第6話 天下無敵

エピソード文字数 2,098文字

「さ、さすがは五郎の兄貴。こんな沢山のお宝はあまりお目にかかったことがねぇ」

山賊の熊からすれば大した金額だろう。出されたお茶に手を出すことも忘れ、呆然と見ているのもやむを得ないところだろう。

「熊よ、欲しいだけ持っていってかまわねぇぜ。また大金持ちのお屋敷に、ちょぃとお邪魔すりゃいいだけのことだ」

「兄貴、本当にすまねぇ。お言葉に甘えて、いくらかお借りしていくぜ」

「良いってことよ。そちらの親分さんも、お宝はあって困るもんじゃねぇ。よろしかったらいくらでもお持ちくだせぇ」

「いや俺は要らねぇよ。気持ちだけいただいとくぜ。金にゃあんまり興味がねぇんだ」

「ほぉーっ、お宝に興味がねぇとは、こいつは珍しいお方ですなぁ」

「兄貴、親分は並の人間じゃねぇ。魔人さまだから、お宝なんざ必要ねえみてぇだな」

「熊よ、この魔人の親分さん、武士でもなさそうだし、本当にそんなにお強いのかい?俺と比べてもかい?」

五郎の顔は笑っているが、切れ長の目だけは獣のようにギラリと光る。

「いつも面倒みてくれる兄貴にゃ申し訳ねぇが、俺の惚れたふうすけ親分は魔人さまだ。兄貴といえども敵いやしねぇぜ」

「ほう、面白ぇな! 親分さんはそんなにお強いのかい? 親分さん、どうだろう、この俺とちょぃと遊んてくれませんかね?」

狭い四畳半に青白い殺気が走り、火花が飛び散るようだ。熊も止めるつもりは、はなからねぇようだ。笑って二人を眺めている。

「ふふふ、俺で良ければ相手になるぜ」

「そうですかぃ! じゃあ親分さん、外に面貸していただきましょうか」

粋な漆黒の着流しの前を捌いて、五郎が勢いよく引戸を開けて外に出る。

風介も後に続き、さらに熊も後に続いた。

月明かりが照らす道の向こうに、腰をやや屈め、右手を懐に忍ばした五郎が、既に隙無く身構えている。

五郎の身体からは、青白い殺気が立ち上る。おい、ちょいと遊びのはずじゃねぇのかい。

「五郎さん、いつでもいいぜ」

「親分さん、俺は手加減できねぇから、間違ったら勘弁してくださいよ。いくぜ!」

五郎が疾風の如く動く。10mほどあった2人の距離を一気に詰める。懐から月明かりに輝く光り物が筋を引いて風介の首元を襲う。

神速な五郎の動きも、まるでスローモーションだぜ。首元に近づく匕首を右掌で掴み鋭い刃を真ん中からへし折る。同時に左掌で五郎の鼻から右頬にかけて、撫でるように軽く叩いた。

人間の目からすると、目にも見えねえ速さだったのかもしれねぇ。瞬きの一瞬の内に、五郎が匕首を抜き放ち風介の首元を抉り、風介がその刃をへし折り平手打ちをかます。

五郎の体が5mはぶっ飛んだだろうか、鼻と口から真紅の血をまき散らして五郎が道端に倒れ込んでいた。

「親分、兄貴。それまでっ!」

慌てて止めに入った熊が、意識を飛ばした五郎に駆け寄り抱き起こした。

「兄貴、でぇじょうぶか?」

心配そうに五郎の体をゆすると、五郎もなんとか意識を取り戻した。

「お、おぅ。でぇじょうぶだ。すまねぇな」

「いくら兄貴でも魔人の親分が相手じゃ、勝てるはずねぇのはわかってただ」

「いや参った。俺も物心ついたガキの頃から、ゴロまいておくれを取ったことなどただの一度もねぇが・・・・・魔人の親分さんには、まったく相手にならねぇようだ」

顔半分が血に塗れた五郎が、熊の手を振りほどき道端に座り込んだ。

「魔人の親分さん、申し訳ねぇ、馬鹿の失礼を勘弁してくだせぇ」

なんだよ。土下座して許しを乞う必要なんかねぇのに。律儀な漢だぜ、こいつぁ。

「気にするねぇ、十分に手加減したつもりだったが、悪いな血を流させちまったな」

「親分、河内の五郎、魔人のあなた様に惚れちまいました。こんなバカな俺だけど、もし許してくださるなら、あなた様の子分にしていただけねぇでしょうか?」

「親分、この五郎の兄貴も俺と同様、なんとか子分にしてやってくだせぇ。お願ぇだ」

こいつは熊より更に使えそうだ。身が軽いし腕も立つ、それにこいつを使えば金には困らねえかもしれねぇな・・・・・

「ちっ、しょうがねぇな。五郎、こんな俺で良かったらついて来な」

「おう、ありがてぇ! 親分。つまらねぇ漢ですがよろしく頼んますっ」

「五郎の兄貴、良かったな。これで兄貴も俺も、ふうすけ親分の身内同士だぜ」

嬉しそうに熊が五郎の手を握りしめる。
何が嬉しいのか俺には分からねぇけどな。

時の扉を開いて、この世界に飛び込んでからまだ2日足らず。熊に五郎、そしてイヌコロと気合が入った子分ができちまった。まあ、根性決めてやるっきゃねぇな・・・・・

古い長屋、時代がかった町並み。明けきらない暗い夜空から、やたらでかい月がスポットライトみてぇに俺を蒼く照らしている。

何処の世界だか、いつの時代だか、まったくわからねぇが、ふっ、天下無敵、魔人の風介さまかぁ!まんざら悪い気分じゃあねぇな。

まるで浮世絵みてぇなこの世界。月に向かって大見得を切りてぇくらいだぜぃ・・・・・
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