前世譚1 ❀ 星 と 修道女

文字数 1,150文字

これは、或る修道女の叙情曲。



微風(アリエッタ)が、眠る「へささやいた、過去の物語だ。

どうか忘れないで。

誰よりも愛しい貴方。

祈りと空想にふけっていた彼女は、そっと目を開けた。


修道院の窓から、晴れた青空を仰ぐ。

(彼の友だちがいらっしゃったわ。)

空から1羽の鳩が舞い降りる。


窓を開け、鳩へ手をのばした。

いらっしゃい、待っていたわ。

【魔法使いさん】は、お元気?

くるっ、ぽっ、ぽぅ
【彼】のように、あなたの言葉が分かったら良いのに。

鳩の頭をなでる。

懐かしいわ。

もう随分前のことに思えるの……変ね。

【彼】のことを思い出すと、胸が痛んだ。

修道女になる前は、故郷の田舎町で、両親と本屋を営んでいた。


あれは春の日のこと。


  コンコンッ、コンッ

(どこからか、ノックの音が……。)
2階の自室で、裁縫をしながら眠気を催していた彼女は、その音で目が覚めた。
くるっぽう
あら、あなたね。いらっしゃい。
足に手紙をくくりつけた鳩を、部屋に招き入れる。

手紙にはこう書かれていた。

アリエッタへ


星を見に行きませんか? 今夜はよく見えそうです。

まぁ、ぜひ。 

鳩さん、ちょっと待っていただける?

返事を書くと、鳩の足に結んだ。
魔法使いさん宛よ。配達お願いします。
くるっ、ぽっ、ぽぅ

飛び去る鳩を、窓辺から見送った。


そして夕闇が訪れる頃。


アリエッタの家に【魔法使い】がやってきた。

こんばんは、アリエッタ。

リカルド、お誘いありがとう。

行きましょう。

星がよく見える場所へ、案内します。

手をつなぎ、歩き出す。


町のはずれ、星明りが降り注ぐ草原に、二人は寝そべった。

あれが白鳥座のデネブ、そしてあれがこと座のベガ、わし座のアルタイル。東の空の3つの星を結んだものが、夏の大三角です。
すごいわ。リカルドは物知りね。

昔から星が好きなんです。

でも僕ばかりが話していて、アリエッタは退屈ではないですか。

本を読んでも、どの星か分からなかったの。

もっと教えて、リカルド。

もちろん。

アリエッタが見つけたい星はどれですか。

アリエッタは、見つけられなかった星の名前を言った。


リカルドはその場所を教えてくれた。

(なんて心地よいのかしら。このまま夜が続けばいいのに……。魔法使いさんの星の話に、ずっと耳をかたむけていたい。)

うとうとしていると、となりで寝そべっていた彼が、急に起き上がった。

嗚呼……雨が降りそうだ。
夜空は雲一つないのに、リカルドが突然そう言った。

こんなに星が綺麗に見えるのに?

ええ。降りますよ。

残念だわ。

神さまは野暮ね。

二人は、町の灯りへ向けて歩き出した。
アリエッタ、足元に気をつけてください。
彼はランタンを掲げて先を照らし、アリエッタがつまづかないよう気遣った。
あら、雨が……。

雨宿りしましょう。

こっちです!

二人は、道沿いの空家に逃げ込んだ。
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登場人物紹介

帯刀 咲良  (たてわき・さら)


 高校2年生、剣術道場の娘。

ジョン・リンデン


イギリス人

インターポールの捜査官。

天羽 理々(あもう・りり)


高校2年生、咲良の親友

合気道部

ラルフ・ローゼンクランツ


ドイツ人

インターポールの捜査官。

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