シャーペン作戦・考案

文字数 1,734文字

この図書館には・・・自習席がある!
入口を入ってまっすぐ進み、返却カウンターと飲食スペースを通り過ぎる。料理の本棚を右に曲がってさらに直進し、目の前の階段を上がって2階へ。そして見えてきた部屋のドアを開けると…いつもの自習席である。開館の朝10時から閉館の夕方6時まで常に誰かがいるその場所には、無人の時間など存在しない。
さて、そんな自習室が最も混みあう時間は午後1時である。理由は分からない。でも、だいたい多くの人が12時頃に昼食をとる。その後、少し休憩したら勉強しに図書館へ行くか、皆がそう考えた結果、この時間にたくさんの人が集まるのだろう。まぁただの推測だが。そして、この午後一番の争奪戦を制した者が、閉館までの学習時間と静かなプライベートスペースを確保できるのだ。自習室に入り、多くの人を確認し、それでもなお、1席くらいは空いるかもと部屋をぐるりと回り、満席に絶望しながら外に出ていく。こんな人が後を絶たないのもこの時間が最も多い。
…で、そんな自習席事情をよく知っている私はのこのこと午後に図書館へのりこんだりはしない。それではどうするか?実は(当然といえば当然だが)この図書館にはあるのである。満席の反対、両腕を広げられ、左右の机を荷物置きにしても良いくらい余裕のある、ガラガラな時間が。


カリカリ…と私はシャーペンの音をひびかせながらワークの空欄をうめていく。一通り解き終えたので、腕に巻いている時計に目をやった。時刻は午前10時30分。周囲には私を含めて3人しか人がいない。そう、図書館の開館直後、朝こそが最も自習席の空いている時間なのだ。この時間からずっと席に座り続けていれば、午後になって人が増えてこようが、満席になろうが関係ない。必然的にここは私の席だ。争奪戦にはノータッチというわけである。
それから数時間、私は持参したプリントや問題集と格闘した。何とか予定していた量の半分を終わらせたところで時計を見る。午後12時37分。周りを見ると自習席の3分の2ほどがうまっていた。これだけの人がいながら、部屋は私語など一切きこえず静寂が保たれている。カリカリというシャーペンの音や、ペラリとページをめくる音のみがわずかに聞こえた。各々が目の前の課題に集中して取り組んでいるのだ。…あぁ、なんと素晴らしい。謎の満足感と数時間ノンストップで勉強したことでの疲労を覚え、私は大きく伸びをした。さて、少し休憩して昼食でも取ろうか。開きっぱなしの問題集を閉じてわきに寄せる。そして意気揚々とおにぎりやお茶の入ったコンビニ袋を机に置いた私は、おやっと机の上にはってあったシールに目をとめた。そこには、携帯電話の通話禁止、電卓・パソコンなどキー音のするものは使用不可などと自習席を使用するにあたっての注意事項が書かれていた。その一番下に、赤い文字でひときわ目立つように一筆。
飲食厳禁。食べ物や飲み物を机の上に置かないでください。
………。
ああああああああ!!……なんということだ。この図書館の自習室は飲食厳禁ではないか。昼食をとるためには1階の飲食スペースに行かなければならない。だが現在の時刻は午後12時48分。すでに席は満席に近く、残り数席しか空いていない。今こんな時に私がここを離れたら?おそらくこの貴重な空席を見つけたものは、獲物を見つけた空腹な肉食獣のごとく席に突進してくるであろう。そうなれば我が席が取られてしまう!……いやっ。ダメだ。何としてでもこの席は守らねば。一食くらい抜いたって良い。私はこのまま座っていることにした。…が。ぐぅぅぅぅぅ。決心してからわずか5分後。私のお腹が悲鳴をあげた。脳に糖分が足りない。空腹で頭がくらくらして目の前のワークに集中できないのだ。ご飯。ご飯。ご飯。頭の中で無意識に食べ物のことを考えていた。お腹はもう限界だ。しかし席は取られたくない。部屋の外に出るのだから、もちろん荷物はすべて持っていかなければならない。さぁどうすればいい?私はもう残りわずかであろう糖分を使い、頭をフル回転させた。何か良い方法はないか。そんなものでもいい。今すぐ実行できるような…。そして私は、ある1つの作戦を思いついた。
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