第1話 初めてだから、痛くしないでね……

文字数 1,548文字


 僕は今年、40歳になる。
 最近になって、気になることがある。
 それはわき毛だ。

 タンクトップで、鏡の前でポーズして見ると、ニョキッとボーボーくんがはみ出る。
 なんか臭そうだし、僕は切りたい衝動を抑えられなくなった。
 だから、持っていたハサミで、じょきじょきと切りまくる。(幼児が使うような小さなやつ)
 洗面所で切ったせいか、詰まってしまった……。
 割り箸を使い、全て除去したが。

 仕事中の奥さんに相談した。
 ハサミで切ったとはいえ、まだまだボーボーだ。
「え? なんで今更切るの!?」
 奥さんは突然の告白に驚いていた。
「だってわき毛があるから、臭い気がするんだよ。それに軽くなる気がする。だから切りたい」
 僕は妻がいつもムダ毛処理をしている方法を聞いた。

 女性用のカミソリがあるらしい。
 そういえば、妻は夜な夜な風呂場でやっていたような……。

 僕は洗面所からピンクのカミソリを発見。
 風呂場で、ボディソープを脇に塗り、恐る恐る剃ってみる。
 だって脇って色んな血管があって、傷つけると、神経とか痛めると聞くから。

「じょりじょり……」

 これがなかなか難しい。
 剃っては、水で流し、剃っては、水で流し……の繰り返し。

 30分間ほど剃りまくって、ようやく黒いもじゃもじゃは無くなった。
 だが、まだ縮れ毛がいくつも残っている。

 帰宅した妻へ、すぐ脇を見せてみた。
「キンモッ!」
 うぇ~ と苦い顔をされてしまった。

「ねぇ、これからどうするの?」
 妻はカミソリを使い終えたあと、いつも開かずの間で、なにやら一人、後処理をしていたはず。
 ドアを開けようとすると、
「味噌くんは絶対に入ってこないで!」
 といつも怒られていた。
 妻曰く「脇は墓場まで持って行く」そうな。

 確か、その時の音は、かなり凄まじい大きな音だった。
『ガガガガガッ!』
 と。
 
 僕は電動シェーバーみたいなので、剃っているのかと想像していた。
 だが、違うらしい。

「あれのこと? 剃るんじゃなくて、抜くんだよ?」
「ウソ!?」
「本当だよ。電動のやつで抜くの」
「痛そう!」
「そら、痛いよ。初めは血も出るからね」
「えぇ……」


 晩ご飯を食べ終えたあと、妻に再度、訊ねる。
「本当に抜くの?」
「うん」
「じゃあ怖いから、妻子ちゃんが抜いて」
「いいよ」


 子供が寝静まったダイニングキッチンで、僕は仰向けに寝転がる。バンザイ状態で。
 妻が小型の機械を持ってきた。
 スイッチを入れると、『ガガガガガ!』と恐ろしい音が鳴り響く。

「こ、怖い! ゆ、ゆっくりして!」
「わかったから、動かないで。痛かったら、教えてね……」
 そう言って、妻は僕の左脇に機械を当てる。

「あっ……」
 思ったより、痛くない。
 むしろ、気持ち良い。
「どう?」
「すごく良いです……」
「ハハハ! 長い毛だから、面白いように抜けるわ!」
 どうやら、妻のムダ毛処理魂に、火がついてしまったようだ。

 結局、反対側の脇も抜くことになった。

「あっ……あっ……」
「痛くない?」
「まだやめないで。もっと抜いて」
「え~ もう赤いよ? 初めてだから、今夜はこれぐらいにしなよ」
「はい……」

 パイ●ンぽくなった僕の脇を、再度妻に見せつける。
「どう? 女の子ぽい、キレイな脇になれた?」
「えぇ……黒いし、そこまではキレイじゃない。むしろ、キモい」
「そうかな? 面白くない?」
「いや、キモい。あと、まだ縮れ毛が残っているから。もし、女の子だとしたら、アウトだね」
「え、じゃあ、女の子ってデート前とかに、毎晩こんなことするの?」
「毎日はないけど、まあ三日に一度ぐらい?」
「じゃあ、これで僕も乙女化できたね♪」
「それは違うと思う……」


 人生、何事も経験だと痛感しております。
 わき毛を抜くの、とても気持ちいいですよ。
 お試しあれ。

  了
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