scene-07

文字数 1,212文字

おっと。怯えなさんな、お嬢さんがた
そ、その声は! 沙希ちゃん! 友だちのうちへ泊まりにいったんじゃ……
サッ! ガタン!
カチャッ……パタン
話はだいたい聞かせてもらった。ーー忘れもん取りにきたんだよ。ほら、あたしは人様ンちの枕で寝られねぇから
(わざわざ枕取りにきたのか!? 潔癖症気味なことは知ってたけど難儀だな、沙希ちゃん)
そこの子も今更純正人形のフリしてなくていーから。噛み砕くとつまり、バニシアちゃんは擬似でもいいから家族(ファミリー)とイチャイチャしたいんだろ?
“…………”
ん?
“あ、はい! そうですそうです”
! マジでお人形がしゃべってる? 実際に目の当たりにするとインパクト大だな
バ、バニシアちゃん、その人はこのうちのほんとの娘さんで……ご芳名を沙希ちゃんていって……
ご芳名って……ww
“ーーうん。知ってるわ。おばさまたちからあなたがたのプロフィールは大体聞いてる”
おっと、そろそろ行かないと。友だち待たせてるんだ。ーーバニシアちゃん、まぁ好きなだけ居るといいさ。悪影響とかはあまり気にせずに
“で、でも……ほんとにいいの?”
ああ。こんなあたしを嫌って嫌い抜いてくれたほうが、のちのち気分が楽になりそうだ
え……? 沙希ちゃん、いま、何て? よ、よく聞こえなかった……
……何でもないよ
ただな、バニシアちゃん。呪いでも何でも、ノブちゃんだけは邪険にしないよう注意してやってくれ。明日からは飯も普段どおりちゃんと用意してやるようにと
“わかりました。ちゃんと見張ってるし、やってみる!”
よろしく。じゃあ、もう行くわ
ーーパタン
私は沙希ちゃんの去り際の一瞥を見逃さなかった。沙希ちゃん、何とも言えない不思議な目付きでバニシアちゃんを見つめていたのだ
あんな表情は初めて見る。ーーとはいえ、私は沙希ちゃんのことを知らないも同然だった。年は離れているし学校も違う。実子同士でもない。つまり、常日頃から接点がほとんどないせいだ
“許可してくれたのはありがたいけど……何だか不思議な女性(ひと)ね。捉えどころがないっていうか……”
バニシアちゃんも同じ感想を抱いたらしい
“あたしが言うのも変だけど、あたしなんかよりもよっぽど人形っぽいっていうか”
あー、多分それだ。しっくりきた
事実、沙希ちゃんの部屋は人形やらぬいぐるみだらけだし、初めて顔合わせした日の彼女は赤い唇に黒髪ロングで、等身大の日本人形みたいだった
なりが変わっても沙希ちゃんの神秘性は少しも衰えていないし、きっと人形に対する思い入れは私なんかよりもよほど強いのだろう
(だから……バニシアちゃんを気の毒に思って受け入れてくれたんだろうな……)
“……ほんとにこれでいいのかなぁ?”
…………。いいんだよ
沙希ちゃんが受け入れてくれる気になってるんなら……私も従う
“ノブチャン、オネエチャン。……感謝します”
ーーその夜はさすがに冷え込みがひどかったので、いつもは遠慮して点けない暖房を入れた
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