。よしっ。これで午後からも勉強できるぞ。嬉しさのあまり小走りに席へ駆け寄ろうとした、その時。
「あの。これ、忘れ物です。」
前にいた高校生が見回りに来ていた司書さんに声をかけた。その手にはなんと緑のシャーペン。私が置いておいたものだ。それを司書さんに手渡しながら、彼はちらりとこちらを見た。・・?なんだ今のは。
「僕、ここの席使っていいですよね?」
そう言いながら彼は椅子を引き、ドンッとリュックを上にあげた。中から教科書やノートなどを取り出す。
あぁ・・我が席が・・・・・
「ねぇ、このシャーペンあなたのでしょ?」
呆然としている私に司書さんが声をかけてきた。何度もここへ通っているため、すっかり顔なじみになった人の一人である。私はうなずいた。それをこちらに渡しながら、司書さんは言葉を続ける。
「今日の午前中にあそこの席で勉強してたから、そうだろうと思って。今シャーペンが無いことに気づいて取りに来たんだよね?」
純粋な好意を前にして、はい、と答える以外に選択肢はなかった。私はにこやかに礼を言って受け取る。手の中のプラスチックが妙に重く感じた。
はぁ。司書さんが去ったあと、私はため息とともに元・我が席を振り返った。そこに座っている男子高校生は、そんなことには露ほども気づかずノートにペンをはしらせ・・・と、たまたま顔を上げた彼と目が合った。
ニヤリ。
そして、彼は笑った。いたずらっ子のような意地の悪い笑みだった。数秒の後、私は彼が笑った意味を理解する。
・・・なんということだ!
彼はわかっていたのである。このシャーペンの持ち主が私だということも、私がわざと机に置いておいたということも。わかっていた上であえて司書さんに忘れ物だと言ったのだ。そう、自分がこの席を使うために。
なんて奴だ・・・!
私は一言文句を言ってやろうと思ったが、彼はもう集中しているのか、こちらには見向きもしない。
やがていつまでも立っている私を不審に思ったのか、周囲の人々がこちらをちらちらと見始めた。ずっと立ってて気が散る。じゃまだ。彼らのそんな心の声が聞こえた気がして、私は自習室を後にした。
            
            本日の作戦・失敗/学習時間・2時間37分(AM10:00~PM12:37)
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