二 夢

文字数 848文字

 暗い通路に足音がひびく。リノリュームのフロアを白いサンダルの足が歩を進める。
 脚はジーンズに包まれている。視線を足元から上へあげると、静寂した通路の空気をかき分けるように進む身体から、歩みとともに白衣の裾がチベットの五色の祈祷旗のようにはためく。
 通路の先を見るが暗くて何も見えない。ふりかえっても背後には何もない。どこから歩いてきて、どこへ歩いてゆくのか、私は何も見えないし、わからない・・・。

 目が醒めた。ベッドサイドの時計は午前〇時だ。
 私は先の見えない通路を歩いていた。歩いてたのは病院の通路だ。白衣を着てた。そして悩んでた。何を悩んでたんだろう?明日もファミレスでバイトだ。眠ろう・・・。
 私は眠った。

 暗い通路に足音がひびく。リノリュームのフロアを白いサンダルの足が歩を進める。
 床を見たまま暗い通路を歩いていると気が滅入る。考えれば考えるほど気が滅入る。
いつも聞かされるのは、動かない身体を嘆く声と、なんとかしてくれとすがる思いだ。
 何かがまちがってる。いくら説明しても理解してくれない。身体を動かしているのは神経組織と神経回路だ。今まで動いていたという記憶や意識じゃない。
 神経組織が壊れたから、リハビリしてもういちど最初から神経組織と神経回路を作らなくちゃいけないのに、身体が動かないと決め込んだまま、患者はリハビリの説明を聞きもしない。朝から晩まで、患者から愚痴や嘆きを聞かされることばっかりだ・・・。

 目が醒めた。時計は午前二時。
 私は理学療法士になっていた。やっぱり悩んでた。理学療法士にむいてないのか?
 私はバカみたいに明るい性格だ。深刻に何か考える性格じゃない。患者の悩みまで考えてやれる性格じゃない。そんなことができるなら、田村さんに参考書を紹介してくれなんていわず、自分で調べてたはずだ。私は理学療法士にはむかないのだろうか・・・。理学療法士でないなら、中学と高校でバスケットボールだけしてきた私に、何の仕事がむいてるだろう・・・。私はしばらく眠れなかった。
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