第2話 召喚前

文字数 2,066文字

 「またこの順位か・・・・・・」

 廊下に張り出された期末テストの順位表を見つめて、葉山優斗は小さくつぶやいた。

 高校一年、二度目の期末テスト。平均点の順位は二十七位。同じ学年の生徒の人数は百九十一人中で。
 悪くない順位のはずだ。だが、優斗が目指していたのは学年十位以内。自分なりに勉強もしているつもりではあるが、どの学科の中間、期末テストも同程度の順位であった。

「まあいいか・・・・・・」

 優斗は自分で悔しさを忘れるように小さく呟く。
グラウンドの横を通り、校門を目指した。グラウンドでは、すでに色々な部活が活動を始めていた。
 優斗の目に、サッカー部の活動が入ってきた。
 中学までは、優斗はサッカーをやっていた。自分なりには精一杯やってきたつもりではあったが、こちらもまたレギュラー入りをした事はなく、試合の時はチームメイトの応援をやっているだけだった。そんな自分の実力も要因となり、高校でサッカーを続けることはなかった。

 「おーい、優斗」

 サッカー部の練習を見つめていた優斗に声が掛けられた。
 クラスは違うが中学からの付き合いである、山崎だった。

「これからもう帰るのか?」

「ああ。もう帰るけど?」

「先週あれの新作が出たの忘れてるだろ」

「あれ? ああ、そういや新作ゲーム出てたな」

 山崎には他人も含めてテストの順位などどうでもいいようだった。だが、そんな山崎の言葉で優斗は期末テストのために買うのを控えていた新作ゲームが発売されていた事を思い出した。

「もう、好きなだけ遊べるだろ。買いにいこうぜ」

「そうだな」

 
 校門を出ようとした所で、山崎はぽつりと呟いた。

「葉山……お前まだサッカーに興味ありって感じか?」

「え?」

「まあ、お前もあんな事さえなけりゃ、まだサッカー続けてただろうしなあ」

「まさか」

 優斗は嘲るような声を出していた。

「俺の実力じゃ、どうやっても二軍止まりだったから、どっちみち辞めてたよ」
 
 「そんなもんかねえ」

 この話は山崎もここで止め、あとは他愛もない話をするだけだった。


 学校を後にした優斗達は街のゲーム屋へと向かった。

「でも、お前もまだ買ってなかったとは以外だったよ」

 優斗は素直に自分の思った事をそのまま口にした。山崎は期末テストだから勉強するとか、ゲームを控えるなどとは無縁の生き方をしているはずだからだ。

「そりゃ、俺だって発売日に買って遊びたかったさ。テスト中にゲームなんかしてたら、さすがに親がうるさいだろ。買ったらやっちまうだろうしさあ。お前こそ買ってないのかよ。お前の家なら、誰からも文句言われないだろ」

 優斗は一人でアパートに住んでいる。
 両親は、父親の仕事の都合で海外で暮らしていた。以前は一緒に暮らしていたが、中学を卒業すると同時に、待ってましたと言わんばかりに優斗を置いて海外にいってしまった。そのため両親と顔を合わせたのは、日本に戻ってきた年末年始くらいだった。
 酷い親と言えばそうなのかも知れないが、両親は両親なりの子育てに対して哲学があったらしく、それに基づいての行動のようだった。不思議と優斗も両親に対してどうこう思うような気持ちはなかった。

 そのような事情もあって、優斗の生活は一人暮らしの大変なものであると同時に悠々自適な物だった。

「ま、さすがにテスト前は俺も買ったらヤバいかと思って」

 さすがに、好きなゲームを手元に持っておきながらプレイを我慢する自信はさすがになかった。
 
――来たれ。

 突然、優斗の耳元で女の囁きのような声がした。
 優斗はぎょっとして振り返ったが、優斗の背後には人々の雑踏があるだけだった。確かにその中には女性もいるが、先ほどの声は確かに耳元で聞こえた。

「どうした?」
 
 隣を歩いていた山崎が尋ねてきた。

「いや、別に・・・・・・」

 気のせいかと思い、優斗は再び歩き始めた。

――来たれ。来たれ。我が同胞。

 また耳元で女の声が聞こえた。しかも、今度は先ほどよりもはっきりと聞こえた。

「誰だ?!」
 
優斗は振り返るがやはり誰もいない。

「さっきからどうしたんだ?」

 山崎は怪訝そうに優斗を見ていた。

――来たれ、我が刃。

「おい、お前には聞こえないのか?!」
 
 優斗は山崎に怒鳴るが、山崎はきょとんとしている。だが、女の声は続いていた。

――来たれ、我が子。

「何だよ、この声は?!」

「どうしたんだよ、葉山?」
 
 もう、女の声は隣にいる山崎の声よりも明瞭に、優斗の耳元で聞こえる。

――来たれ、我が臣。
 
 理解できない事態に、優斗の背中に冷たい物が流れる。
自分の耳が、いや頭がおかしくなってしまったのではないか。優斗が戦慄した時、また声が響く。

――我が呼びかけに応え、来たれ、我が希望よ。
 
 次の瞬間、優斗の目の前に漆黒の闇が広がった。

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